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連続テレビ小説『ちりとてちん』

心配性でマイナス思考のヒロインが、自分を変えようと故郷の福井を飛び出し大阪へ。そこで出会った上方落語の世界にひかれ、落語家を目指して奮闘する姿を描いた青春コメディー。

連続テレビ小説 『ちりとてちん』

クランクインロケ1:全力疾走&桜の花びら

 『ちりとてちん』は、ヒロイン・和田喜代美の故郷、福井・若狭でクランクインした。喜代美役の貫地谷しほりさんのファーストカットは、高校生になった喜代美が初めて登場するシーン。小浜中学校近くの道路を「遅刻する?っ!」と叫びながら走り抜けるという設定だった。「中学時代は100メートル走の選手だったので短距離は得意!」と言う貫地谷さん。その言葉どおり、全力疾走で駆け抜けた。次に撮影されたのは、ファーストカットの続き、正門に走り込む喜代美の姿。ここで喜代美の顔にペタリと張り付いた桜の花びらは、春のうちに凍らせておいた本物の桜だ。春先に台本を読んだ美術スタッフが「きっと必要になるに違いない」と気をきかせて準備しておいたのだ。

本物の桜の花が頬に

クランクインロケ2:鉄道ファンも注目

 クランクインロケの10日目には、喜代美が大阪へ旅立つシーンのロケが行われた。のど自慢会場で十八番(おはこ)の『ふるさと』を歌いながら喜代美の乗った列車を見送る母・糸子(和久井映見)と、列車から母の姿を見て号泣する喜代美。第2週のクライマックスシーンだ。撮影はのど自慢会場となった長井浜と喜代美が乗る列車、2つの現場で同時進行。長井浜には、200人以上の地元の方がエキストラとして集まり、朝から夕方まで行われた撮影に参加した。糸子役の和久井(映見)さんは撮影がスタートすると何度も何度も『ふるさと』を歌い続け、一方の貫地谷さんは小浜駅から20分ほどの距離を列車で何度も往復することに。撮影に使われた列車はドラマの設定と同じ1992年当時、実際に走っていたもの。撮影のためJR小浜線に特別ダイヤを編成していただき、何年ぶりかの復活を果たしたのだ。ロケ現場には、ひと目列車を見ようと駆けつけた鉄道ファンの姿も見られたそうだ。

  • 喜代美の旅立ちを歌って見送る糸子(和久井映見さん)

“五木ひろし”役に五木ひろしさん

 福井出身の歌手・五木ひろしさんが歌う『ふるさと』は、喜代美の母・糸子が大好きな歌という設定。喜代美や糸子にとって重要な場面でたびたびこの曲が流れた。そんな糸子のあこがれの五木ひろしさんが、ずばり歌手・五木ひろし役でゲスト出演した。「これまで大河ドラマをはじめいくつものドラマに出演してきましたが、連続テレビ小説は想定外。“五木ひろし”の役を演じたのも今回が初めて(笑)」ととまどいながらも、「楽しいシーンにしたいという思いもあって、衣装は私服ではなく、撮影帰りのイメージで“ファンキーな”自前のステージ衣装にしたいと提案しました。撮影本番は照れくさかったけれど、貫地谷さんたちも大いに喜んでくれたので良かったのでしょう(笑)」と話していた。

  • 五木ひろし(ご本人)が和田家に…
  • 『ふるさと』は物語のもうひとつのテーマ曲

俳優、落語家、狂言師が演じた落語家

 上方落語の名人・徒然亭草若を演じた渡瀬恒彦さんは、当初、「俳優は、極力うそのないように誇張がないようにと役を作りあげるのに、落語の世界はその正反対!」ということに、とまどったという。落語『愛宕山』の稽古をしていても「ひばりがピーチクパーチクじゃなくてチュンチュンと鳴くのはおかしいだろうと思ったり(笑)」。しかし、落語の世界は細かなことにこだわるのではなく、どっぷりと浸り込んで楽しむことで成立することがわかってきて、吹っ切れたとか。それにしても、「落語の名人という役どころは負荷のかかる役で、現場ではいつもアドレナリン全開でした」と振り返っていた。

 草若師匠の一番弟子・草原を演じたのは本職の落語家・桂吉弥さん。スタジオでは他の出演者にアドバイスをするなど頼もしい存在だったが、それだけでなくモノマネの達人でもあったらしい。一人で登場人物のキャラクターをモノマネして、さまざまなシーンを再現してみせる「一人ちりとて」が評判だったそうだ。喜代美の兄弟子で草若師匠の実の息子で「底抜けに…」のセリフでおなじみだった小草若を演じたのは、狂言大蔵流の能楽師でもある茂山宗彦さんだった。落語が下手という設定だったが、彼の『寿限無』を聞いた貫地谷さんは「上手でびっくりしました」と語っていた。

