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平幹二朗 平幹二朗

平幹二朗俳優ひらみきじろう

大河ドラマ 『樅ノ木は残った』

大河ドラマ 『樅ノ木は残った』

 『樅ノ木は残った』は、私にとっての最初の大河ドラマ出演作品です。内容は、今から三百年前の伊達藩(仙台)で起こった有名なお家騒動を題材に、命をかけて伊達六十二万石のお家安泰を守った家老・原田甲斐の生涯を浮き彫りにするというもの。でも“原田甲斐”といえば、歌舞伎の『伽羅先代萩(めいぼくせんだいはぎ)』の仁木弾正など、希代の逆臣として有名ですよね。そんな甲斐の生きざまを、新たな視点で見直そうとした意欲作でした。

 実は私は、偶然にも出演が決まる以前に、原作である山本周五郎さんの小説『樅ノ木は残った』を読んでいたんです。当時は劇団四季の『ハムレット』などに出演していた時期だったと思います。この小説を読み終え、いつかこうした人間味にあふれる時代作品がドラマ化されるなら「ぜひ自分も出演したい」と、考えていたのです。その頃は、舞台以外には、東映のチャンバラをメインにした娯楽的な時代劇への出演が続いていたので、俳優としてそこから脱却したかったんですね。そうしたときに、この『樅ノ木は残った』に声をかけていただけた。本格的な文芸作品への出演が叶い、俳優としての人生を変えてもらった運命的な作品なんです。

 先日、仙台で舞台公演があって街を歩いていたところ、急に見知らぬおじいさんに抱きつかれて、「会いたかったんです! やっと会えた」と(笑)。そばにいた奥様らしき方が、「主人は“樅ノ木”を観て以来の平さんのファンなんです」とおっしゃる。放送から46年経っているというのに、今でもご当地・仙台に行くと当時オンタイムで御覧になった方に遭遇することが少なくありません。私も原田甲斐という人の人生を、1年間、魂を込めて演じたので、人の記憶に残る仕事ができたことを、俳優としてとても幸せに思っています。

 また、当時“サユリスト”と“コマキスト”とに分かれて世の男性ファンを二分した吉永小百合さん、栗原小巻さんも出演されていました。ドラマでは原作から少し離れて、原田甲斐の青春時代から描いているのですが、その若き甲斐と偶然出会い、身分違いの恋に落ちる情熱的な激しさを持つ女性、たよ役を小巻さんが演じられました。対して、吉永さんが演じた宇乃は、親を小さい頃に目の前で殺され口がきけなくなった女性。幼少期から親代わりのように育ててくれた甲斐に、やがて女性としての思慕を抱いていくんです。甲斐に恋焦がれながら、結ばれぬ運命に半狂乱になっていくたよを“動”とすれば、甲斐の死後、洞水和尚(辰巳柳太郎)から「樅の木を、甲斐と思って抱いてあげなさい」と言われ、そっと木を抱きしめる宇乃のひたむきな愛は“静”でしょうか。私もそんな二人に対照的な形で愛される役を演じられて、俳優みょう利に尽きる、といえますね(笑)。

 自分の中で印象深いのは、やはり甲斐のラストシーンです。甲斐らは、老中評定の場に乗り込む決意をしていたところを悟られ、控えの間で幕府側の人間に暗殺される。深手を負いながらも甲斐は藩を守るため、「これは、みんなわたくしがやったことです(中略)。このわたくしが、乱心してこの刀でみんなを斬った……」と語り、必死の形相で伊達安芸(森雅之)の脇差を抜いて、自らの血をなすりつけ落命していく。とても壮絶な最期です。確か、私にとっても収録の最後の日だったと思います。

 実はこの撮影の少し前に、甲斐の母・津多役を演じられた田中絹代先生が、お家断絶のため他家へお預けとなる場面を演じられていました。家の門の脇の小さい戸をくぐり、頼りない足取りで出てきて、家をじっと見つめるだけのシーンなのですが、その悲しい境遇が全身から深くにじみ出ている。私はすっかり心を奪われて、田中先生のマネージャーに「どうしたら、あんな雰囲気が出せるのですか」と質問したのです。すると、田中先生は本当に一日か二日の間、なにも召し上がらずに憔悴しきって役を演じられていた、と教えられまして。私は舞台出身なので、映像の人はそういう風に体を変えてまで役になりきるのだと、とても感銘を受けました。

