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オープニング
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(オープニングタイトル)

scene 01自尊心あふれる秀才
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『山月記』の舞台はおよそ1300年前の中国です。主人公の李徴(りちょう)は、幅広い知識を持つ秀才でした。若くして試験に合格し、役人になります。しかしプライドの高い李徴は、自分よりも才能のない上司に仕えることにがまんできず、すぐに役人を辞めてしまいます。「隴西(ろうせい)の李徴は博学才頴(さいえい)、天宝の末年、若くして名を虎榜(こぼう)に連ね、ついで江南尉(こうなんい)に補せられたが、性、狷介(けんかい)、自ら恃むところすこぶる厚く、賎吏(せんり)に甘んずるを潔しとしなかった」。

scene 02秀才の挫折
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妻子を連れて故郷に戻った李徴は、詩を書き始めます。詩人として後世に名を残すことを強く望んだのです。しかし名を挙げることはできず、生活は日に日に苦しくなっていきます。「このころからその容貌(ようぼう)も峭刻(しょうこく)となり、肉落ち骨秀で、眼光のみいたずらに炯々(けいけい)として、かつて進士に登第したころの豊頬(ほうきょう)の美少年のおもかげは、いずこに求めようにもない」。貧しさに耐えられず、李徴は再び地方の役人になります。そして一年後、仕事で立ち寄った宿から、忽然(こつぜん)と姿を消します。

scene 03中国古典文学の深い素養
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『山月記』の作者は、中島敦です。父は漢詩や漢文を教える中学教師。祖父は漢文学者。幼いころから中国の古典文学に慣れ親しんでいました。『山月記』は32歳のときに発表されたデビュー作です。この作品では、漢語を巧みに使いながら、高い理想の前に挫折した主人公の複雑な心情を丹念に描いています。

scene 04虎になった李徴
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李徴が行方不明になって一年後、袁さん(えんさん)という役人の一行が、月明かりのもと、林の中を急いでいました。そのとき、一匹の虎が突如襲いかかってきました。「虎は、あわや袁さんに躍りかかるかと見えたが、たちまち身を翻して、もとの草むらに隠れた。草むらの中から人間の声で『危ないところだった』と繰り返しつぶやくのが聞こえた。その声に袁さんは聞き覚えがあった。驚懼(きょうく)のうちにも、彼はとっさに思い当たって、叫んだ。『その声は、我が友、李徴子ではないか?』」。この虎こそ、李徴の変わり果てた姿でした。

scene 05友との再会
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李徴と袁さんは同じ年に役人の試験に合格した仲間であり、互いに心を許し合った友でした。李徴はこの一年間に自分に起きた出来事を語り始めました。「なぜこんなことになったのだろう。わからぬ。全く何事も我々にはわからぬ。理由もわからずに押しつけられたものをおとなしく受け取って、理由もわからずに生きてゆくのが、我々生き物のさだめだ」。

scene 06名声への執着
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虎となった今の境遇を、半ばあきらめの気持ちで受け入れている李徴。しかし、李徴には一つだけ心残りがありました。それは、詩人としての名声を得られなかったことです。「産を破り心を狂わせてまで自分が生涯それに執着したところのものを、一部なりとも後代に伝えないでは、死んでも死にきれないのだ。…こんなあさましい身となり果てた今でも、おれは、おれの詩集が長安風流人士の机の上に置かれているさまを、夢に見ることがあるのだ」。月明かりのもと、李徴は虎になる前に作った詩を袁さんに語り、記録してもらいました。

scene 07心の奥底にある弱さ
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『山月記』は、中国の伝奇小説『人虎伝(じんこでん)』がもとになっています。『人虎伝』は、殺人を犯した報いとして人が虎になる物語です。しかし中島は、人間の内面にこそ人が虎になる理由があると考えました。
友と語り合うなかで、李徴の心に変化が起こる場面。虎となった李徴が、自分の中にある弱さを語り始めます。

scene 08臆病な自尊心がもたらしたもの
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「かつての郷党(きょうとう)の鬼才と言われた自分に、自尊心がなかったとは言わない。しかし、それは臆病(おくびょう)な自尊心とでも言うべきものであった。おれは詩によって名を成そうと思いながら、進んで師に就いたり、求めて詩友と交わって切磋琢磨(せっさたくま)に努めたりすることをしなかった。…ともに、我が臆病な自尊心と、尊大な羞恥心とのせいである。…これがおれを損ない、妻子を苦しめ、友人を傷つけ、果ては、おれの外形をかくのごとく、内心にふさわしいものに変えてしまったのだ」。

scene 09李徴の咆哮
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李徴の心が虎に戻る時間が近づいてきました。最後に李徴は、故郷に残した妻子の世話を頼むと言い残し、袁さんの前から姿を消します。「一行が丘の上に着いたとき、彼らは、言われたとおりに振り返って、先ほどの林間の草地を眺めた。たちまち、一匹の虎が草の茂みから道の上に躍り出たのを彼らは見た。虎は、すでに白く光を失った月を仰いで、二声三声咆哮(ほうこう)したかと思うと、また、もとの草むらに躍り入って、再びその姿を見なかった」。

10min.ボックス  現代文
山月記(中島敦)
狂気じみた自己愛、名声への執着を描いた短編。舞台は中国の官吏登用などの社会制度を解説する。現実離れした物語の中に描かれる、人間心理のリアルな描写を味わう。

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