番組エピソード
大河ドラマ『春の坂道』
家康・秀忠・家光の徳川三代将軍に仕え、体得した剣と禅の道を政治や教育の場に生かした剣術家・柳生但馬守宗矩の生涯を描いた。
将軍家光役 市川海老蔵さん(十代目)
柳生宗矩役 中村錦之助さん(初代)
柳生十兵衛役 原田芳雄さん
柳生宗冬役 清水紘治さん
これぞプロ!完全主義の中村錦之助さん
主演の中村錦之助さんは、当時100本を超える映画に出演、不動の人気を誇る時代劇のトップスターだった。そんな大スターでもテレビの連続ドラマは2作品目、NHK初出演ということで「私は不器用なほうでテレビスタジオにも不慣れなので、少し不安でした」とか。
ただ、出演が決まるとすぐに自宅近くの鵠沼海岸で体力作りのためのトレーニングを開始。あるときは早朝、あるときは夕陽を浴びながらおよそ10キロの海岸を走り続けたそうだ。また“将軍指南役”という日本一の剣士になるための準備として、剣道教師について居合いの稽古も始めた。基本から学び、真剣での稽古に全神経を集中。ふつうの人なら1週間はかかるという技を2時間でものにして剣道教師を驚かせている。
役に取り組む姿勢は入念で何一つおろそかにしない。柳生宗矩に関する資料はすべて手元に置き、自宅でもひまさえあれば読み返し、予定より30分も早く化粧室入りして化粧もすべて自分でしたそうだ。セリフもリハーサルの段階ですべて覚えていた。
将軍・家光の“指南役”を演じる
坂崎出羽守役で出演した高橋英樹さんは「俳優の先輩として尊敬している方とご一緒するだけで緊張するのに、その方がリハーサル初日で台本を放してしまうのですから、我々も必死でした」と振り返る。
坂崎出羽守といえば、大坂城落城の際、炎の中から千姫を救い出した人物。幕府が約束を反故にしたことで自害となるが、宗矩が坂崎を説得に訪れるシーンの撮影は、なんと16分間、カメラを回しっぱなしだったそうだ。息詰まる緊張感に「終わった瞬間、ふたりとも汗だくでした」と言いながらも、「とても嬉しかったですね」と話してくれた。
坂崎出羽守役 高橋英樹さん
見せ場は柳生新陰流の立ち回り
柳生新陰流を確立し、剣の心を政治に役立たせた柳生宗矩の生涯ということで見どころはやはり立ち回りだ。
前半では宗矩が父・柳生石舟斎から、祖先の墓前で極意の一つ「三学円之太刀」を授けられるシーンが描かれた。石舟斎役の芥川比呂志さんは、柳生新陰流師範の大坪指方さんの指導で難しい竹刀さばきに汗しながらも「少年時代からあこがれていた剣の達人役ですから」と大張り切りだったそうだ。
放送が進むにつれ、NHKには本格的な宗矩の立ち回りを見たいという投書が多く寄せられた。ところが家康に仕えてからの宗矩が人を斬るのはただの一度だけ。大坂夏の陣で槍(やり)武者を次々と斬っていく“7人斬(ぎ)り”だ。人を生かす活人剣の境地に達した宗矩がやむを得ず、初めて剣を抜くという設定だった。この見せ場には大坪師範も凝りに凝った殺陣(たて)を指導、1日がかりの撮影となった。原作者の山岡荘八さんもその様子をスタジオで見学、「さすがは中村錦之助くん、見事なものだ」と絶賛していたという。
大坂夏の陣“七人斬り”の場面
講談でおなじみ日本三大仇(あだ)討ちの一つ“鍵屋の辻の決闘”も再現された。ただし、荒木又右衛門がばったばったと斬り捨てるくだりは史実に合わせて簡略化。渡辺数馬と河合又五郎の死闘をクローズアップし、又右衛門は行司役といったところ。演じる若林豪さんは物足りなそうな表情を見せていたとか。一方、迫真の斬り合いを披露した数馬役の村井国夫さんと又五郎役の入川保則さんは、5時間にも及ぶ撮影に「こんなしんどい決闘は俳優になって初めてです」と披露困ぱい。ちなみに5時間というのは実際の仇討ちとほぼ同じ時間だったそうだ。
“鍵屋の辻の決闘”の場面
多彩な出演者の顔ぶれも魅力
バラエティーに富んだ出演者の顔ぶれも話題を集めた。宗矩の生涯の友となる反骨心に富んだ希代の名僧・沢庵和尚を演じたのは田村高広さん。徳川秀次の側近・不破判作役は田村正和さん、そして宗矩の次男・友矩役には時代劇初出演となる田村亮さんが出演して、田村三兄弟が勢揃いした。
