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松本幸四郎 松本幸四郎

松本幸四郎歌舞伎役者・俳優まつもとこうしろう

大河ドラマ 『黄金の日日』

大河ドラマ 『黄金の日日』

 歌舞伎は、舞台で役に扮しますが、映画やテレビは土手や河原、あるいは土間の土の感触が足の裏に伝わる中で演じる。そのことを知った時、『黄金の日日』では呂宋助左衛門その人を1年間生きることになるんだなと思ったことを覚えています。もちろん台本があり、セリフやト書きもありますが、助左という人間が自分の境遇にどう対応するのか。僕は映画、テレビに出ることで、役を演じるという舞台俳優の仕事から、初めて役を生きるということを教わったんです。

 役を生きようと思うとまず、あの羽二重の上に被る時代劇のカツラにはどうにも違和感を覚えていたので、助左の場合は髷(まげ)の部分だけをカツラにして、 生え際に自分の毛を使う半カツラを作っていただきました。着物も衣装さんが用意したものをそのまま着るのではなく、たとえば当時おふくろが持っていた更紗を何種類かの着物に仕立ててそれを着ていました。若い助左が、黒のたっつけ袴(ばかま)を履いて走り回っている時の赤い単衣(ひとえ)の着物などがそうです。晩年、呂宋助左衛門になり、堺を捨てて日本を旅立つ時に着たのは“きゃぴてんじま”という着物です。呉服屋さんから「船長の呂宋助左衛門にぴったりや」と言われて(笑)。

 英雄や豪傑、武将ではなく、堺の商人が主人公の大河ドラマというのは、それだけでも画期的なことでした。信長や秀吉も出てきましたが、いわゆる勝者の歴史ではなく、我々と同じ庶民の一人である助左のような人が見聞きし、体験したことが描かれた。だからこそ視聴者の方は無言のうちに「あ、これが本当の歴史じゃないのかな」と感じておられたのでしょう。市川森一さんの脚本も生き生き登場人物を描いていて、大河ドラマ然としたものではなかった。それでいてきちんと歴史も追い、格調もあった。そういう意味では1年間NHKさんと本当に良い仕事ができました。演じていても楽しくて、いま思えば懐かしい我が“youthful days”でした。

 思い出といえば、このドラマで私たち父子孫三代が共演したこと。父・八代目松本幸四郎は、高砂甚兵衛という海賊船の船長役、そしてラストシーンで日本を去る助左の船で舵を取ろうとする少年を演じたのが、私の息子・市川染五郎です。当時は本名の藤間照薫でしたが、機会があればその場面もぜひ見ていただきたいですね。

大河ドラマ 『山河燃ゆ』

大河ドラマ 『山河燃ゆ』

大平洋戦争時、血と国籍のはざまで揺れるアメリカ移民二世たちの苦悩と悲劇を描いた物語で、松本幸四郎さんは主人公・天羽賢治を演じた。原作は山崎豊子さんの『二つの祖国』。

 天羽賢治も日系二世の一庶民ですが、このお話を最初に聞いた時は大河ドラマで現代劇ということに少し驚きました。ただ舞台もテレビでも、エンターテインメントというのは「面白いね、きれいだね」と楽しんでいただきながら、ふと何かを考えるきっかけになるものだと思うんです。そういう意味では、このドラマも「日本人とはなんだ、日本の歴史の中でこんなことがあったのか」と少し考えていただける作品だったのではないでしょうか。

 撮影はロサンゼルスロケからスタートしたのですが、なんと学生服姿のシーンがあると聞いてあ然としました。もう40代でしたからね(笑)。そこで出発前の1週間、自分で考案した“蝦蟇(がま)の油痩身術”を実施したんです。浴室の鏡の前で体の変化を見るために全裸になり3本指をついて腕立て伏せを200回。やっているうちに足の裏がすりむけ、たらりたらりと脂汗が流れてくる(笑)。まるで蝦蟇の油みたいに(笑)。体に悪いですから人様にはお勧めできないけれど、それで10キロくらい痩せて、無事学生服姿を撮り終えました。

 このドラマは東京裁判の後、二つの祖国に揺れたことに疲れ果てた天羽賢治が自殺してしまうという悲劇で終わりました。ただ、その後にもう一つ悲劇があったんです。数年後、天羽賢治のモデルとなられた方の未亡人と娘さんが来日されて、日生劇場に出演していた僕を訪ねてくださることになったんです。ところが、当日は娘さんだけしかいらっしゃらなかった。お母様はどうしても、亡きご主人を演じた僕の顔を見ることができないとホテルから出ることができなかったのだそうです。それを聞いて、僕は娘さんを無言で抱きしめました。これが二つ目の悲劇ですが、その時、こういう作品を大河ドラマでとりあげることの意味を実感しました。普通に空気を吸い、水を飲み、食事をして生きていることが普通ではなく、いかにそうしていられることが幸せなことなのか、平和がいかに大事なことなのか。そのことを強く感じさせられた作品でした。

特集ドラマ 『ナイフの行方』

特集ドラマ 『ナイフの行方』

世の中をのろいナイフを振りかざす若者と、重い過去を抱えた孤独な老人の出会い。松本幸四郎さん演じる一人暮らしの老人・根本拓自は傷ついた若者を救えるのかーー。

 主人公・根本拓自は“老いたるニヒリスト”ですね。若いころ、海外派遣で体験した民族紛争での陰惨な過去をひきずっている人物。だから、ナイフで人を殺そうとした若者が、「わかりました」「反省します」「明日からちゃんと生きます」と簡単に言ってしまうことに「軽い!」と厳しい。脚本の山田太一さんは、まさにそのことを言いたかったんだと思います。根本の「日本人は、最近人を簡単に信じすぎる、軽すぎる」とうセリフは、僕にも思い当たるふしがあり心に響きました。今生きている僕らが心の奥底で模索している日本人としてのアイデンティティなのではないでしょうか。

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