ミクロワールド 動くカビ? 粘菌の不思議 オープニング
森の地面を覆うたくさんの落ち葉や、朽ちて倒れた木の幹。今回の主役は、そんな落ち葉や幹の上にいます。「粘菌(ねんきん)」です。大きさおよそ3mmのフタナワケホコリ、青く丸い体のルリホコリ、穂を束ねたようなサビムラサキホコリ…。どれもまるでカビやキノコのような形をしていますが、まったく別の生きものです。
これらは、子孫を残すための胞子を持った状態で、「子実体(しじつたい)」と呼ばれています。胞子は、子実体の中にある細かい網のようなものに付いています。網の色や形は粘菌の種類によってさまざまです。胞子の大きさは、わずか0.01mm。子実体から出た胞子は風に乗って飛んでいきます。胞子で殖えるところは、カビやキノコと同じです。しかしここから、粘菌独特の奇妙な活動を始めます。
湿った場所に落ちた、アオモジホコリの胞子。中から細胞が出てきました。しばらくすると、細胞はまるでアメーバのように動き始めました。「アメーバ状細胞」と呼ばれています。まわりには、落ち葉や朽ち木を分解する小さなバクテリア(細菌)がいます。そのバクテリアを、アメーバ状細胞が食べながら移動していきます。そして、ある段階に達すると、雄(おす)と雌(めす)に相当する細胞どうしが合体し、一つの細胞になります。
このあと細胞は分裂することなく、一つの細胞のまま大きくなっていきます。そして最終的には、木の表面を覆ってしまうほど巨大になります。木の表面に見られる黄色いものが、大きくなった粘菌です。「変形体(へんけいたい)」と呼ばれる状態です。変形体も、バクテリアを食べながら移動していきます。どのようなしくみで移動しているのか、一部を拡大して見てみましょう。
まるで血管を流れる血液のように、細胞の中を細胞の中身が流れています。細胞の中身は前進する先端にどんどん送られます。この流れによって、全体が一定のリズムで前進と停止を繰り返しているのです。粘菌の移動が止まりました。バクテリアが少なくなるなど、環境が悪くなったようです。今度は上に向かって形を変え、最初に見た子実体になります。このように粘菌は、植物とも動物ともつかない、不思議な一生を繰り返しているのです。