関白秀次の側室・お万の方を演じたのは、宝塚歌劇団のトップスターだった上月晃さん。出演発表と同時にファンから問い合わせの電話が殺到。撮影のある日はNHKの玄関口で大勢の少女ファンが出待ちする姿が見られるなど、その人気のすごさに驚かされた。
三代将軍・家光は歌舞伎界のホープ・市川海老蔵(=十二代目市川團十郎)さん、柳生十兵衛を演じた原田芳雄さんは新劇界(俳優座)の期待の若手だった。また家光の弟・忠長役は歌手の舟木一夫さん。すでに大河ドラマは『赤穂浪士』『源義経』に続いて3作目の出演となった舟木さんについて、スタッフは「気の弱さからしだいに追い込まれていく悲劇の人・忠長は舟木さんの持ち味にぴったり」と高く評価していた。
変幻自在、神出鬼没の柳生の忍者・弥さこと村田弥三を演じた長門勇さんも、さまざまな変装で人気を集めた。「弥さの得意は変装ならぬ変相術なので、毎回、今度はどんな顔にしようかとスタッフとともに苦心してます」。自慢は出っ歯の入れ歯だが、顔だけでは限度があると、途中からは衣装にも変化をつけて楽しませてくれた。
沢庵和尚役 田村高廣さん
右:家光役 市川海老蔵さん(十代目、のちの十二代目市川團十郎さん)左:十兵衛役 原田芳雄さん
忠長役 舟木一夫さん
“忍者の弥さ”を演じた長門勇さん
タイトルバックは夜明け前の富士登山で
番組冒頭の2分30秒のタイトルバックが象徴するのは劇的な柳生宗矩の生涯。そこで制作スタッフが狙ったのは平和を宇宙の現象として表現することだった。戦国末期の世を表す夜明け直前の厚い雲、その裂け目から光彩を放って昇る太陽を宗矩になぞらえた。続いて画面に現れるのは微速度撮影による千変万化する雲の姿で、世の中の移り変わりを表現。そこに宗矩の父・宗厳筆の柳生流の極意を描いた絵巻物をだぶらせて柳生の剣を象徴させている。
この撮影でもっとも難題だったのが、雲の裂け目から出る朝日をとらえること。ディレクターとカメラマン一行が富士山のふもとの御殿場にベースキャンプを置き、雲の出具合をうかがいながら富士山の五合目に登り、夜明け前の3時から狙うこと三度。三度目の正直でようやく撮影に成功したそうだ。
また柳生流の絵巻物は、生駒山の宝山寺所蔵の由緒ある「新陰流兵法書目録事」。これをバックに浮かび上がる『春の坂道』の題字は山岡荘八さんの筆になるものだった。
新陰流兵法書目録事(宝山寺所蔵)
ステラNHK名作座 コラム
錦之助「静」の演技で新境地
家康の時代から、徳川の天下づくりを支えてきた柳生但馬守宗矩(中村錦之助)。病に倒れた高齢の宗矩を、三代将軍家光(十代目・市川海老蔵)が自ら見舞う。しかし宗矩の口から出たのは、明に援軍を送ろうとする家光を諌める厳しい言葉。「正義の出兵じゃ」と言う将軍に「いつの世でも正義は常に戦の道具でございました」と反論する。不機嫌顔で席を立とうとした家光に宗矩は、柳生新陰流の極意、無刀取りの秘技を見せると言う。雷鳴がとどろく中、病で座ったままの宗矩に家光が真剣を振りかざした!
錦之助×海老蔵。すさまじい緊迫感。一瞬の秘技の鮮やかさに目を奪われる。映画では「一心太助」「宮本武蔵」など暴れまわる主人公で人気者となった中村錦之助が、本作では大坂夏の陣で7人を相手にした場面以外ではほとんど人を斬らず、「静」の武芸者として新境地を見せた。
宗矩を思う村田弥さの長門勇、「父上は鬼よ」と言い放つ柳生十兵衛の原田芳雄ら共演者の存在感も大きい。ひたすら太平の世を願った宗矩が、最期に何を「見た」のか。映画、ドラマで宗矩を当たり役とした錦之助の深みのある演技を味わいたい。
文/ペリー荻野

- 大河ドラマ『春の坂道』 【1971年放送】
徳川家三代の将軍に仕えた剣豪、柳生但馬守宗矩の生き様を描いた力作。
原作:山岡荘八 脚本:杉山義法 音楽:間宮芳生 語り:福島俊夫
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