
アプリを駆使(くし)してニッポンをさぐれ! ズームジャパン!

昼下がりのリビング。今日も事件が起こりました。ミウがひとりごとを言いながら筋(きん)トレにはげんでいます。「お姉ちゃん、だれと話してるの?」とショーゴが聞くと、「だれって、上腕(じょうわん)二頭筋くんに決まってるでしょ!」とミウ。「先の見えない現代社会。だれも守ってくれる保証はない」。ミウの妄想(もうそう)が始まります。「あれはてて秩序(ちつじょ)のない世界になって、ヒャッハーってさけぶ暴走集団と戦うはめになったら」。「ミウよ、タフに生きぬくには全身ムキムキにビルドアップすることだ。ところでこのエキスパンダー、もっと強靭(きょうじん)なバネにカスタマイズはできないかね?」。「え?」。

ここで、「はい、いったん休憩(きゅうけい)」とショーゴ。「はっ!」とミウが我(われ)に返りました。エキスパンダーを手に取り、「ねぇ、ショーゴ。このバネ、どうしたらいいかな?」と言います。すると、「もしかしたら、中小工場なら何かいいものを作ってくれるかもね」とショーゴが言いました。「中小工場?」。「その通り。中小工場は、日本のモノづくりに欠かせないんだ」とショーゴがタブレットを開きます。「今回のテーマは、日本の中小工場。まずは、その特徴(とくちょう)を見てみよう。動画は『大工場と中小工場』。ズームアウト!」。

現在、日本には20万以上の工場があります。そのうち、働く人の数が300人以上の工場を「大工場」といいます。大工場では、自動車や鉄道の車両、エアコンなど、大規模(だいきぼ)な生産設備が必要なものが作られています。一方、働く人の数が300人未満の工場を「中小工場」といいます。服やカバン、食料品など、わたしたちに身近な製品をたくさん作っています。日本にある工場のうち、1%が大工場。残りの99%は中小工場です。「ほとんどじゃない!」とミウはびっくり。

中小工場は、大工場で生産する製品の部品も作っています。2011年に起きた東日本大震災(だいしんさい)では、自動車の部品を作っている多くの中小工場が被害(ひがい)を受けました。部品が流通しなくなり、遠くはなれた関連工場や、自動車を作る大工場の生産も止まってしまいました。中小工場は、大工場の生産を支える生命線でもあるのです。

「このトレーニング器具の部品も、中小工場で作られているのかも」と感心するミウ。「これぐらい知ってて当然だよ。だってこれは、小5で習う『小5の常識』!」とショーゴの決めセリフです。「でも、小さくてだいじょうぶ? 技術なら大きい工場のほうがすごいんじゃない? だって、おみくじは、小・中・大で大吉(だいきち)がいちばんすごいでしょ」とミウ。「このバーベルのおもりだって、大きいほうが…」と言いかけますが、「おみくじやバーベルとはちがうよ」とショーゴがさえぎりました。「え?」。「中小工場にはすごい技術があるんだよ。次はこの動画。『中小工場の高い技術』。ズームイン!」。

兵庫県豊岡(とよおか)市にある中小工場。作っているのは、バネ。よく見るコイル状のバネから、めずらしい形のバネまで、さまざまな種類を作っています。東京スカイツリーで使われているものもあります。それは先端(せんたん)部。アンテナが取り付けられている塔(とう)をゆれから守る装置(そうち)に、8個の巨大(きょだい)なバネが使われているのです。この工場では、こうした特殊(とくしゅ)なバネの生産依頼(いらい)に高い技術で応えています。働いている人のヘルメットに光るシールがありました。「プラチナ賞?」とミウ。バネに関する国家資格3種類すべてで一級を獲得(かくとく)した職人の証です。

その技術を見ていきましょう。材料となるのは鋼(はがね)のぼう。これを900℃で熱してバネの形にまいていきます。まいた鋼をぬきとるのはタイミングが重要。ぬくのが早すぎると形がくずれ、おそいと固まってしまいます。「ポイントはカチカチという音」と職人の小山和裕さん。聞いてみると…「カチッ、カチッ」。確かに聞こえます。「一定の時間を過ぎるとテンポが速くなって、その音が完全になくなったらぬきごろです」。音のほかにも、色の変化やその日の気温、鋼の種類も考慮(こうりょ)しながら、ぬきとるタイミングを見きわめています。「材料一本一本性格がある。その性格を見きわめながらの作業。“バネと会話をしている”という表現がいちばんいい」。

続いて、ぬきとったバネをくりかえし熱したり冷ましたりすることで、しなりを出し、反発するようにします。ここからは、特に大切でむずかしい「調整」の工程。「バネとバネのすきまが小さかったり広かったりすると、そこだけがずれていくので、そこを均等に開ける作業」と調整の職人の案田俊一さん。数ミリ単位でバネのすきまを均等に調整。さらに、全体の形を真っ直ぐに整えます。正確にのびちぢみするだけでなく、客の要望に合わせた反発力を生み出します。調整する前と比較(ひかく)すると、垂直(すいちょく)に立てた定規にそって、真っ直ぐになっているのがわかります。

最後に「検査」です。見た目、大きさ、バネの反発の強さなど、ベテランの職人がきびしくチェックします。多くの細かな工程を経て、ようやく一つのバネができあがるのです。「大特急でこのバネをどうしても作って下さいという情報が入ってくる。そのときは現場が『やるで~!』みたいな感じで一丸になってやっていく。それでお客さんから『大変助かりました』と、そういった言葉をいただけるのがいちばんうれしい」と職人リーダーの戸田哲也さんは言います。

「中小工場って、すごい技術を持っているのね」と感心するミウ。「わかってくれた? ほかにもね、職人の技を伝える工夫や、中小工場どうしが協力してモノづくりをした取り組みもあるよ」とショーゴがタブレットでほかの動画も見せました。「わたしもバネ作り、したくなってきた!」とミウ。「今度は中小工場で働くの?」とショーゴが聞くと、「ううん。バネ職人さんたちの熱意を“バネ”に、筋肉(きんにく)の“バネ”をきたえまくるわ!」とミウ。「え?」。「ほら、ショーゴもいっしょにきたえるわよ!」。トレーニングを始める二人。これにて事件解決…なのか?