番組エピソード
大河ドラマの“信長”
戦国武将・織田信長。名だたる武将が恐れたその気性の激しさ、残虐性、人々を引きつけるカリスマ性は、唯一無二の存在ではないだろうか。大河ドラマで戦国時代が舞台になった作品にもたびたび登場する信長だが、いずれも圧倒的な存在感を誇り、それぞれ演じた俳優の個性が光る魅力的な信長になっている。ここでは大河ドラマ56作品中、17作品で登場した信長をピックアップして紹介する。
二度にわたって演じた信長
大河ドラマに初登場して強烈な印象を残したのが『太閤記』(1965年)の信長だった。高橋幸治が演じた信長は大変な人気を集め、当時NHKに「信長を殺さないで」という嘆願が殺到したほど。戦国のカリスマにふさわしいオーラを発揮して視聴者を魅了した。
しかし当の高橋幸治は、日本人離れした彫りの深い顔立ちに時代劇のかつらが似合うとも思えず、そこまで支持を集めたことに驚いたようだ。かつらは“中ぞり”ではなく、“総髪”で様子を見たという。結局、最後まで総髪で通し、炎と煙に包まれた本能寺で静かに去っていった。
同じく高橋幸治が信長を演じたのは、それから13年後の『黄金の日日』(1978年)。実は、このときの秀吉役は『太閤記』と同様、緒形拳だった。
もう1人、信長を二度演じたのが藤岡弘だ。最初が『おんな太閤記』(1981年)で、武将たちには厳しいが女性には優しく、ヒロインねねの良き理解者という姿が描かれた。その藤岡が二度目に信長を演じたのは、8年後の『春日局』(1989年)だ。ただし、このときの出演は本能寺の変を描いた第1回放送のみだった。
日活映画の青春スターだった高橋英樹は『国盗り物語』で演じた信長が、彼にとっての時代劇の礎を築いたという。このときの信長役で数々の賞を受賞したことも良き思い出だ。
『徳川家康』の信長は、この作品が本格的デビューとなった役所広司。期待の新人にふさわしく、信長の喜怒哀楽の振幅の激しさをシャープにテンポ良く演じきった。
大河ドラマで初めて主人公になった信長
ようやく正面きって信長の生涯を描く大河ドラマが登場したのは1992年。信長が登場する大河ドラマでは9作目になる。緒形直人主演でタイトルもずばり『信長 KING OF ZIPANGU』だった。初めて信長を主人公にした作品ということで、岐阜には大手門から楽市楽座までを再現した大規模なオープンセットも作られた。
まだ25歳の緒形のナイーブですがすがしい個性は、それまでの信長イメージを一新するものだった。信長の手厚い保護を受けたイエズス会の宣教師・ルイス・フロイスを語り部に、豪快さや激しさだけではなくその裏にある繊細さなど、信長をじっくりと丹念に描いていった。
ロックミュージシャンの信長
戦国の世に尾張の一角からすい星のごとく登場した信長。その強烈な個性はある意味、ロックミュージシャンにも通じるものがありそうだ。
『武田信玄』(1988年)で信長を演じたのは、ロックバンドARBのボーカルとしても活躍した石橋凌だ。初登場シーンは夜盗のような出立ちで、いきなり父・信秀の葬儀に現れ、抹香を投げつけるというもの。なんとも無頼というかロックな信長を見せつけた。
一方、『天地人』(2009年)の信長は吉川晃司。やはり俳優でロックミュージシャンという経歴だ。保守や権威とは正反対のスタンスを貫いた信長に、ロックスピリッツを感じたという吉川。歴史に造詣の深い彼は、信長を演じるにあたって中国、ヨーロッパの歴史書までひもとき、信長の生きた時代をさまざまな形で実感しながら役に取り組んだという。
