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和泉元彌 和泉元彌

和泉元彌狂言師・俳優いずみもとや

大河ドラマ 『北条時宗』

大河ドラマ 『北条時宗』

 15年前、大河ドラマのお話をいただいたときは、「あの大河ですか?」と質問したことを覚えています。小さいころから、狂言師としてNHKさんにお世話になったことはありましたが、まさか大河ドラマとは……。大役を果たせるのか、期待に応えられるのか、単純に嬉しいですますことではないと慎重になった部分もありました。ただ、狂言にも描かれている鎌倉時代、北条得宗家に生まれ若くして執権となった人物を「和泉元彌にしか演じられない時宗があります」と言っていただいたことで、頑張らせていただこうと思ったのです。それでも当初は狂言との違いにとまどうことが多かったですね。たとえば一番単純なことで、所作でいえば、和泉流は左足から歩いて右足で止まるという基本原則があり、どこかそこに寄せよう寄せようとしている自分がいました。だけど撮影中にすべて右足で止まることはできません(笑)。これは狂言ではない、逆足で止まってもいいんだと意識するようになったとき、狂言師・和泉元彌でいなければという殻を脱ぐことができました。

 いまも強く印象に残っているのは、時宗の父・時頼を演じられた渡辺謙さんのことです。主演された『独眼竜政宗』を見たとき「こんなにカッコいい人がいるんだ」と思ったほど大好きな方だったんです。ただ、父と子のシーンはほとんど時宗の子役の方が演じていたので、私がご一緒できたのはほんの数話でした。それでも印象に残るシーンばかり。中でも心に残るのは、すでに全身に毒が回り、瀕死の状態の時頼と御簾をはさんで対面するという場面です。自分も21歳で父を亡くしているのですが、時宗にとって絶対的な存在であり、目標であった父が死んでしまうなんて信じられないのではないか。もし自分が時宗ならとっさに抱き起こすような気がしました。そこで、台本にはないけれど、監督にお話しして抱き起こすところを撮影していただいたんです。放送ではカットされていました。たしかに、父上にさわってはいけないというのは当然のことで、たとえこれが最期といえども近づくこともできずに見送ることしかできない。それが時宗の人生の厳しさだと言われたことを思い出しました。

 狂言は生の舞台なので、ケガを伴うリスクがあることは小さい頃から禁じられていました。だから、僕は生涯馬に乗ることはないと思っていたのですが、鎌倉武士にとって馬は絶対必要なものであり、“NHKのコッポラ”と呼ばれた監督の吉村芳之ディレクターがスタントなしでやりたいとおっしゃったのです(笑)。そこで、撮影が始まる前に岩手県江刺市まで乗馬の練習に行きました。そこで乗ったのが劇用馬といって近くで爆竹が鳴っても暴れ出したりしない訓練された馬なんです。そんなことがなければ馬に乗ることもなかったのに、おかげさまで手綱から手を放して弓を引くという兄上との一騎打ちのシーンでも、落馬することなく無事に終わることができました。でも実は今だから明かせるのですが、一度だけ落馬したことがあるんです。桐子役の木村佳乃さんと二頭の馬を並べて浜辺を行くシーンのロケでした。訓練されているとはいえ、馬というのは二頭いるとつられて走ってしまう性質があり、その時も走り出そうとするのを止めようとしたものの見事にロデオ状態で振り落とされました。まさに“馬の腹を見る”という経験をしたんです。母が現場から遠く離れていて目撃せずにすんだことにホッとしました(笑)。せっかくだから落馬の映像が残っていればと思うのですが,残念ながらカメラが回っていないときの出来事でした。

 最終回の台本を読み、北条顕時(山口馬木也)から「元にはもう日本を攻めてくる力がない」という伝令の言葉を聞く場面で、ぼろぼろと泣いてしまいました。僕たちは歴史の事実として二度と蒙古が攻めてこないことを知っているけれど、そのときの時宗にはわからない。それが顕時の言葉で「日本が救われた」と安堵した瞬間、泣けてしまったのです。人の別れというのは経験しているけれど、国が救われたことに安堵するという経験はないので想像して作り上げないといけないのですが、あの言葉を聞いて涙が出たとき「時宗でいられた」と実感することができました。ただ、繰り返し台本を読むことで、そのときに受けた衝撃や感情に慣れてしまうのがいやでセリフは1回で覚えたいなと思いました。そこで、泣いた後にもう一度読んだら、それだけで全部覚えることができたんです。これは1年半やってきたことのご褒美だと思いました。時宗役のお話をいただいたとき、「まだ若いから、あんなものだ」と言われては意味がないと思いました。実際、時宗は若くして国難に立ち向かい、その出来事と共に歴史に名を残した人物です。若いから苦労もあるけれど、若いからこそ出来ることもある、故に人を動かすことだってできる。そんなふうに、時宗公から勇気をもらいながら演じ切ることができました。現代の世の中の人たちにも、教科書の1行で終わる人物ではなく、たった34年でも懸命に生き、これだけの濃い人生があるということが伝わるといいですね。

ドラマ愛の詩シリーズ 『双子探偵』

自称“名探偵”と双子の姉妹が、身のまわりに起こるさまざまな謎を鮮やかに解決するドラマで、和泉元彌さんは帽子とサングラス、黒ずくめの服装の探偵・夢水清志郎を演じた。

ドラマ愛の詩シリーズ『双子探偵』

 このドラマは原作(『名探偵夢水清志郎事件ノート』はやみねかおる著)があるのですが、三つ子の設定が双子になっているなど独自の物語になっていました。僕が演じた謎の探偵・夢水清志郎もあやしげな人物ということで、制作スタッフから一緒にキャラクターを作っていきましょうと言っていただいたのがすごく嬉しかったですね。原作のはやみねかおるさんにもイメージにぴったりだと納得していただけたそうです。黒ずくめに無精ヒゲとハードボイルな感じなのに意外とお茶目だったりして、子どもの側に寄り添っていくという役だったので苦もなくできました。双子の亜衣と真衣を演じた三倉茉奈ちゃん、佳奈ちゃんをはじめ、現場は本当に仲が良くて楽しかったことを覚えています。プロデューサーさんからは、「いつも、子ども目線で話してくれて」と感謝されたのですが、そんな意識はまったくなかったんですよ(笑)。知り合いから「再放送はないの」と聞かれることが多いドラマです。

大河ドラマ 『江~姫たちの戦国~』

激動の戦国時代、運命に翻弄された浅井三姉妹の三女・江。徳川二代将軍秀忠の正室、三代家光の生母となった江の生涯の物語で、和泉元彌さんは足利義昭を演じた。

大河ドラマ『江~姫たちの戦国~』

 10年ぶりの大河ドラマ出演で、狂言が生まれた室町時代最後の将軍である足利義昭役をいただいたことは、僕に何かを考える機会を与えていただいたような気がしました。足利家の良い時代が終息、まさに時代の幕引きをする役目を負った人物です。でも幕を閉じるからこそ次の新しい時代が始まる。伝統を受け継ぐ者の責任とその厳しさに共感したものです。僕も父の時代の幕を閉じたからといってしぼんでしまうのではなく、受け継いだものをさらに大きくしていくことで次へ向かう。そんな思いと重ね合わせて、1シーン1シーン丁寧に演じさせていただきました。狂言師ですから着慣れていることもあり、烏帽子など装束をまとっての身のこなしに感心された事も嬉しかったですね。

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