オープニングタイトル
むかしむかし、あるお寺(てら)に、古道具(ふるどうぐ)あつめが大すきなおしょうさまがいました。あるときおしょうさまは、それはそれはりっぱな「ちゃがま」を手に入れました。この日も、ちゃがまを出してきてしげしげとながめながら、「あぁ、見れば見るほどいいちゃがまじゃわい。このちゃがまで湯(ゆ)をわかしてお茶(ちゃ)をたてれば、みんなびっくりするじゃろうて。はっはっはっは」とかんがえているうちに、おしょうさまは、こっくりこっくり、いねむりをはじめました。〔語り:塚地武雅(つかじ・むが)さん〕
すると、どうしたことでしょう。ちゃがまが、カタコトうごきだしました。おしょうさまは、いねむりをしていて気づきません。そのうち、ひょっこり、頭(あたま)が出てきました。つづいて、手足やしっぽがにょきにょき生え、のそのそあるきだしたのです。音をききつけたこぞうさんが、おしょうさまの部屋(へや)をそうっとのぞいてみました。「う、うわっ。たいへんだ。ちゃがまが、ばけた。おしょうさま、おしょうさま、たいへんでございます。たいへんでございます!」。するとおしょうさまは、「うん? なんじゃ、なんじゃ。やかましいのう」と目をさましました。「ちゃ、ちゃ、ちゃがまに足が生えてあるいております!」。
「なに? ちゃがまに足が生えた? そんなばかな」。おしょうさまが部屋(へや)を見まわすと、ちゃがまはもとのところにちょこんとおいてあります。「なにをいっておる。ちゃがまはちゃんと、そこにあるではないか」。「あれあれ? こいつはへんだぞ。いままでたしかにあるいていたのに」と、こぞうさん。「いいかげんなことをいいおって。せっかく気もちよくねておったのに、おきてしまったではないか。あっちへいきなさい」。こぞうさんは、しぶしぶ部屋へもどっていきました。「おかしいなぁ…。おかしいなぁ…」。
そのばん、おしょうさまは一人でお茶(ちゃ)をたてようと、水を入れたちゃがまを火にかけました。しばらくしてお湯(ゆ)がわくと…。ちゃがまはきゅうに音を立てはじめました。「♪ブンブク ブクブク ブックブク アチアチ アチチ アッチッチー… アッチッチー!」。すると…。「た、たいへんじゃ! ちゃがまがばけた! だれか、だれかつかまえてくれ!」。こぞうさんがすぐにかけつけ、ちゃがまをつかまえました。でもそのときには、頭(あたま)も手足もしっぽもなく、もとのちゃがまのままでした。「こいつはとんだものをかいこんだ。こんなあやしいちゃがま、もっていてもしかたがない。うってしまおう」。
あくる日、おしょうさまは、なじみの古道具屋(ふるどうぐや)さんをよびました。「ほぉー。おしょうさま、こいつはりっぱなちゃがまじゃございませんか。どうしてうっちまうんです?」と古道具屋さんにきかれ、「いやぁ…、ほかにもっとよいのをかったから、これはいらなくなったんじゃ…」とおしょうさま。古道具屋さんはよろこんでちゃがまをかいとり、家(いえ)にもってかえりました。
その夜(よる)、古道具屋(ふるどうぐや)さんがねていると、まくらもとで声(こえ)がします。「古道具屋さん、古道具屋さん」。「はっ。お、おまえはさっきのちゃがま!」。「へへへ、おどろいちゃいました?」。「おどろくにきまってるじゃねえか。ちゃがまとばっかりおもってたら、頭(あたま)が出るわ、しっぽが出るわ、けむくじゃらの足生やして声をかけられた日にゃ、だれだってきもをつぶすわい。いったいおまえはなにものだ?」。「あっしは、ぶんぶくちゃがまともうします。たぬきがばけたちゃがまです。おやじさん、どうかあっしをここにおいてくださいな。きっと、ほんとのちゃがまよりおやくにたちます」。
「うーん。まあ、おいてやってもいいが…」。古道具屋(ふるどうぐや)さんがそういうと、「あっしだって、ただでおいてもらおうとはおもってやしません。おれいに、げいをいたしましょう。たかいところにピーンとはったつなをひょいひょいっととびながら、つなわたりをいたしましょう」とちゃがまがいいました。「ほう、そいつはおもしろい。よし。そうときまりゃあ古道具屋の商売(しょうばい)はやめだ!」。「それはようございます。ではさっそく、お客(きゃく)が入る小屋(こや)をつくってくださいな」。
古道具屋(ふるどうぐや)さんは、あくる日から小屋(こや)をこしらえ、三味線(しゃみせん)やたいこのおはやしをやとい、大きなかんばんを上げました。「さあ、よってらっしゃい、見てらっしゃい。世(よ)にもふしぎなちゃがまのげいでござい。なんと、うごくちゃがまがつなわたりのげいをひろういたしまする。どなたさまも、とくとごろうじろ。ささ、お代(だい)は見てのおかえりだよ。ぶんぶくちゃがまのつなわたり~」。「へぇ、ちゃがまのつなわたりだってよ」。「ちょいとのぞいてみようかね」。人があつまってきました。ぶんぶくは、楽屋(がくや)からヒョコヒョコ出てきておじぎをし、つなわたりをはじめます。
「♪アラヨッ コラサ アラサッサ! チョイチョイ チョイナ チョイサッサ ぶんぶくちゃがまの つなわたり~♪」。ちゃがまに手足が生えたたぬきがつなわたりをするとあって、見物客(けんぶつきゃく)は大よろこび。「おもしろいわ」。「こいつはゆかいだ」。「ちゃがま、いいぞ~!」。「なんてこった、たぬきがつなわたってるぞ。こいつはゆかいだ」。「ぶんぶく、いいぞ~!」。「がんばれ~」。たちまちひょうばんになり、小屋(こや)は、毎日(まいにち)われんばかりの大入りです。ひと月もたたないうちに、古道具屋(ふるどうぐや)さんは大金もちになりました。
そんなある日のこと。古道具屋(ふるどうぐや)さんは、毎日(まいにち)一生けんめいげいをするぶんぶくにいいました。「ぶんぶく、おまえのおかげで大もうけさせてもらった。ありがとうよ。じゃが、毎日げいをして、さぞかしくたびれたろう。もう、おわりにしよう」。「そうですか。おやじさんがそうおっしゃるのなら、そういたしましょう」。古道具屋さんは小屋(こや)をしめることにしました。
そして、ちゃがまをもってお寺(てら)へいき、おしょうさまにいいました。「こんなに大もうけできたのも、すべて、おしょうさまからこのちゃがまをゆずっていただいたおかげです。ありがとうございました」。古道具屋(ふるどうぐや)さんは、もうけたお金の半分(はんぶん)をつけて、ちゃがまをお寺へおさめました。そして、たぬきは『ぶんぶくちゃがま』とあがめられ、お寺のたからものとして、いまもまつられているそうな。めでたし、めでたし。