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市村正親 市村正親

市村正親俳優いちむらまさちか

1949年生まれ、埼玉県出身。俳優・西村晃の付き人を経て、73年に劇団四季『イエス・キリスト=スーパースター』でデビュー。91年に劇団四季を退団後も、ミュージカル、ストレートプレイ、一人芝居など、さまざまな舞台に出演。80年の大河ドラマ『獅子の時代』をはじめ、『王様の家』や『蛇蝎のごとく』、『嘘の戦争』、映画『テルマエ・ロマエ』や『泥棒役者』などの映像作品でも活躍。NHKでは、大河ドラマ『江〜姫たちの戦国〜』『真夜中のアンデルセン』『オーダーメイド〜幸せ色の紳士服店〜』、連続テレビ小説『べっぴんさん』などに出演。『家康、江戸を建てる』では荒れ地を巨大都市・江戸へと発展させた徳川家康を演じる。

大河ドラマ 獅子の時代(1980)

小此木恭平役

大河ドラマ 獅子の時代

インタビュー

 『獅子の時代』は、初めての大河ドラマであり、僕にとって初めての映像作品でもあります。

 主演の加藤剛さんが当時、日生劇場へ舞台「リトル・ナイト・ミュージック」を観に来てくださったんですけど、僕がチェロを弾きながら歌う芝居をご覧になって「君は芝居も歌もやるけど、チェロも弾くんだねぇ」と、おっしゃって。本当は当てブリだったんですけど、思わず「はい!」って言っちゃったことを思い出します(笑)。でも、実際に演奏しているように加藤さんが思ってくださったのが、うれしかったですね。同じく主人公を演じられた菅原文太さんは「劇団四季」の一期生で大先輩でしたし、この作品の後、(姉・もん=小此木美津役の)大原麗子さんとステージ上でご一緒したり、いろいろなご縁を感じるドラマになりました。

もん(大原麗子)は弟の恭平に学問をさせるため、芸妓として働く
刈谷(加藤剛)はパリ万博でもんと知り合い、姉弟の暮らしを気にかける

 それと、(大竹)しのぶちゃんとも一緒だったんですけど、牛鍋を前にして(大竹の演じた平沼千代が)「ベコ(=牛)だべ、これ? ベコは食えねぇ!」というシーンがものすごく印象的でね。のちに一緒の舞台に出た時、そのことを話したら「やっだ~」なんて笑っていましたけどね。それにしても、本当にそうそうたるキャストですよ。大河ドラマだから当たり前なのかもしれないですけど…尾上菊五郎さん、加藤嘉さん、沢村貞子さん! 根津甚八さんも伊東博文役で出ているし、大久保利通役に鶴田浩二さんですから、すごい顔ぶれですよね。その中に劇団四季の若僧が1人で入っていくというのは…やはり緊張しましたね。

 今もそうですけど、「本番ッ!」っていう掛け声がかかると、硬くなっちゃってね。当時はNGを出すと、テープがもったいないっていう考え方だったから「絶対に間違えちゃいけない」っていう意識なんですよ。だから、のびのびと演技していなかったかもしれないですね。でも、映像を見直してみると、意外とそうでもなかったりして。何より、若い時の僕とウチの息子がそっくりなんですよ! 親子だから当たり前なんだけど、ビックリしました(笑)。

恭平は姉・もんの期待を裏切り自堕落な生活を送る

 ただ、芝居自体はやっぱり青臭いですね、小此木恭平がそういう若者だからというのもありますけど。でも、この時は役のことを考えるより、「このまま行ったら俺も売れっ子になるかな」という下心が無意識に働いていた気がします。僕が演じた恭平という役は、ドラマの後半に向けてどんどんエピソードがふくらんでいく予定だったんですけど、この年(1980年)は(劇団四季と何度も共演していた)越路吹雪さんがガンで倒れられてしまったことを受けて、浅利慶太さんの判断で物語からフェードアウトすることになったんです。なので、ドラマの中ではどことなく中途半端な去り方をしたという印象になってしまいました。でも、あの若さで大河ドラマにアウトロー役で1年出続けていたら、間違いなく天狗になっていたでしょうね。顔だって、そんなに悪くないでしょう(笑)? きっとアイドルのように騒がれた挙げ句、今ごろは鼻をへし折られて何にも残っていなかったかもしれない。そう思うと、「まだまだ、お前はテレビや映画じゃないよ、舞台でやらなくちゃいけないことがあるよ」という天啓だったのだろうなと思えてなりません。