徒然亭草若役 渡瀬恒彦さん

  • 草原役 桂吉弥さんは本職の落語家
  • 小草若役 能楽師の茂山宗彦さん
  • 四草役 加藤虎之助さん
  • 草々役 青木崇高さん

こだわり抜いた徒然亭の家紋

 大阪で喜代美が弟子入りしたのが天才落語家・徒然亭草若(渡瀬恒彦)。落語家の一門には、それぞれ独自の紋があり、この徒然亭にもドラマで使用される紋があった。もちろん、美術スタッフが考案した番組オリジナルだ。一見“セミ”に見えるこの紋のモチーフとなったのは“ヒグラシ”。落語家は実力勝負の世界。若手のころはなかなか仕事がないこともあり、“その日暮らし”にかけたという。またセミ=ヒグラシは生涯のほとんどを土のなかで過ごし、成虫になって初めて外の世界に出て鳴く。落語家も長い修業時代を経て初めて高座に上がり、大きな声で芸を披露することから、ヒグラシの一生にもかけた。もう一つ、ドラマでは喜代美が好きな古典作品として登場する『徒然草』。一門の名前が徒然亭であることから、冒頭部分の「徒然なるままに 日暮らし」にもかけたというこだわりの結晶だ。

 このこだわりの紋は、落語家一門の紋ということで、伝統的な折り紙のセミをベースにデザイン。徒然亭一門の落語会で使われる膝の前に置く小さな衝立や、紋付きの羽織、喜代美が稽古で使う手ぬぐいや扇子をはじめ、草若邸の至るところにヒグラシの紋をあしらった。

  • “徒然なるままに、ヒグラシ…”
  • のれんにもヒグラシの紋が

初めてのファン感謝祭

 『ちりとてちん』は視聴率こそ低かったものの、放送当時から熱烈に支持するファンが多いことで知られていた。そんなファンの期待に応えて開かれたのが、連続テレビ小説史上初となる「ファン感謝祭」だった。当日は、徒然亭の弟子を演じる貫地谷しほりさん、桂吉弥さん、青木崇高さん、茂山宗彦さん、加藤虎ノ介さんが出演。舞台裏トークや桂吉弥さんの生落語を披露して大盛況となった。放送終了後発売された『ちりとてちん』DVDボックスの売り上げは、『おしん』の売り上げを抜いてトップになっている。

  • 2008年2月3日に開催された「ちりとてちんファン感謝祭」

全国から集まったファンと記念撮影

ステラNHK名作座 コラム

家族と落語に泣いて笑って

 何かと不幸な妄想をするネガティブ少女喜代美(貫地谷しほり)は、塗り箸職人の祖父(米倉斉加年)のラジカセで落語の面白さを知る。大阪で落語家の徒然亭草々(青木崇高)と師匠の草若(渡瀬恒彦)と出会った喜代美は落語家になる決心をする。

 喜代美はおそらく朝ドラ史上一番の泣き虫ヒロイン。小浜を出る電車の窓から母糸子(和久井映見)が自分に向けて五木ひろしの「ふるさと」を大声で歌う姿を見て号泣、落語修業の苦難に悔し涙、師匠の優しさに触れて感涙……主人公が涙ぐしゃぐしゃなのに湿っぽくならないのは、冷蔵庫に放置したたまねぎを持ち「芽がとぐろを巻いてる」と笑う糸子やお調子者の叔父小次郎(京本政樹)らずっこけ家族がからっと明るいから。小次郎たちが落語の内容をちょんまげ姿で演じる劇中劇にも笑うが、まさかあの世まで出てくるとは!

見せ場は青木ら俳優陣が熱演する高座シーン。中でも不精ひげの渡瀬は、思わず画面に拍手したくなる味のある語りっぷり。語りが上沼恵美子で、それが50代の喜代美という設定もすごい。泣いていたのにいつのまにか笑ってしまう。心地よくあったかい落語的物語だ。

文/ペリー荻野

  • 連続テレビ小説 『ちりとてちん』 【2007年~2008年放送】 コンプレックスだらけのヒロイン・和田喜代美。高校卒業を目前に故郷の福井県小浜から大阪へと飛び出す。そこで上方落語と出会い、落語家を志す。恋あり涙ありの、まるで落語みたいな人情ドラマ。

    脚本:藤本有紀 音楽:佐橋俊彦 語り:上沼恵美子

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