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中村雅俊 中村雅俊

中村雅俊俳優なかむらまさとし

大河ドラマ 『春の波濤』

大河ドラマ 『春の波濤』

 川上音二郎のことは、“オッペケペー節”や自由民権運動を行ってきた人だというくらいの知識はありましたが、奥さんが貞奴だったとは知りませんでした。このころの僕は時代劇の経験も多少積んできていたので、音二郎のように明治時代に生きた人物を演じるよりも、もっと古い時代の人物を演じるほうがラクだと思っていました。実在の人物の場合、いまの自分から遠いほど芝居に入りやすかったんです。音二郎は比較的、現代と距離が近い人物でしたから演じることが少し難しいかなと。ただ、彼は“川上座”という劇団を主宰していたので、役者をやっている自分と共通する部分もあり、そう考えると音二郎を演じることがすごく楽しみになってきました。

 フランスのパリでロケをしたのですが、明治時代の洋装での撮影だったので、パリの人たちが興味津々といった様子で見ていましたね。「俺たち目立ってるな(笑)」と松坂慶子さんと話しながら撮影した記憶があります。パリの公園でロケをしたときは、日本食のレストランで弁当を作ってもらってみんなで食べたり、夜はリドというフランスで有名なショーを観に行ったりしました。言葉がわからないのでプロデューサーがタクシーの支払いでもめたりしたこともありました(笑)。10日間くらい行っていたでしょうか。すごく楽しかったです。でも日本に帰ってきてからは残念なことに僕の周りは男ばかりになってしまって(笑)。川上座のメンバー役だった村上弘明さん、四谷シモンさん、尾藤イサオさん、ケーシー高峰さんたちと、ドラマ衣装のまま渋谷の街に出てご飯を食べに行ったり。ケーシーさんは僕が撮影していると、カメラの横でいろんな顔をして笑わせようとするんです。笑わないようにと必死でしたが、そんなことも含めて本当に和気あいあい、仲が良かったです。

  • パリで 貞奴役の松坂慶子さんと
  • 川上音二郎一座

 大変だったのは、毎回、川上音二郎が演じる劇中劇。自分自身が役者ですから、役者役を演じると「わかるな」という部分と「ここは違うよな」という部分が台本の中に出てくるんです。でも脚本の先生が台本に書かれていることだから、僕が違うと思っても別の理由でこうなっているんだろうな、と考えて演じるようにしていました。劇中劇で印象的だったのは1900年のパリ万国博覧会のシーンで川上一座が“切腹”のパフォーマンスをやったこと。お客さんの前で白装束を着て、刀を置く台をお尻の下に持っていく。これは自分が腹を斬ったときに後ろに倒れないようにするためですが、その一連の動きをやりながら腹を斬る儀式を芝居として見せたんです。このシーンは自分で演じながらもけっこうな集中力が必要でした。当時のパリの人たちもすごく驚いて見ていたのだろうなと思います。。

  • “ハラキリ”はパリ市民の大喝采を浴びた

 当時は、月曜から木曜までが『春の波濤』の撮影、そして金曜から日曜までは毎週コンサートツアーというスケジュールで動いていました。ところが、音二郎の芝居は怒鳴ることが多かったことから喉に負担がかかってしまい、この年のコンサートは途中で延期することになってしまったんです。『ふれあい』のシングルデビュー以来、今年のシングル『ならば風と行け』まで、42年間、ずっと音楽と芝居の両方の活動を続けてきましたが、自分のコンディションが原因でコンサートを延期したのはあの時だけですね。このことがきっかけで、喉を大事にしないといけないとタバコを止めました。そういう意味でも思い出深い作品ですね。

 貞奴役の松坂慶子さんは芸者でありながら、日本初の女優として大成していく難しい役でした。ディレクターやスタッフ、僕も交じって「今後の『春の波濤』をどうしようか」とよく話し合っていました。まぁ、飲み会みたいなものだったんですけど(笑)、「役者の意見を聞かせてくれ」と言われて参加していたことを覚えています。世間で『春の波濤』は貞奴と音二郎、福澤桃介と房子の四角関係と言われていましたが、風間(杜夫)さん演じる桃介と、僕の音二郎のわだかまりはないんですよ。すべては貞奴のみぞ知るというか(笑)。でもテレビを観ている人はすごい関係だと思っていたみたいですね。今思うとNHKがやらないようなドラマの内容でもあり、珍しい大河ドラマだったのかもしれないですね(笑)。