真夜中のアンデルセン(2002)

謎のマスター役

真夜中のアンデルセン

インタビュー

 (一人で何役も演じ分ける映像を観終えて)自画自賛しちゃいますけど…市村、なかなかやるね(笑)。いや、冗談ですけど、舞台でも「クリスマス・キャロル」のように一人芝居で54役を演じたり、勝村(政信)くんとやった「ストーンズ・イン・ヒズ・ポケッツ」で、それぞれが7~8役を演じたことがありますけど、AからBの役へ移行していく芝居というのは好きなんです。そういう芝居は若くて経験が浅いうちは難しいんですけど、いろいろな芝居を観たり演じたりしていくと、演出家としての目も養われていって。僕がやっている一人芝居というのは、自分で自分を演出しているみたいな部分があるんですね。「ここの芝居は、こうした方がいい」と自分に指示を出します。だから、僕は演出ができないわけではないんですよ、ただ演出したくないだけで。人の芝居の面倒は見たくないんです。何か言って嫌われるのがイヤだから(笑)。だったら、自分自身に言おうと。そういうところがありますね。

バー“アンデルセン”へようこそ

 それと、ごっこ遊びが好きだというのも大きいですね。いま見せてもらった「アンデルセン」の映像は人魚姫と魔女の二役でしたけど、さらに王子や魚が出てきたりして、どんどん増えていくんですよ。でも、俳優はいろいろな役を演じたいから、楽しいんです。ただ…本人としては一生懸命その役になりきって演じているんだけど、根底にあるのは俳優・市村正親ですからね。市村という役者の匂いや存在が消えた時に、本当の芝居というものが見えてくるんですけど、このころの芝居にはまだ僕自身の「こうありたい」という欲が透けてますね(笑)。だから、余計に役に入り込もうとするんです。それも、まず型から入ろうとする。でも、それは間違いではないけど、正解でもないんですよね。頭ではわかっているんですけど、なかなかできないものなんです。

悲恋の物語「人魚姫」を演じる一人芝居

大河ドラマ 江〜姫たちの戦国〜(2011)

明智光秀役

大河ドラマ 江〜姫たちの戦国〜

インタビュー

 確か舞台「家康と按針」をやっている時に、プロデューサーが観に来てくださって、それがきっかけで出演が決まった作品です。それから何年かして、家康役(2019年正月時代劇 『家康、江戸を建てる』)のオファーが来るというのも面白いですけれどね。そういえば、2020年度の大河ドラマは明智光秀が主役だそうで……僕も楽しみにしています。

 明智光秀という人物は、たくさんの役者さんが演じてこられましたけど、いずれにしても苦悩していますよね。「本能寺の変」を起こすまでに、彼の気持ちの中にすごく深い葛藤があるんですけど、本当のところ、どういう思いで謀反を起こしたのかはわかっていないんです。僕が演じた光秀も、江に対して「わからない」と言っています。何かに突き動かされてやってしまったというところなんですけど、その〝何か〟がわからないんです。ということは、きっと神の見えざる手が采配したのだろうな、と。それによって動かされたのが光秀で、そのことによって覇権が秀吉に渡るという……運命のようなものを感じずにはいられません。

