オープニングタイトル
むかし、武蔵(むさし)の国に茂作(もさく)と巳之吉(みのきち)という2人の木こりがいました。
ある冬(ふゆ)の夕ぐれ、村への帰り道(かえりみち)でひどいふぶきになったので、二人はとちゅうの小屋(こや)で一夜(いちや)をすごすことにしました。わかい巳之吉はふぶきがこわくてなかなかねつけませんでしたが、いつのまにかうとうととねむりにおちてしまいました。
巳之吉(みのきち)は、雪(ゆき)が顔(かお)にあたって目をさましました。なぜか閉(し)めたはずの戸(と)があいています。ふと茂作(もさく)を見ると、ねている茂作の上に、白いものがおおいかぶさっています。それは、まっ白な着物(きもの)をきた、黒(くろ)いかみの女でした。女は茂作に「ふう」っと、白いけむりのようないきをふきかけています。
「あ、雪女(ゆきおんな)!」巳之吉(みのきち)は、雪女という妖怪(ようかい)がいると、きいたことがありました。
雪女は巳之吉に「いのちはたすけてやるよ。そのかわり、今日見たことはけっしてだれにも話すんじゃないよ。もしやくそくをやぶったら、おまえも茂作とおなじ目にあうことになる」。雪女はそう言い残(のこ)すと、すがたを消(け)しました。巳之吉は、あわてて茂作をよびかけましたが、茂作は氷(こおり)のようにかたく、つめたくなっていました。
巳之吉(みのきち)は、雪女(ゆきおんな)があまりにおそろしすぎたので、あの夜(よる)のことをだれにも話しませんでした。雪女の夢(ゆめ)を見てうなされる夜が長いあいだつづきましたが、しだいにわすれてたくましいわかものに成長(せいちょう)しました。
ある日、巳之吉(みのきち)はしごと帰(かえ)りの道で、お雪(ゆき)という、はだが白くうつくしいむすめに出あいました。その名まえを聞(き)いたとたん、巳之吉のこころは、ふしぎな気もちでいっぱいになって、おもわず「お雪さん、おれのおよめさんになってくれよ」と言いました。
お雪は、はたらきもののとてもよい女房(にょうぼう)でした。十人の子どもたちと、いつまでもわかいお雪は、巳之吉(みのきち)のじまんのたねでした。「こんないいよめさんと子どもたちにめぐまれるなんて、おれほどのしあわせものはほかにいねえ」。それが巳之吉の口ぐせになりました。
あるさむい夜(よる)、巳之吉(みのきち)はあのふぶきの夜のできごとをふとおもい出しました。やくそくをやぶったら茂作(もさく)とおなじ目にあうという言葉(ことば)をおもい出したけれど、お雪になら、ひみつをうちあけてもいいかとかんがえて、話してしまいました。
「巳之吉(みのきち)さん。その雪女(ゆきおんな)はわたしです」。やさしいお雪の目がおそろしい雪女の目にかわっています。「あなたは、やくそくをやぶってしまった。でも、子どもたちのことを思(おも)えば、あなたのいのちはうばえない。わたしがここからいなくなるしかないのです」。
お雪のすがたは白くかがやくきりにかわり、消(き)えていったのでした。