『もやモ屋』。それは、まぼろしの映画館(えいがかん)。みればみるほど、頭はモヤモヤ、心もモヤモヤ。さあ、ごらんあれ!
さいが学校の中庭で友だちと走り回って遊んでいます。その様子を、マコが教室のまどごしにじっと見ていました。さいがたっきゅうをしていると、やはりマコがろうかからじっと見ています。さいの打った球がそれて、その子の足もとへころがっていきました。球を拾おうと前かがみになるマコ。そのはずみでランドセルが開いて、中身をゆかの上にまきちらしてしまいました。さいはころがってきたペンを拾い上げ、マコにわたしました。「だいじょうぶ?」。あわててふで箱やペンをランドセルにしまおうとするマコ。すると、「あ、おんなじだ!」と、さいがマコのノートやふで箱を見て笑顔(えがお)で言いました。
「さーちゃん、マネされるのいや?」。てつぼうをしているさいにマコが言いました。「えー、“おそろ”でかわいいじゃん」とさい。クラブ希望(きぼう)とどけの用紙を手に、「さーちゃんは、お姉ちゃんといっしょのしょうぎクラブにするかと思ってた」とマコ。さいが第一希望に書いたのは『たっきゅう』でした。「さーちゃん、ひそかにたっきゅう練習して、今度姉ちゃんをケチョンケチョンにしてやるんだ」とさい。「いいなぁ、お姉ちゃん」と言うマコに、「一人っ子のほうがいいよ」とさい。マコが「ねえ、わたしもたっきゅうクラブ入っていいかな?」と聞きました。「どこに入ったって、マコの自由だぁ!」とさい。
マコは、さいのクラブ希望(きぼう)とどけを見ながら、自分のクラブ希望とどけを書き始めました。第一希望『たっきゅう』、第二希望『テニス』、第三希望『バドミントン』。さいと同じです。何か言いかけるさいにマコが言いました。「その服どこで買ったの?」。「えっ。これ? 駅前のお店。あな場なんだ」とさい。「かわいいね」と言われ、よろこぶさい。そこへ、「さいー!」とよぶ声が。さいの姉の明(あかり)でした。「お姉ちゃん!」と、さいはうれしそうにかけていきます。さいは明と何か話しながらなかよく帰っていきました。うらやましそうに見送るマコです。
さいがしょうぎを指しています。相手はまだ小さなゴン。でもゴンが指した一手にさいは「しまった」という顔になりました。となりで指していた明は、「歩」を相手の「玉将」の前におきます。「まいりました」と頭を下げる相手。それを見ていたさいも、「歩」をいきおいよくゴンの「玉将」の前に。ところが、「はんそく負け。二歩(にふ)です。ばーか」とゴン。「ばかじゃない!」と言い返しますが、「自分で考えずマネばっかの人は、ばか」と言われてしまいました。おこりだすさいを、「ムキにならない。ね。ゴンちゃんに言うことあるよね」となだめる明。ばかにしたような顔のゴンに、さいは対局カードをたたきつけました。
公園で、さいがイライラと池の水面をぼうでたたいています。ふと見ると、マコがお母さんと歩いていました。2人は洋服屋さんに入っていきます。さいはお店のまどから中をのぞきこみました。マコはさいが着ていたのと同じ服をえらび、着てみます。「うん。いいじゃん」とお母さんに言われ、うれしそうなマコ。まどの外からじっと見ているさい。帰り道、急にはげしい雨がふってきました。ずぶぬれで家に帰り、タオルを頭からかぶっているさいに、「ああいうときこそ、『まいりました』って頭下げなきゃ」と明がしょうぎのときのさいを注意しました。「自分のまちがいみとめなきゃ、ぜったい強くなれないからね!」。
次の日。いつものお気に入りの服を着て学校へ行くさい。すると、となりの3年2組の教室から出てきたマコも、さいとおんなじ服をきていました。しかも、長かったかみを短く切って、さいとおんなじヘアスタイルです。めがねもはずしていました。クラスの子に「マコちゃん、かみみじか」「にあってるよ。かわいいね」と言われ、「ありがとう」とうれしそうなマコ。行ってしまうマコたちを、同じヘアスタイル、同じ服でじっと見送るさいです。
マコが中庭で友だちと走り回って遊んでいます。ふと足をとめ、「さーちゃんのお姉ちゃん!」と明にかけよりました。「マコちゃん」。マコは、明の耳に何かひそひそささやいています。楽しそうにわらう明。そんな2人を教室のまどから見ていたさいは、その場をはなれました。マコは、「おどろかせたいから、ぜったいさいちゃんの誕生日(たんじょうび)までだまっててね」と明に言いました。「うん!」と明。さいは、「バン!」とけしゴムをしょうぎのこまのように、つくえの上にたたきつけました。
かいだんで、さいはマコにばったり。かけよるマコからにげるようにはなれようとするさい。マコはさいの服のにおいをかいで、「さーちゃんち、なんてせんざい使ってる?」と聞きます。さいは、「ねぇ、わたしのお姉ちゃんと何話してたの?」と聞きました。「べつに何も。あいさつしただけ」とマコ。「うそ。お姉ちゃんがあんなにわらうのおかしい」とさい。トイレに行こうとすると、「わたしも」とマコ。すると、「マネしないで。さーちゃんのマネばっかしないで」とさいが言いました。「マコがいると自分がうすまる気がして…こわいよ」。そう言って、さいはマコをおいて行ってしまいました。
公園の池をのぞきこんでいるさい。すると、「マコ!」と声をかけられました。ふりむくと、マコのお母さんでした。「あ、さいちゃん!」。マコのお母さんと歩いていくさい。「うちの子、声まで大きくなったみたいでね。よっぽどさいちゃん、すきみたい。ね、これからもマコとずっとなかよくしてあげてよ」とお母さんが言いました。
ゴンとしょうぎを指しているさい。ゴンが「いつもとちがう手だ。なんで?」と言いました。「マネばっかは、ばかなんでしょ」とさい。すると、「一二三(ひふみ)も、藤井(ふじい)も、マネから始めて強くなった」とゴンが言います。「だれでもさいしょはマネから始めるって、羽生(はぶ)ちゃん言ってた。あんたって、姉ちゃんのマネしてしょうぎ始めたんだよね」とゴン。「わかってる。わかってるよ!」と頭をかきむしりながらさいが言いました。その夜、さいは手紙を書きました。『今日はカッとなってごめんね。やっぱりしょうぎクラブに入る。マコもいっしょにどうかな? マコへ さいより』。
教室で、さいがけしゴムを使ってしょうぎのこまの指し方の練習をしています。中庭から「さいー!」と明の声が聞こえたので、うれしそうにまどに近づくさい。ところが、明がよびかけたのは、さいと同じ服を着て走り回って遊んでいたマコでした。「お姉ちゃん! さーちゃんじゃないよ、マコだよ」とかけよるマコ。「なんだ、マコちゃんか」。2人で走り回って遊び始めます。それを見て、「わかってるけど、わかんない!」と頭をかきむしるさい。つくえに手をおき、しょうぎの『まいりました』のしぐさ。まどごしに、もやもやと雲がわき起こってきます…。モヤモヤを晴らすのは、あなた。