織田家の家臣として出世をとげた光秀だが、しだいに信長(豊川悦司)への怒りをつのらせてゆく

 一説では、光秀は室町幕府を再建したかっただけだとも言われていますが、はたしてそれだけのために動いたかどうか…と個人的には思います。当時、演じながら感じていたことですが、豊川悦司さんの信長が、すごく素敵でいらっしゃって。キツく当たられるシーンもありましたけど、僕は2人の男たちの人生と人生が出会っているという感情でお芝居をしていたんです。確かに「演技をする」のが俳優の仕事ではありますけど、自分も相手も、その役として生きて別の人生を体験できるというのが、この仕事の素晴らしさだと思っていて。そこが楽しくて俳優をやっているところがありますから。だから、役によって顔つきが変わるんです。同じ武将なんですけど、光秀と家康の目は全然違うんですよ。そういう見くらべ方をしても、面白いんじゃないかなと思います。

なぜ謀反を起こし信長を討ったのか、江(上野樹里)は光秀に問う

連続テレビ小説 べっぴんさん(2016)

麻田茂男役

連続テレビ小説 べっぴんさん

インタビュー

 「べっぴんさん」は2年前くらいになるのかな? このぐらいの年代になってくると、芝居じゃなくてセリフに実感がこもっていますからね。「手がアカン、膝が痛い」とか(笑)。〝朝ドラ〟というシリーズに何か機会があったら出たいと思っていたので、念願だったんです。何しろ、僕が子どものころから放送されているわけですから。欲を言えば、もっと早く、母が生きている時に朝ドラに出る機会をいただけていたら、母も毎朝起きる楽しみができて、幸せな気持ちにさせることができたかなと、ちょっとだけ自分の中に悔いが残っています。ただ、親父とお袋には大河ドラマに出ている自分を見せることができたので、それだけでも御の字かな。

 初めて朝ドラに出してもらって、それもいわゆる〝おいしい役〟だったので(笑)、やって良かったという思いがすごく強いですね。阪神淡路大震災の時、僕は舞台「スクルージ」の公演で神戸に滞在していたんです。だから、朝方のあの大きな揺れは…忘れられないですね。その時、靴の街である長田地区が焼けていくのも見ていますから、神戸の靴職人を演じることができたのもご縁を感じました。「家康、江戸を建てる」の後編で貨幣の鋳造職人を演じた柄本佑くんも言っていましたけど、俳優はどことなく「職人」という響きに憧れるところがあるんです。なので、麻田茂男という職人になれたことがうれしかったですね。役づくりのために靴づくりの工程を習うんですけど、大きな針で靴を縫製していく時の作業は実演していて小気味よかったです。

麻田は腕の良い靴職人でヒロイン・すみれの良き相談相手

 ただ…舞台では歌うことがよくありますけど、まさか「べっぴんさん」の中で「ホワイト・クリスマス」を歌うことになるとは、思ってもみなかったですね(笑)。プロデューサーから「市村さん、ぜひ歌ってほしいんです」と言われた時は、「え、靴屋の麻やんが歌うの!?」ってビックリしましたから。でも、なかなか東京までミュージカルを見に行けない方々に、テレビの中から聞こえる市村の歌声で少しでも気分を味わわせることができるのであれば…とイメージして歌うシーンに臨みました。ただ、市村ではなくて麻やんで歌わなくてはならなかったのが難しかったですね。「この歌、好きなんです…」なんて言って、麻やんが歌うのをご覧になって、全国のお茶の間のみなさまはどのように思われたのか、知りたいものです。

キアリスのクリスマスパーティー
雪降る聖夜 麻田が歌う“ホワイト・クリスマス”が商店街に響き渡る

正月時代劇 家康、江戸を建てる(2019)

徳川家康役

正月時代劇 家康、江戸を建てる

インタビュー

 家康役のお話が来た時、「えっ、僕がNHKで家康を?」というのが率直な気持ちでした。「家康と按針」という舞台では家康を演じたことがあるんですけど、NHKの時代劇で僕が演じていいのかなと。ところが、原作を読んでみますと、非常にドリーマーな家康さんで、これは僕が演じるしかないなと思いました(笑)。お引受けしてから、江戸がまだ湿地帯だったころの絵を見せていただいたんですけど、目がまさにビックリマークになりましてね。それが、お城を中心にした巨大な街になっていくという話だというので、これはすごいぞと。前編は、あの何もない平野を見て、いきなり冒頭から僕がカッと目を見開く仕草のどアップから始まるんですけど、監督から「目一杯、開けてください」と言われましてね。ただ、お話したように荒れ地だった江戸の絵を見せてもらっていたので、そこから繁栄していく江戸の未来図を描ける男の眼なんだと思って、お芝居の中ではずっと目を開いていました。だから、人を見る目もしっかりしている。「こいつには、これができるだろう」というふうに、見抜く力があるんです。

