(オープニングタイトル)
休み時間、みんながきのうの遠足のことを楽しそうに話しています。山の上からのながめがすばらしかったと言う伝じろう。サトルも「あとさ…」と言いかけますが、同時にシュンも「あとさ…」と話し始めたのでだまってしまいました。『ぼくも言いたいなあ』と思ったサトルは、「ぼくも遠足楽しかったなぁ」と言いました。三人は、「それで?」という顔をします。『あれ? 楽しかった、だけじゃダメ?』。すると伝じろうがサトルを見つめました。「サトル、どうしてそう思ったんですか?」という声が…。気がつくとサトルはふしぎな空間にいました。
そこは“伝じろうの心の中”です。アシスタントのお伝がスコップで何かをほっています。「サトル、この前の遠足、みんなはどうして楽しかったのか理由を聞きたかったのに、『楽しかった』だけじゃあぜんぜんつたわらなかった」と伝じろうが言います。でもサトルは、言いたかったことを先にみんなに言われてしまったのです。「もう言うことがなくて」。すると、「はたしてそうかな。ちゃんとさがした?」と伝じろう。どうやってさがすかというと、『どうして、どうして』と自分自身に問いかける。そんなときは、“どうしてスコップ”を使うのです。
意見や感想を言うときに欠かせないのが、その「理由」です。自分の話に説得力(せっとくりょく)を持たせるためには、遠足が楽しかった理由をさまざまな角度から自分に問いかけましょう。使うのは、“どうしてスコップ”。遠足で見た物や、はだで感じたことなど思い出してみましょう。合言葉は、“どうして?”。「どうして遠足が楽しかったのか。どうして…どうして…」。サトルは自分に問いかけながらほりつづけます。「どうして…どうして…」。
遠足で何をしたの? 「あ! しりとりをしながら歩いたのは面白かった!」とサトルは思い出しました。どんな気分だったの? 「天気がよかったのは気持ちよかった! 雨がふらなくてよかった!」とサトル。ほかにはどんなことを感じたの? 「つかれたときにのんだお茶がおいしかったし、みんなで食べたおべんとうの時間が楽しかった!」。サトルはおべんとうのことをわすれていました。これで、楽しかった理由が4つも見つかりました。さまざまな角度から自分に問いかけることで、たくさんの理由が見つかるのです。
理由がたくさん見つかったことを伝じろうに言うと、「そのなかでいちばん楽しかったのは、どれ?」と聞かれました。「やっぱり、みんなで食べたおべんとうの時間かな」とサトル。「じゃあ、それを言うべき」と伝じろう。ところが、「ありがとう。ぼくの理由見つかったよ」とサトルがスコップを返そうとすると、「おやおや? もしや、もう終わりだと思ってる? まだほれるでしょ」と伝じろうが言います。「どこほるの? もう見つからないよ」と言うサトルに、伝じろうは「横がだめなら、たてに深くほるんじゃよ」と言いました。
たくさんの理由が見つかりました。自分の話に説得力(せっとくりょく)を持たせるためには、そのあとがポイントです。見つけた理由をさらに深くほってみましょう。「どうしてみんなで食べたおべんとうの時間が楽しかったのか。それは…」。考えながらどんどんほり下げていくサトル。すると、「わかった! 先生もいっしょに食べたからだ!」とサトルは気がつきました。そこもさらにほってみます。「どうして先生といっしょに食べたのが楽しかったのか。それは…」。さらにほり下げていくサトル。
「わかった! 先生のおにぎりがすっごく大きくて、ボウリングの球みたいだったからびっくりしたんだ!」とサトル。どうしてびっくりしたの? 「それは…」ともっとほっていくサトル。「そうだ! あんなに大きいおにぎりが先生の口に入るのかなあと思って。でもよく見たらいろんな具が入っててすっごくおいしそうだった」と思い出すサトル。どうして中にいろんな具が入ってると面白いの? 「だってそんなおにぎり見たことないもん。それに、おいしそうって思ったんだ!」。ずいぶん深くほることができました。
「遠足が楽しかったのは、みんなで食べたおべんとうの時間が楽しかった。先生のおにぎりが大きくてボウリングの球みたいだった。でもよく見るといろんな具が入っててすっごくおいしそうだった。先生の新しい一面を見たような気がして…。だから遠足が楽しかった!」とサトル。サトルだけの理由が見つかったのです。理由をたくさんさがしたあとは、今度はその見つけた理由を深くほり下げる。今まではうまく言葉にできなかった、サトルだけの理由を発見できました。
気がつくとサトルは教室にもどっていました。「遠足が楽しかったのはさ…、おべんとうの時間!」とサトルがみんなに言います。「ああ、おべんとうかあ!」とみんなにもつたわりました。「とくに先生のおにぎり…」と言いかけたサトル。ところが、「あのおにぎりは、だれにもないしょでおねがいします」と先生がサトルにそっと言ったので、サトルはそれ以上何も言えなくなってしまいました。「先生のおにぎりがどうしたの?」と聞くみんなに、「う、うん、なんでもない…」とごまかすサトルでした。