独特のセリフが印象的だった信長
1997年の『秀吉』で信長を演じたのは渡哲也だ。重厚な渡の信長は、秀吉役の竹中直人の弾けっぷりを際立たせることになり、その対比が好評を博した。ことに前へ前へと出てくる秀吉に放つ「出過ぎじゃ」というセリフ。突き放しているようでいて、実は秀吉に対する愛情を感じさせる声音と表情が印象に残る。
『利家とまつ~加賀百万石物語~』(2003年)の信長の口グセともいえるセリフが「で、あるか」だった。演じたのは反町隆史。信長の強さとその裏にある孤独を意識したという彼は、「で、あるか」の短いひと言に、さまざまな意志や感情を込めた。
スタイリッシュな信長
『功名が辻』(2007年)の信長は舘ひろしだ。事務所の先輩である渡哲也が信長を演じていたこともあり、あこがれの役だったそうだ。それだけに気合い十分、信長の徹底した合理主義、独創的な考え方などを表現したいと、自らアイデアを出した。乗馬ブーツ、マントなど信長の南蛮好みを反映した衣裳、小道具。エキセントリックな信長イメージとして色も“赤”にこだわるという徹底ぶりだった。
『江~姫たちの戦国~』(2011年)は、豊川悦司だ。豊川の信長は、ヒロイン・江の“師”としての役割も担っており、江は信長が語りかけた「己を信じ己の思うままに生きよ」という言葉に大きな影響を受ける。信長は本能寺の変で散った後もしばしば江の背後に現れ、引き続き圧倒的な存在感を示した。
豊川は信長のイメージを固定させず、とらえどころのない存在という部分も意識。毎回、演出陣が驚くほど多彩な演技プランを携えて撮影に臨んでいた。
お濃との仲がひときわ親しく描かれた信長
『軍師官兵衛』(2014年)で江口洋介演じる信長は、苛烈な破壊者として恐怖の対象になる一方、革新的な治世者として、主人公の官兵衛に大きな影響を与え、「官兵衛の運命を変えたカリスマ」とされる。本作では信長の恐ろしい面だけでなく、茶会を楽しむ信長や、舞を踊る信長、内田有紀演じるお濃に心を許している様子の信長など、多彩な面を見せた。また、本能寺の変では、江口が幸若舞「敦盛」の詞章「人間五十年、化天のうちを比ぶれば、夢幻の如くなり。一度生をうけ、滅せぬもののあるべきか」を語り、最後に「生きるも死ぬも一度きり。存分に生きたぞ」と本作の信長らしいセリフとともに自害。人間・信長の名シーンとなった。
少ない登場シーンで鮮烈な印象を残す信長
『真田丸』(2016年)で信長が登場したシーンはわずか2シーン。しかし、信長を演じる吉田鋼太郎のブーツの足音が近づくだけで画面から緊張感が伝わり、その姿が現れると信長の威圧感、狂気性がいかんなく発揮された。発したことばの「真田安房守か。…よき面構えじゃ」と「もう一度申してみよ!」。この2つのシーンの静けさと激しさの落差が信長の恐ろしさを強く印象づけた。
『おんな城主 直虎』(2017年)の信長役は歌舞伎役者の市川海老蔵。松平(徳川)家康が信長と初対面するシーンで初登場。わずかな光しか入らない暗い室内。威厳ある空気をまとい、低音を響かせ、家康を震え上がらせる信長。家康が「鬼」と信長を表するほど、おどろおどろしい信長になっている。
【アカイさんの一言】
「鳴かぬなら殺してしまえ、ほととぎす」で知られる織田信長。その激しい気性や天才的な戦略家ぶりもさることながら、天下統一の夢を目前にして散った姿に日本人は強く心をひかれてしまうのかも知れない。ときには端正に、またあるときは強烈な個性を前面に出して演じてきた歴代信長。さて、あなたはどの信長が好みかな?