 その翌日が、前述の甲斐のラストカットの収録でした。私としては甲斐の最期には、苦しみのあまり目が血走ったようにしたいという思いがあったので、前日から一睡もせずに収録に臨んでみたんです。体は疲れつらかったですが、斬られたときに「うーん」と力んだら、伊達安芸のもとに這い寄っていく際に望み通り白目が真っ赤に染まった。田中先生のお姿に学んだたことで、満足のいく甲斐のラストを撮り終えることができたんです。今残っている総集編でも甲斐の血走った眼差しがしっかり映っていますので、もしご覧になる際はご注目いただければ幸いです。

原田甲斐の母・津多役を演じた田中絹代

大河ドラマ 『武田信玄』

大河ドラマ 『武田信玄』

大河ドラマ初出演となった当時25歳の中井貴一さんが、主演の武田信玄役に大抜擢。平さんは、信玄と確執のある父・信虎役を熱演。大ヒット作となった。

 実はこの『武田信玄』は、当時は伏せていた肺がん手術直後の出演でした。いわば復帰第1作なんです。この脚本を手掛けられた田向正健先生とは不思議なご縁がありました。松竹の現代ドラマに私が初めて出演した「夜の片鱗」(1964年)という中村登監督の作品があったんですが、その当時、日生劇場の浅利慶太さん演出の舞台『アンドロマック』の稽古とかぶっていて大変な忙しさだったんです。松竹の大船撮影所と日生劇場を行ったり来たりする私のスケジュールを、なんとかよい方に調整してくれようとする中村組の助監督さんがいまして。すごく親切な方だな、となんとなく記憶していました。それから数十後、脚本の田向先生にご挨拶したところ、私に「(僕を)覚えていますか?」とおっしゃる。驚いたことに、その親切にしてくださった助監督さんこそ、若き日の田向先生だったんです。長いお付き合いで、私の芝居もよく見てくださっていた田向先生には、さまざまな作品で演じがいのある役柄を書いていただきました。

 武田信玄の父親の信虎も例外ではありません。とてもエキセントリックな武将でした。また、テレビなのに桜一本と桜吹雪が舞い散る中での乱心のシーンなど、まるで舞台のような幻想的なセットで撮影したことも、とても印象に残っています。信玄役の中井貴一さんが、この作品を演じる中で、俳優としてどんどん成長されていったことも忘れられません。

放送90年大河ファンタジー 『精霊の守り人』

放送90年大河ファンタジー 『精霊の守り人』

上橋菜穂子原作の『守り人シリーズ』を題材に、2016年から3か年にわたって3部作構成で放送される。主演は綾瀬はるかさん。平さんは、聖導師役として出演。脚本は大森寿美男。

 これまでファンタジー作品に出演したことがないので少し戸惑いましたが(笑)、これもまた新たなチャレンジだと思って演じています。ファンタジーの登場人物とはいえ、脚本や演出の皆さんも、聖導師のキャラクターは「リアルな方がいい」と一致していたんです。そこで、最初は黒幕的な雰囲気や、神々しいということではなく、小さい頃から育てた帝(藤原竜也)のことをどこか慈愛を持った心で見ているというか、力足らずな帝の後ろ盾として国政をよき方に操る、というイメージで演じています。アニメなどとは少し違うという感想もあるようですが、架空の世界の物語。さまざまなイメージをふくらませて、皆さんに楽しんで見ていただければうれしいです。放送はあと2年ありますから、私も健康に気を付けながら(笑)、聖導師役を演じきりたいと思います。

大河ドラマ 『国盗り物語』

大河ドラマ 『国盗り物語』

もう42年も前になるんですね。この作品の放送がスタートしたのは、1973年の1月。オイルショックの少し前で日本は右肩上がりの好景気にわき、高度経済成長の爛熟期にありました。原作の司馬遼※太郎さんの 『国盗り物語』というタイトルの響きも勇ましくて、群雄割拠の下克上物語が、競争主義の当時の日本の空気にピタリとはまったんですね。ご覧になっていらっしゃる方々から大きな反響をいただき、時の昭和天皇までが直接収録をご観覧されたほどの人気のドラマとなりました。
(※遼=二点シンニョウ)

私にとっては『樅ノ木は残った』(70年)に続く、2作目の大河ドラマ出演作です。“樅の木”で演じた原田甲斐が、思慮深く重厚な人物像を役作りに必要としたのに対して、“国盗り”の斎藤道三は野心にあふれ、どこまでも豪胆でエネルギッシュ。細かく演技プランを積み重ねるというよりは、私自身がテンション高く楽しみながら演じれば、きっと道三という男を表現できると感じていました。

