
もうすぐ春(はる)がやってきます。ざわざわ森では、こごえた気もちをおいはらい、あたたかい春をよぶという“春まつり”のじゅんびがはじまっています。「うわぁ、大きなやぐらができたねぇ!」。「たのしみだよな、春まつり!」。がんこちゃんとツムちゃんとバンバンが、おまつりのやぐらのまえで花かざりをつくっています。そこへヒポ先生がやってきました。「みなさん、がんばっているみたいね。花かざり、じょうずにできているわ。ざわざわ森の春まつりは春をよぶだいじなおまつりですから、みんなで力をあわせてせいこうさせましょうね」。ちょうどお花がなくなってしまったので、がんこちゃんが森にとりにいきます。

「あった、あった! いっぱいつんでかえるぞ~」。お花を見つけたがんこちゃん、つぎつぎにかごへ入れていきます。するとどこからか、「ザ、ザ、ザ」という音がきこえてきました。「あれ? なんの音?」。見たことのないとりたちが、さばくのほうからあるいてきます。「あなたたち、だあれ?」ときくと、ひげをはやしたとりが、「わたしたちは、トゲトゲドリ。さばくのむこうにあるトゲトゲじまからきたんだ」といいました。「トゲトゲドリさん? さばくのむこう? あたし、トゲトゲじまなんてきいたことないよ」とがんこちゃん。すると、「ここからとてもとおいところだからね」とトゲトゲドリがいいます。「ふーん」。

するとその人が、「この森はあんぜんかい?」とききました。「え?」。「わたしたち、この森にいていいかな」。「うん、いいよ。ざわざわ森はたのしいところ、いっぱいあるよ」とこたえると、「ありがとう。この子は、ソラ」と、むすこをしょうかいしてくれました。「あたし、がんこ。よろしくね、ソラくん」。でもソラくんは、だまってよこをむいてしまいます。「ソラくん?」。「すこしつかれているんだよ。それにおなかもすいている。みんなね」とお父さん。「じゃ、森の中につれていってあげる。おいしい木のみやキノコがあるんだよ」というと、「だいじょうぶだ、がんこちゃん。わたしたちだけでさがしてみるよ」といいました。

「ただいまー!」。がんこちゃんはおうちにかえると、「さっきね、トゲトゲドリさんにあったよ」とはなしました。「トゲトゲドリ? どこかできいたことがあるような…」とお父さん。「そうだ! おもいだしたぞ。たしか、きれいな青いろをしたとりだよ。空をとぶすがたがすばらしいって、おばあちゃんがいってたよ」といいました。「へぇ~。あれ? でもソラくんたちは…、ちゃいろいからだだったし、空もとんでなかったなぁ。どうしてなんだろう?」。そのよる、トゲトゲドリたちはドーナツぬまのほとりにいました。「もうわたしたちのふるさとはなくなってしまったのね」。「はぁ~、これからどうすればいいんだ…」。

つぎの日。おまつりのやぐらのまえにみんながあつまっています。そこへ、「まつり! まつり! ざわざわ森の春(はる)まつり!」とがんこちゃんがやってきました。「みんな、おはよー!」。でも、がやがやとはなしているみんなを見て、「ツムちゃん、どうしたの?」とききました。すると、「校長先生から、だいじなおはなしがあるらしいの」とツムちゃんがいいます。「だいじなおはなし?」。すると、やぐらの上に校長先生があらわれました。「みなさん、きいてください。ざんねんなのですが、ことしのざわざわ森の春まつりは、中止(ちゅうし)にしようとおもっているんです」。「え…えーっ!」。「なんで!?」。

「あのね、トゲトゲじまが大きなさいがいにあったの。それで、トゲトゲドリさんたちがざわざわ森にひなんしてきたのよ」とガメさんがいいます。「さいがい?」。「ひなん?」。校長先生が、「トゲトゲドリさんたちには、このやぐらにすんでもらうことにしました」といいます。「えーっ、そんな…」とみんな。そこへ、がんこちゃんのお母さんがサボテンのてんぷらをどっさりはこんできました。「トゲトゲドリのみなさん、いっぱいたべて、元気(げんき)を出してくださいね!」。「ありがとうございます」。でも、「春(はる)まつりがなくなっちゃった…」とがっかりするがんこちゃんたち。