  • 水泳や乗馬もたしなんだ貞奴
  • 風間杜夫さん演じる桃介は貞奴の元・恋人
  • 桃介の妻・房子(檀ふみさん)は貞奴に烈しく嫉妬する

木曜時代劇『風の峠~銀漢の賦~(かぜのとうげ ぎんかんのふ)』

木曜時代劇『風の峠~銀漢の賦~(かぜのとうげ ぎんかんのふ)』

 かつて親友だった日下部源五と松浦将監。義を守った男と出世を望んだ男の対決を描く本作。中村雅俊さんは不器用に生きる源五を演じ、将監役の柴田恭兵さんと『さすらいの甲子園』(1980年/日本テレビ系)以来の共演でも話題を呼んだ。

 久々に熱い役ですごく楽しかったです。70年代に演じていた青春ドラマのようで、中年男の青春を演じた感じ(笑)。(柴田)恭兵との芝居もすごく良かった。恭兵はこのドラマでは感情表現をずっと押さえて演じていたんですよ。時々、「あれ?」と思うんだけど、ちゃんと感情を出すときは出してメリハリをつけていて、すごいなぁと思いました。一方、僕のほうはずっと熱血で演じている(笑)。自分で演じていても気持ちが良かったですし、作品としてもすごく良かったですね。プライベートで大学の同級生からも「良かったよ」と言われることが多かったので嬉しかったです。あと驚いたことに原作者の葉室燐さんは僕と同い年で誕生日が一週間違い。対談もさせていただきましたが、すごく分かり合える感じがしました。

  • 中村雅俊さん演じる下級藩士・源五
  • 柴田恭兵さん演じる家老・将監

幼なじみの友と刃を交える!

大河ドラマ 『花神』

大河ドラマ 『花神』

 『花神』出演のお話をいただいたときは本当に悩みました。当時、大河ドラマが放送される日曜夜8時に別の局のドラマに出演しており、『花神』が放送される年に延長するかもしれないという話があったんです。これまで出演していたドラマの裏番組にあたる大河ドラマに出るのはやはり良くないのではないか、自分はどちらを選ぶべきなのか、非常に葛藤がありました。しかし、大河ドラマは初出演で初の時代劇、そのうえ演じる役が高杉晋作です。よく考え悩んだ末に、これはぜひ『花神』に挑戦したいと思ったのです。別の局のプロデューサーにそのことを伝えたらすごく驚かれましたね。実はそのドラマには田中健ちゃんも出ていたのですが、健ちゃんも『花神』に出ることが決まっていたんです(笑)。でも、快く僕らを大河ドラマに送り出してくださったので、これは絶対に『花神』を頑張らないといけないな!と改めて思いました。

  • 天堂晋助役 田中健さん

 高杉晋作といえば、世間ではかっこいいというイメージがありますが、そこにとらわれるのはやめよう。自分が思ったように演じようと決めました。ドラマを観る人たちも高杉を実際に知っているわけではないのだから、高杉はこういう人だったのかなと思わせられればいいのだと。若くして亡くなった人物ですが、まだ若いうちから日本を動かすという思いを持っていた。それは坂本龍馬にもいえることですが、僕はそういう青春群像みたいなものが、60年安保や70年安保のときの若者たちの姿と少し重なるような気がしたのです。どちらも真剣に世の中を変えようと動いていましたから。僕も大学に入学したのがちょうど70年安保の年。クラス討論会にも参加しましたし、みんなで頑張れば本当に世の中が変わるのではないかと思っていました。その当時の学生運動の流れと幕末の龍馬や晋作たちの姿を少しだけ重ねて、彼らの思いを芝居に出そうと思いながら演じていました。