この『国盗り物語』が放送されるまで、斎藤道三はあまり知られた存在ではなく、どちからというと歴史に埋もれた武将だったんです。最初は寺で修行していた道三がまずは京都の油問屋を乗っ取り、国盗りの野望を胸に金に女にと策謀の限りを尽くし、ついには美濃一国の主へ。“美濃のマムシ”の異名を取った生き様は痛快だったのか、とても好評をいただきましてね。私の出演は、第1話~15話あたりぐらいまでだったのですが、今でもときおり「『国盗り物語』の主人公は、斎藤道三でしたよね」と、当時見ていた方から声を掛けていただくことがあります。

実は私は俳優になる前に、広島弁が強すぎるから来年もう一度受けなさいと言われ、俳優座の養成所を1度落ちているんです。途方にくれ、あまりしたことのないアルバイトを探したんですが、それが油売りの仕事だったんですよ。もちろん戦国時代とは違いますが、一斗缶を自転車に積んで、蒲田あたりから田園調布の住宅街目指して売りに出て、値段の交渉まで自分でするという大変な仕事でした。

道三は歌いながら、一文銭(寛永通宝)をつないだものの穴を汚さずに油を見事に注いでみせるというパフォーマンスで油売りで大成功を収めますが、私はまったく。夕暮れに、油の一斗缶をお屋敷の石垣にぶつけてこぼしてしまって途方にくれたことも。すぐに辞めてしまいましたが、道三のような商才がなかったおかげで今こうして俳優ができているのかもしれません(笑)。

ドラマでは道三がのし上がるたびに、衣装も住むところも、女性も変わりました。正室の小見の方は山本陽子さん、道三が乗っ取る油屋・奈良屋の女主人お万阿を池内淳子さんが、さらに側室の深芳野には三田佳子さんと、そうそうたる女優さんたちに囲まれて、僕も幸せでしたね(笑)。道三の娘・帰蝶(濃姫)役には、当時大河ドラマに初出演ということでも話題となった松坂慶子さんでした。松坂さんもまさに帰蝶の名にふさわしい、蝶のような華やかな姫君で。そんな娘を、道三は隣国尾張を手にするために“うつけ”と評判だった信長に差し出すわけです。信長役は高橋英樹さん。高橋さんも若く、とても凛々しかったですね。

  • お万阿(池内淳子)
  • 深芳野(三田佳子)
  • 帰蝶(松坂慶子)

道三としての最後の収録は、うつけと聞いていた信長と対面する場面だったと記憶しています。最初は小屋から、うつけの婿殿が到着するのを見ていると、ひょうたんを腰にぶら下げ乱れた着物姿で裸馬に乗っている。まあ評判通りのうつけぶりなんですよ。それがいざ座敷に現れた信長は正装で、高橋さんの凛々しさも加わって見事な男ぶりでね。まさに私も道三の心境のさながらに、すっかり“高橋信長”に感服して、次はあなたの時代です、という心境で現場を去ったように覚えています。

天下盗りの夢は、信長のあとは火野正平さん演じる秀吉や、寺尾聰さん演じる家康に引き継がれていきますが、ほんとうに制作陣も俳優たちも若さと活気にあふれ、熱い現場でした。その空気感をぜひ楽しみながらご覧下さい。

大河ドラマ 『信長 KING OF ZIPANG』

大河ドラマ 『信長 KING OF ZIPANG』

織田信長の波乱の生涯を、ポルトガル人宣教師の目を通して新しいタッチで捉えた作品。主人公信長役は緒形直人さん。平さんは架空の人物、祈祷師・加納随天役を怪演した。

加納随天は史実にはない、架空の人物。信秀・信長の側近で、予知能力者と信じられていた男です。随天は信秀の運命を吉に導くことで自らものし上がりたいと考えていたのですが、信秀の死後、その道も危うくなります。また、随天には信長の心は読み切れなかったのです。この作品の原作・脚本を手がけた田向正健さんには、それまでも何度か作品を書いていただいて共演をしていたのですが、この『信長』の随天もエキセントリックにおもしろく書いてくださった。私は、自分のアイディアで随天の雰囲気を出すために、白いコンタクトを入れて演じたのですが、これが痛くてね。撮影中ずっと入れているわけにはいかなないので、撮影シーンがあると入れて、終わったらすぐに外して、と。自分で言い出した手前、頑張ったのですが、辛かった思い出があります(笑)。

実は信長役の緒形直人さんとは縁が深くて、彼のデビュー作、映画『優駿 ORACION』でも共演したり、その後もドラマなどで何度かご一緒しているんですよ。意外にもお父様とは共演はないのですけれど。随天の最期は矢ぶすまとなって、本能寺の炎の中に信長とともに消える。織田信長を描いた大河ドラマは数あれど、怪しさの漂う斬新な切り口の作品だったと思います。

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