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土曜ドラマ『向田邦子シリーズ 阿修羅のごとく』

何気ない日常を生きる家族が抱える些細な秘密や隠し事。そこから垣間見えてくる嫉妬、エゴ、執念といった“阿修羅”の一面を4人姉妹の姿を通して描いた悲喜劇。

土曜ドラマ『阿修羅のごとく』

音楽も内容もインパクト抜群

 和田勉CD(チーフ・ディレクター/当時)が初めて手がけたホームドラマが向田邦子さん脚本の『阿修羅のごとく』だった。和田CDは、「テレビの特性はドラマよりドキュメンタリーの方によく現れると一般的にいわれますが、本当はテレビドラマはもっと面白くて、もっと人間の深いところを描くべきだと思います」と、当時のグラフNHKのインタビューに答えている。その言葉どおり、一見、穏やかに暮らしている平凡な家族の内に秘めた「修羅」を描いて反響を呼んだ。

 またドラマの人気をいっそう高めたのがテーマ曲だった。印象的な管楽器と打楽器の強烈なリズムと音色が耳にこびりついたという人も多い。トルコの軍楽隊が演奏する「ジェッディン・デデン」という行進曲だが、実は和田CD自身がかつて訪れたトルコで録音してきたものだ。軍楽資料館前で軍楽隊が演奏している様子を見て、持参していた小さなレコーダーで録音。日本に持ち帰り、6,7年温めていたものだという。『阿修羅のごとく』のテーマ曲にしようと決めてから、音質の悪い素材を整音したそうだ。

  • 向田邦子さん(1978年撮影)
  • 和田勉チーフディレクター(1987年撮影)

姉妹それぞれの個性と表現

 主人公の4人姉妹を演じたのは、長女・綱子を加藤治子さん、次女・巻子が八千草薫さん、三女・滝子をいしだあゆみさん、四女・咲子が風吹ジュンさんという顔ぶれだった。

 滝子は、男っ気がまるでない生真面目な図書館司書。黒縁メガネでにこりともしない愛想の悪さ、理屈っぽさなど、華やかなイメージがあったいしだあゆみさんからは、想像もつかない役柄だったが、ご本人は自分に合わせて描かれた役はいやだと当時、語っている。「テレビは映画よりもずっと(真実)を撮られてしまう」として、少しでも素の自分が残っているとそれが見えてしまうので、「自分を洗って洗って」臨むようにしていたという。

 奔放で学生のころから大もて、堅苦しい姉の滝子とはけんかばかりという咲子を演じたのは風吹ジュンさん。風吹さんは、「今、この時代の女の人」を表現したかったとのことで、衣装も「素」の状態が出せるようにと、自前のものがほとんどだったそうだ。対照的な三女と四女を演じた二人は、役作りや演技に臨む姿勢もある意味、対照的だったようだ。

  • 次女・巻子役 八千草薫さん
  • 長女・綱子役 加藤治子さん
  • 四女・咲子役 風吹ジュンさん
  • 三女・滝子役 いしだあゆみさん

向田脚本ならではの手ごたえ

 和田CDが向田邦子さん脚本のドラマの演出を手がけたのは、これが3作目だった。最初が72年1月放送の銀河ドラマ『針女(しんみょう)』(原作:有吉佐和子/主演:佐久間良子)。続いて7月から8月にかけて向田邦子オリジナルの水曜ドラマ『桃から生まれた桃太郎』(主演:森繁久彌)だった。“クローズアップの和田”と評されたこともある和田CDだが、当時、「テレビは音だと思っているんです」と少し意外な発言をしている。その真意は、「役者のアップを映して周りが見えないとき、どこなのかという興味が生じます。そこに入る音で喫茶店なのか、図書館なのかを観ている人が判断するんです」。『阿修羅のごとく』でも、第1回で4人の姉妹が鏡餅を揚げながら談笑するシーンで、カメラがひたすら食器棚を映し続けるというカットがあった。それは、姉妹の会話を聞かせるという狙いだったようだ。

 『阿修羅のごとく』については、やはり人気脚本家の三谷幸喜さんも自身のコラムでドラマの名場面にふれ、「僕からすれば、神様が書いたシナリオ」と絶賛。「どの登場人物も、言っていることと思っていることが違う。僕の理想」と続ける。言葉と思いは必ずしも一致しないものであり、自分もそんなセリフを書きたいと願っていると打ち明けている。

 『阿修羅のごとく』は、さまざまな反響を呼び、翌年の1980年に『阿修羅のごとくパートⅡ』が放送されることになった。

食器棚の向こうでは…

  • 脚本家・三谷幸喜さん

ステラNHK名作座 コラム

四姉妹の本音とエゴに泣き笑い

 70歳の父(佐分利信)に愛人がいると知った四姉妹。しかし、未亡人の長女綱子(加藤治子)は不倫、次女巻子は夫の浮気を疑い、三女滝子(いしだあゆみ)は男っ気もなくひがみっぽい。そして四女咲子(風吹ジュン)はボクサーと同棲中。彼女らの心にもエゴや欲望が渦を巻く。

 見どころは姉妹が本音をぶつけ合うシーン。下着姿で不倫相手といるところを見つけられた綱子は、こんなときもすましている巻子に「あんたのそういうとこ、大嫌い!」と。その1分後にふたりは綱子の折れた差し歯の話で大笑い。しかし「おなかすかない?」と綱子が出したうな重が不倫相手と注文したものだと知るや、巻子は重箱をひっくり返す。一方、咲子は減量していたはずの男が女とラーメンを食べていたことを知る。あちこちでバトル勃発。四姉妹を見ていると、人は最悪の場面で、結構笑えるまぬけなことをするものなんだと実感。このリアルを書ききった向田邦子の脚本はやっぱりすごい。

平凡で幸せに見える女たちが見せる阿修羅の顔。よき母親役が多い名女優にこんな激しさがあったのかと驚く。巻子の夫は言う。「勝ち目ねえよ、男は」。おっしゃる通り!

文/ペリー荻野

  • 土曜ドラマ 向田邦子シリーズ 『阿修羅のごとく』 【パート1は1979年、パート2は1980年放送】 女同士ゆえ、歯に衣(きぬ)着せぬやりとりをする4人姉妹が主人公。脚本家・向田邦子が、女心の奥底に潜む阿修羅のようなエゴや執念をえぐり出した、辛口ドラマである。パート1は父の浮気、パート2は姉妹の男性関係を軸に物語が進む。

    作:向田邦子

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