「あのさ、春(はる)まつりが中止(ちゅうし)になったのって、トゲトゲドリがきたせいだよな」とバンバン。「そうよそうよ、すっごくたのしみにしてたのに」とケロちゃん。そんなはなしを、やぐらのかげでソラくんがきいていました。「あ、ソラくん」。気がついたがんこちゃんがこえをかけますが、「フンッ。ほっといてよ!」とソラくん。「おい! ほっといてってなんだよ! ちょっとまてよ!」とおこりだすバンバン。「だから、ほっといてっていってるだろ!」。そのままいってしまおうとするソラくん。「ちょっとまちなさいよ!」とケロちゃんもいいますが、ソラくんはいってしまいます。

でも、すこしあるいたところでソラくんは、「うわっ」ところんでしまいました。「ソラくん、だいじょうぶ?」とかけよるがんこちゃん。ソラくんは、「ぼくたちはもともとあるくのがとくいじゃないんだ」といいました。「そうなんだ…。あ、お父さんが、トゲトゲドリはきれいな青いろで、空をとべるって」とがんこちゃんがいうと、ソラくんはだまってうつむきました。「なんで空をとばないで、あるいてるの? ねえ、なんで…」ときくと、「はなしたくない! はなしたってわかんないよ! ほっといてよ!」とソラくんはいってしまいます。「むむむむ、なんでおこってるの? もうソラくんなんかしらない!」。

「ただいま…」。おうちにかえってきたがんこちゃんは、元気(げんき)がありません。「さっきソラくんとけんかしちゃって…」とおばあちゃんにわけをはなします。「おばあちゃんはトゲトゲドリさんのことをしってるの?」ときくと、「ああ。トゲトゲドリはざわざわ森のおんじんなんだよ」といいました。「むかし、ざわざわ森が大かじになったことがあってね。火が大きくなりすぎて、みんなの力ではどうしようもなくなってしまった。そのとき、トゲトゲドリがやってきて、空からたくさんの水をまいてくれた。それでわたしたちはたすかったんだよ」。「すごーい! でも、ソラくんたちはぜんぜんとばないよね。どうしてかなぁ…?」。

そのころ、やぐらの中では…。「ああ、とびたいなぁ」とソラくん。こころぼそくなったのか、「ウェ~ン。お兄ちゃん、おうちにかえりたいよぉ」と、いもうとがなきだします。「だいじょうぶだ。兄ちゃんがまもってやるからな!」。でも、「おうちに、おうちに…」といもうとはなきやみません。「だいじょうぶ。だいじょうぶだからね…」。いもうとをだきしめるソラくん。

やぐらのまえでヒポ先生が、トゲトゲドリのごはんのしたくをしています。そこへ、「先生~!」とバンバンたちがやってきました。「なんで、おとなはそんなにトゲトゲドリにしんせつにするんだ?」とバンバン。「春(はる)まつりがなくなったのはトゲトゲドリのせいなのに」とケロちゃんもいいます。すると、ヒポ先生がはなしはじめました。「トゲトゲドリさんたちがすんでいたトゲトゲじまは、大きな大きなすなのなみにおそわれたの。みんな、とんでにげようとしたけど、からだについたすながかわいてカチカチにかたまったトゲトゲドリは、はねをひろげてとべなくなったの。そして、なんとかざわざわ森まであるいてやってきたのよ」。

「そうだったんだ…」とがんこちゃん。「ソラのやつ、なんにもはなしてくれないからぜんぜんわかんなかったよ」とバンバン。「はなしたくても、はなせなかったのかもしれないわね」とヒポ先生。「ともだちなのに、はなせないこともあるんだね…」。かんがえこむみんな。するとがんこちゃんが、「あたし、やっぱり春(はる)まつりやりたい!」といいました。「えーっ?」。「ソラくんたちといっしょに、みーんなで春まつりをしようよ!」とがんこちゃん。「でも、どうやったらいいんだ?」とバンバン。するとヒポ先生が、「こういうときは、あの人でしょ」といいました。「あの人…?」。

