ミクロワールド 水中の食虫植物 タヌキモ オープニング
夏、水の澄んだ池の水面から、黄色い花が顔を出しています。直径3cmほどの、タヌキモの花です。花を下へたどると、水の中に、1mほどの茎が伸びています。タヌキモは、水面の下をただよう水草で、根はありません。茎には、細かく枝分かれした葉をたくさんつけています。葉の根元には、丸いものが並んでいます。直径5mmほどのこの丸いものが、今日の主役です。
タヌキモのまわりを、蚊の幼虫であるボウフラが泳いでいます。ボウフラが一瞬で、葉の根元の丸いものの中に入ってしまいました。実はタヌキモは、水中の虫などを捕まえて食べる食虫植物です。この丸いものは、獲物を捕らえる袋なのです。タヌキモが獲物を捕らえるしくみを見てみましょう。
ふだん、この袋はぺちゃんこで、水はほとんど入っていません。先端にある口には扉がついていて、水が入ってこないようになっています。口のまわりにある長い毛は、獲物を口に導くしかけ。そして、扉の端にある短い4本の毛は、それに触ると扉を開くしかけです。ボウフラが短い毛に触ると、その瞬間だけ扉が開き、一気に水が流れ込みます。流れ込む水の勢いで、口のまわりにあるものは何でも袋に吸い込まれます。
ときには、袋に入りきらないような大きいボウフラも吸い込んでしまいます。3匹をまとめて吸いこんだ袋もありました。袋の中には、獲物を消化し吸収するしくみも備わっています。袋の内側にはX字型の細胞がたくさんあり、この細胞が消化液を出して獲物を分解し、栄養として吸収するのです。
吸い込んだ水でふくれた袋は水を外に出し、30分ほどで、またぺちゃんこの姿になります。水を外に出すしくみは、袋のおもて一面にあります。拡大すると、小さい丸い形の細胞が見えます。この細胞が、袋の中の水を外に出すポンプの役割をするのです。
水をはき出し、獲物を待ち、捕らえた獲物を消化し、吸収する。タヌキモはこれを繰り返しています。タヌキモが育つ池や沼は、栄養が豊富ではありません。虫などを捕らえて栄養を補うことで、タヌキモは生き続けているのです。