秀吉によって関東の未開の地に追いやられた家康
目の前に広がっていたのは水浸しの低湿地だった

 そんな荒れ地に、秀吉から本拠である駿府を召し上げられたがために、移封(国替え)されてくるんですけど、普通なら怒るところを家康という人は「負」を「正」に転じて勝ちに持っていける人なんですよね。なぜなら、幼少のころから人質に預けられてきて、常に自分のベストな環境にはいられなかったわけですよ。だからこそ、「ならば、いい環境に変えていこう」という考え方ができたのだと思っていて。その逆境が家康という人をたくましくしたことを踏まえると、自分の子育てを考えちゃいますね。子どもたちがもう少し不便な方が、自発的に考える力が身につくんじゃないかなと。かなり苦労してきた家康という人物ならではの、信長や秀吉とは違うタイプの魅力がある英雄の部分を出せた作品になったんじゃないかなと思います。

 家康という人には、自分が歳をとってから天下をとったものだから、肉体は年々衰えていくんだけど、脳だけは冴えわたっていて、遠い未来を見ている男──というイメージがあるんです。今回の家康もドリーマーな面が大きいので、演じるにあたっては苦労も何もなかったですし、とても楽しかったですね。ひとつ言えるのは、蔵ちゃん(佐々木蔵之介/前編の主人公・大久保藤五郎役)にしても(後編の主人公・橋本庄三郎役の柄本)佑くんにしても、人生や生き方や未来を…瞬間的にではありますけど、演技ではなくて生きているという感覚で味わえたということです。それが俳優という仕事の醍醐味ではないかなと。

前編~水を制す~ 大久保藤五郎(佐々木蔵之介)は家康の命で江戸の町に上水を通す
後編~金貨の町~ 江戸を経済の中心にするため家康は庄三郎(柄本佑)に小判作りを命じる

 家康も本当にさまざまな役者さんが演じていらっしゃいますけど、内野聖陽くんが「真田丸」で演じた家康が、個人的には面白くて(笑)。どこか優柔不断で、家臣たちに言われてだんだん、その気になっていくような大将だったでしょ。役所広司さんが映画「関ヶ原」で演じていらっしゃった家康もすごかったですけどね、目が血走っていて。そういう部分もあったかもしれないですし、わりと昔から描かれている──イラついて爪を噛むこともあっただろうし、「勝って兜の緒を締めよ」と言った家康もいただろうし…いろいろな顔があったと思うんですよ。そこで、僕がたまたま出会った家康というのはドリーマーで、常に目を輝かせている方の人物なんですよね。

 ただ、信長から「嫡男の信康を討て」と命じられて、息子に告げて切腹させた父親としての心情を考えると、いたたまれない気持ちになります。戦国時代は、そういう異常な世界でもあったわけで、家康は早く戦国の世を終わらせたかったんじゃないかと思ったりもするんですよね。そうやって家康は運命を動かしていきますけど、もし秀吉が家康を江戸に転封していなかったら、彼は天下を取らなかったかもしれないとも思っていて。「なかなかいい土地ではないか」と満足できるところだったとしたら、今の東京も日本もなかったのかもしれない。そう考えると、極めて運命的な人物だったのだろうなと思えてならないです。

 ちなみに、前編の「水を制す」と後編の「金貨の町」の俳優陣が、お互いに「自分たちの回の方が面白い」と会見の場で言っていましたけど、僕から言わせるとどちらも面白いですから(笑)!

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