 高杉が三味線を弾くシーンはけっこう多かったので、おうの役の秋吉久美子ちゃんと習っていたのですが楽しかったですね。筋が良かったのか、三味線指導の先生が「弟子になれ」と言ってくださいました(笑)。実際は三味線の棹(さお)の部分に鉛筆で線を書いて弾いていたんですけどね。そうしないと指を置く場所がずれて音が外れてしまうので。芝居の最初に三味線を弾いて歌って、芝居してから最後にまた三味線を弾いて歌ってと、プレッシャーはありましたが、いい思い出です。また高杉といえば長州ことばも印象的でした。長州で「怒っている」を「はぶてる」と言うのですが、セリフにすると「わしは、はぶてちょるんじゃあ」(俺は怒っているんだ)となるんです。言い方もちょっと低音ですごみをきかせるので、自分のセリフなのに「かっこいいなぁ」と思っていました(笑)。三味線を弾いたり長州のことばだったりと、高杉晋作は「いいなぁ」と思うファクターが多かったですね。

  • おうの役 秋吉久美子さん

 長州藩士役の役者はみんな仲が良くて、頻繁に飲みに行っていました。尾藤イサオさんや西田敏行さん、東野英心さん、志垣太郎さん。皆さん印象的ですが、特に篠田三郎さんの吉田松陰は知的で、まさに本物がその場にいるようでした。面白かったのが、長州藩士のシーンを撮影中にAD(アシスタントディレクター)がエキストラを先に帰してしまった事件。「手違いで帰してしまったので、悪いけど皆さん、エキストラとして足だけ画面に出ていただけますか?」。「ええ!足のギャラ出るの?」とみんなで冗談を言いながら、結局、足だけの出演を果たしました(笑)。その後はみんなで盛り上がって飲みに行きましたね。今では考えられないことですが、カツラを被ったままNHKから近くのお店に出かけたこともありました。

  • 伊藤俊輔役 尾藤イサオさん
  • 山県狂介役 西田敏行さん
  • 久坂玄瑞役 志垣太郎さん
  • 吉田寅次郎(松陰)役 篠田三郎さん

 主演の村田蔵六役の中村梅之助さんとの絡みはあまりなかったのですが、稽古場では一緒になっていました。梅之助さんは稽古場で僕の芝居を見て、いてもたってもいられなかったのでしょう。僕が現代劇っぽく大きな身振りで動いていると、「そこはもうちょっと、こうやったほうがいいんじゃないか」とか、刀の動きなどを何気なく教えてくださいました。梅之助さんは、あの当時からベテラン中のベテランというイメージがありましたが、すごく優しい方でした。蔵六は額がめちゃくちゃ広いという設定だったらしく、苦労して額を広くするメイクをされていた記憶がありますね。僕が芝居で絡むのはほとんど長州藩士とおうのでした。一度、山県狂介役の西田敏行さんと、おうの役の秋吉久美子ちゃん、そして僕という3人のシーンがあったときのこと。本番前のテストで、セリフをすべて東北ことばで演じたことがあったんですよ。お二人は福島県出身、僕は宮城県出身なので、ちょっと遊んでしまった(笑)。演出の方はきっと「なにやってんだ?」と思われたでしょう(笑)。だけど、現場の雰囲気や関係性は画面を通して出るものだから、仲が良いことはすごく良かったなと思います。

  • 村田蔵六役 中村梅之助さん
  • おうの役秋吉久美子さん、山県狂介役の西田敏行さんと

スペシャルドラマ 妻たちの新幹線

スペシャルドラマ 妻たちの新幹線

昭和39年の東海道新幹線開業に情熱を注いだ技術者・島秀雄と国鉄総裁・十河信二。二人の男を支えた家族の愛を軸に、鉄道史に残る真実の物語を描いた。中村雅俊さんは20世紀に日本が生んだ最大の技術者と言われた島秀雄を演じた。

 起伏の激しいドラマではなく、どちらかというと夫婦間や親子の話を大事に描いたドラマでした。撮影当時、島秀雄さんのご家族が秀雄さんの人となりをよく教えてくださいました。でも芝居に入る前にいろいろな情報を入れすぎてしまい、逆に演じることが難しくなった覚えがあります(笑)。秀雄さんは、新幹線を作る前に蒸気機関車も作っているんですよ。そんな方が特別な最新の機械を使わずに技術だけで時速何百キロという新幹線を作った。それってすごいことなのですが、そのすごさを芝居では出しにくかったですね(笑)。秀雄さんが「やったぞー!」と大きな声で喜ぶシーンはあまりなく、夫婦愛や家族愛が主に描かれていましたから。妻役の南果歩ちゃんとは初共演でしたが、夫婦役はすごく演じやすかったです。

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