- 太閤記
- 放送期間:1965(昭和40)年 1月~12月
- 作・原作:吉川英治 脚本:茂木草介
- 信長を演じた人:高橋幸治
- 主な出演者:緒形拳、藤村志保、石坂浩二
- 天と地と
- 放送期間:1969(昭和44)年 1月~12月
- 作・原作:海音寺潮五郎 脚本:中井多津夫、杉山義法
- 信長を演じた人:杉良太郎
- 主な出演者:石坂浩二、高橋幸治、中村光輝、新珠三千代
- 国盗り物語
- 放送期間:1973(昭和48)年 1月~12月
- 作・原作:司馬遼太郎 脚本:大野靖子
- 信長を演じた人:高橋英樹
- 主な出演者:平幹二朗、山本陽子、近藤正臣
- 黄金の日日
- 放送期間:1978(昭和53)年 1月~12月
- 作・原作:城山三郎 脚本:市川森一
- 信長を演じた人:高橋幸治
- 主な出演者:市川染五郎、栗原小巻、根津甚八、川谷拓三
- おんな太閤記
- 放送期間:1981(昭和56)年 1月~12月
- 作・原作/脚本:橋田壽賀子
- 信長を演じた人:藤岡弘
- 主な出演者:佐久間良子、西田敏行、フランキー堺
- 徳川家康
- 放送期間:1983(昭和58)年 1月~12月
- 作・原作:山岡荘八 脚本:小山内美江子
- 信長を演じた人:役所広司
- 主な出演者:滝田栄、武田鉄矢、夏目雅子
- 武田信玄
- 放送期間:1988(昭和63)年 1月~12月
- 作・原作/脚本:田向正健
- 信長を演じた人:石橋凌
- 主な出演者:中井貴一、柴田恭兵、西田敏行
- 春日局
- 放送期間:1989(昭和64・平成1)年
- 作・原作/脚本:橋田壽賀子
- 信長を演じた人:藤岡弘
- 主な出演者:大原麗子、佐久間良子、山下真司、江口洋介
- 信長 KING OF ZIPANGU
- 放送期間:1992(平成4)年 1月~12月
- 作・原作/脚本:田向正健
- 信長を演じた人:緒形直人
- 主な出演者:菊池桃子、平幹二朗
- 秀吉
- 放送期間:1997(平成8)年 1月~12月
- 作・原作:堺屋太一 脚本:竹山洋
- 信長を演じた人:渡哲也
- 主な出演者:沢口靖子、竹中直人、仲代達矢
- 利家とまつ~加賀百万石物語~
- 放送期間:2003(平成14)年 1月~12月
- 作・原作/脚本:竹山洋
- 信長を演じた人:反町隆史
- 主な出演者:唐沢寿明、松嶋菜々子、香川照之、酒井法子、天海祐希
- 功名が辻
- 放送期間:2007(平成18)年 1月~12月
- 作・原作:司馬遼太郎 脚本:大石静
- 信長を演じた人:舘ひろし
- 主な出演者:仲間由紀恵、上川隆也、柄本明、西田敏行
- 天地人
- 放送期間:2009(平成21)年 1月~12月
- 作・原作:火坂雅志 脚本:小松江里子
- 信長を演じた人:吉川晃司
- 主な出演者:妻夫木聡、北村一輝、笹野高史、常盤貴子、阿部寛、松方弘樹
- 江~姫たちの戦国~
- 放送期間:2011(平成23)年 1月~11月
- 作・原作/脚本:田渕久美子
- 信長を演じた人:豊川悦司
- 主な出演者:上野樹里、宮沢りえ、水川あさみ
- 軍師官兵衛
- 放送期間:2014(平成26)年 1月~12月
- 作・原作/脚本:前川洋一
- 信長を演じた人:江口洋介
- 主な出演者:岡田准一、中谷美紀、黒木瞳、竹中直人、柴田恭兵
- 真田丸
- 放送期間:2016(平成28)年 1月~12月
- 作・原作/脚本:三谷幸喜
- 信長を演じた人:吉田鋼太郎
- 主な出演者:堺雅人、大泉洋、長澤まさみ、内野聖陽、草刈正雄
- おんな城主直虎
- 放送期間:2017(平成29)年 1月~12月
- 作・原作/脚本:森下佳子
- 信長を演じた人:市川海老蔵
- 主な出演者:柴咲コウ、三浦春馬、高橋一生
※NHKアーカイブスブログ(2011年3月31日)より転載、加筆、写真追加
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