オープニングタイトル
夏。畑(はたけ)や原っぱは、明るいお日さまをいっぱいあびてかがやいています。ある池のそばのひっそりしずまりかえった草むらで、あひるのお母さんがもう何日もたまごをあたためています。すると…、「ピヨッ、ピヨッ、ピヨ~ッ」。お母さんのおなかの下からヒナたちがとびだしてきました。「わぁ、なんてかわいい子どもたちでしょう。あら? まだたまごが一つのこっているわ。大きいこと! やれやれ」。お母さんは、また、たまごをあたためはじめました。〔語り:奥村佳恵(おくむら・かえ)さん〕
やがてそのたまごからもヒナが出てきました。「グワッ、グワッ、グワワワ~」。ところが…、「なんて大きくてみにくい子。きたない灰色(はいいろ)の毛だこと」。「グワッ、グワッ、グワワワ~」。母さんあひるは、子どもたちをつれて歩き出しました。「ピヨッ、ピヨッ、ピヨ~ッ」。「グワッ、グワワワ~」。母さんあひるが言いました。「ご近所(きんじょ)のみなさん、わたしの子どもたちです」。
おばあさんあひるや、にわとりや七面鳥(しちめんちょう)があつまってきました。「きたない灰色(はいいろ)の一羽をのぞけば、かわいい子どもたちじゃな」。「なんとでかくてぶかっこうだこと。こんなあひる見たことない」。「じゃまだ、どけ! 目ざわりなやつめ!」。みんなが口々に言います。ついに、母さんあひるまでもが言い出しました。「はぁ…。くろうばかりかける子だ。おまえがいるばっかりに、こんな目にあうなんて」。
みにくいあひるの子はにげだしました。いけがきをとびこえ、草むらをぬけ、走って走って、大きなぬままでやってきました。くたびれはてたあひるは、そこでひとばんすごすことにしました…。目をさますと、ぬまには野ガモたちがいました。あひるの子は、なかまに入れてもらおうと、できるだけていねいにおじぎをしました。「こんにちは。ぼくは、あひるの子です」。すると、「へんなあひる。それにしてもひどい。まあ、オレたちのなかまじゃないし、かんけいないがね、ははは」と野ガモたちがわらいました。
そのとき! 「バーン! バン、バーン!」。大きな音がひびきました。目の前で話していた野ガモたちがてっぽうにうたれ、ぬまの水がまっ赤にそまっています。「ワンワンワン! ワンワンワン!」。あひるの子はおどろいて顔を上げました。すると目の前にはおそろしく大きな犬が、目をぎらぎらさせ、ハアハアとあらい息(いき)をして立っているではありませんか。ところが犬は、あひるの子にはさわりもしないで行ってしまいました。「ぼくがみにくいから、犬までもが食べたがらないんだ…」。
「ぼく、なんにもわるいことしてないのに、どうしてきらわれてばかりなんだろう…」。きせつは秋にかわっていました。うつくしくしずむ夕日をせにうけ、大きくて、まばゆいばかりに白い鳥たちがいっせいにとびたちます。「あぁ、あのうつくしい鳥たち。友だちになりたいなぁ。でも、ぼくみたいにみにくいあひるをなかまに入れてくれることなんて、きっとないだろう…」。
冬になりました。ぬまの水はどんどんこおっていきます。「あぁ、さむい。さむいよ」。やがて雪もふってきました。「あぁ、もうだめだ…」。くらくて、さむい冬がすぎていきます。
「春だ! 春が来たんだ! あぁ、なんて気もちがいいんだろう。なんだかとべそうな気がしてきた」。あひるの子が少しずつはばたいてみると…、「すごい! とべた! とべたぞ!」。気がつくと、あひるの子は空をとんでいました。高い空をとんでいるうちに、うつくしいにわが見えてきました。池には、まっ白な白鳥たちがおよいでいます。「あぁ、あのうつくしい鳥たちのそばに行ってみたい。つつかれるかもしれないけど、それでもいい」。あひるの子は、意(い)をけっして、池におりたちました。
「ほかのやつらにいじめられるくらいなら、いっそあの鳥たちにころされよう」。するとどうでしょう。白鳥のほうがあひるに近づいてきたのです。「ぼくはみにくいあひるの子です。どうぞころしてください」。そう言って頭を下げたあひるの子はおどろきました。「えっ…。こ、これはぼくなの?」。すみきった水の上にうつっていたのは、みにくいあひるの子ではありません。そう、一羽のうつくしい白鳥のすがただったのです。白鳥の子はうつくしい羽を広げると、なかまたちと青空へまいあがりました。