がんこちゃんがソラくんにあいにきました。「ソラくん、あたしなんにもしらなくて…。ごめんなさい! おうちがなくなっちゃって、空もとべなくなって、おなかもすいて…。あたしだったらぜったいかなしいとおもう」とがんこちゃん。「ほっといてよ!」というソラくんに、「ううん、ほっとかない!」とがんこちゃん。「え?」。「だって、ともだちだもん。いっしょにごはんたべたり、いっしょにたのしいことをしたり、いっしょにいてうれしいのがともだちだよ!」。ようやくソラくんも「うん!」といいました。「ねえ、ソラくん、いっしょに春(はる)まつりをしようよ! いっしょにぽっかぽかの春をよぼうよ!」。

ソラくんといもうとをかかえてドーナツぬまにやってきたがんこちゃん。「そーれ!」と、二人をぬまにほうりこみました。「うわぁ!」。ザブーン! すると、「あれ? あったかい」とソラくん。「ふふ。おんせんだよ」とがんこちゃん。ドーナツぬまからカッパさんがあらわれました。「おふろのじゅもんをちょこっとつかって、ドーナツぬまをおんせんにしたっちゃよ~!」。おんせんにつかっていたソラくんは、「あ、からだについたすなが、とけていく! はねがうごかせる!」と大よろこび。いもうとも、「お兄ちゃん、もとにもどったよ」とよろこんでいます。「よかったね、ソラくん」。

「そーれ、みんなも入るっちゃよ!」とカッパさんにいわれ、みんなでおんせんに入ります。「わぁ、トゲトゲドリさんの青いはね、きれいねぇ」とツムちゃん。すながおちて、きれいな青いろになっていました。「あ、あの…。ソラ、ひどいこといって、ごめんな」。「わたしも…ごめんなさい」。バンバンとケロちゃんがあやまりました。するとソラくんが「ううん、もういいよ」とゆるしてくれました。ソラくんは「がんこちゃん、ぼく、もういちどとべるかな?」といいます。「とんでみて」。「とべるわよ」。「とんでみろ、ソラ!」とみんな。「がんこちゃん、いっしょにとんでくれる?」とソラくん。「え、いいの?」。がんこちゃんはソラくんのせなかにのりました。大きくはばたくソラくん。

がんこちゃんをのせたソラくんが大空をゆっくりととんでいます。「わぁ、とんでる! ソラくん、とべたね!」。「うん、とべたよ、ぼく! がんこちゃん、ありがとう! ぼくね、トゲトゲじまが大すきなんだ」とソラくん。「あたしも、ざわざわ森がだーいすき! ソラくんとあたし、おんなじだね」とがんこちゃん。「うん、おんなじだね!」。「あははは」。たのしそうに空をとぶ二人です。

「えー、こんかいのざわざわ森の春(はる)まつりは、トゲトゲドリのみなさんといっしょにおこないたいとおもいます」と校長先生がみんなにいいました。そこへとんできたがんこちゃんとソラくん、「それー!」と花びらをみんなの上からまきます。「わぁ! こんな春まつり、はじめてね」とよろこぶツムちゃん。「ソラくんのおかげよね」とケロちゃん。「ソラ~! ありがとうな~!」とバンバン。「さぁ、みなさん。もっともっと春をよびましょう!」と校長先生。「春よ、おいでーっ!」とバンバンたち。「春よ、おいでーっ!」とヒポ先生たち。「春よ、おいでーっ!」とトゲトゲドリたち。そしてみんなで、「春よ、おいでーっ!」。

空をとびながらがんこちゃんとソラくんがうたいます。「♪春(はる)よおいで 春よおいで きみのところに わたしのところに こごえたからだと かなしいこころを とかしにおいで ほら かおをあげて ひとりのきせつはもうおわり」。みんなもいっしょにうたいます。「♪春よおいで 春よおいで みんなのところに おんなじように ラーラララララ ラーララ ラーラララララ ラーララ」。

みんなのうたがつづきます。「♪春(はる)はくるよ 春はくるよ きみのもとへも わたしのもとへも ふるえるおもいと こおったじかんを あたためにくるよ ほら かおをあげて みんながえがおでまってるよ 春はくるよ 春はくるよ みんなのもとへも おんなじように 春よおいで 春よおいで みんなのところに おんなじように ラーラララララ ラーララ ラーラララララ ラーララ ラーラララララ ラーララ ラーラララララ ラーララ ラーラララララ ラーララ…」。