ミクロワールド 蚊　吸血の秘密 オープニング

夏、公園のように池や木立の多い場所でじっとしていると、どこからともなくやってくる蚊。ときに人や動物の血を吸うことで病気を媒介（ばいかい）する蚊ですが、血を吸うのは雌（めす）だけです。ふだんは雌も雄（おす）も、花のみつや草の汁を吸ってくらしています。

雄と雌の大きな違いは触角（しょっかく）にあります。雄の触角には、長い毛がアンテナのように並んで生えていますが、雌には短い毛しか生えていません。雄はこの長い毛で雌の羽音を感じ取り、雌に向かって飛んでいきます。そして交尾をします。交尾をした雌は、卵を成熟させるため、人や動物の血液中のタンパク質を必要とするのです。

蚊の口は、人や動物の血を吸うための巧みなしくみを持っています。血を吸うとき、蚊は頭を振動させながら、口を皮膚に突き刺していきます。口を拡大して見ると、細長い口が見えます。その見えている部分は、下くちびるです。実は、皮膚に突き刺すのはこの下くちびるではなく、中にある針です。丸くなっている下くちびるの先端から、鋭くとがった針が出てきます。蚊はこの下くちびるを皮膚にそっと当て、中の針だけを皮膚に刺し込むのです。

私たちは蚊に刺されても痛く感じません。いったいどんな針なのでしょう。針を下くちびるから出してみると、針の直径はわずか0．02mmほど。長さは下くちびるとほぼ同じです。実はこの針は、６本もの細い針がたばになってできています。これらの針には、それぞれ役割があります。まず、外側の一対の針には、縁に鋭いギザギザがあります。これで皮膚を切り裂きながら針を差し込んでいきます。

次に使うのは、真ん中に管（くだ）のある針です。蚊は血を吸う前に、血液が固まらないようにする唾液をこの針で注入します。その唾液によるアレルギー反応が起こると、私たちはかゆみを感じるのです。そして、真ん中の太い針。これで血を吸います。この針には先端に血を吸うための穴があります。この針の両側にある２本は、針から血液がもれないようにしていると考えられています。蚊の針は、皮膚に刺し、血液を吸うための、精密なしくみを持った針なのです。

針が皮膚に刺さっているとき、その分、下くちびるが余ります。余った部分は、うしろのほうに、「く」の字型に折れ曲がります。針を抜くにつれて下くちびるは伸びていき、針を包みます。蚊の口は、驚くべき複雑なしくみになっていたのです。