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scene 01びわをひきながらかたる名人
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むかし、阿弥陀寺(あみだじ)という寺(てら)に、芳一(ほういち)という男がおりました。芳一は目が見えません。びわをひきながらかたるのがとても上手な男でした。なかでもひょうばんだったのが、平家(へいけ)のさいごをえがいた『壇ノ浦(だんのうら)のたたかい』。源氏(げんじ)とのあらそいにやぶれ、女も子どもも一人のこらず海(うみ)のそこにしずんだくだり。芳一がびわをひきながらかたれば、「おにもおもわずなみだをながす」といわれるほどでした。〔語り:本郷奏多(ほんごう・かなた)〕

scene 02ある夏の夜、男がむかえにきて
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ある夏(なつ)の夜(よる)のこと。おしょうは出かけていきました。寺(てら)にのこったのは芳一ひとり。「今夜(こんや)はやけにあつい」。どのくらい時間(じかん)がたったのでしょう。ザッザッザッザッ。うら門(もん)のほうから足音がきこえてきました。そして…、「芳一」。その声(こえ)はおしょうではありません。「芳一」。「は、はい。わたくしは目が見えません。いったいどなたさまでございましょう」。「わしは、あるじのつかいでまいったのだ。わがあるじはたいへん身分(みぶん)のたかいおかたで、おぬしのびわとかたりをきいてみたいとおのぞみだ。さあ、やしきへあんないしよう」。「は…はい」。

scene 03おやしきで『壇ノ浦のたたかい』をきかせる
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「芳一をつれてまいったぞ!」。男がそう声(こえ)をかけると、きぬずれの音、ささやく声があちらこちらからきこえます。すると、おくのほうから年おいた女の声がしました。「芳一、さあ、壇ノ浦(だんのうら)の話(はなし)をきかせておくれ。いちばんあわれなところだから」。「かしこまりました」。「♪源平(げんぺい)両軍(りょうぐん)船出(ふなで)して、壇ノ浦にて…」。芳一はびわの音色(ねいろ)をたくみにつかいわけ、さまざまな音をかきならします。平家(へいけ)の船が海(うみ)をつきすすむむ音、とびかう弓矢(ゆみや)、へいしたちのさけび声、きられた者(もの)が海におちる音。

scene 04「このことはだれにもはなしてはいけませんよ」
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「なんとすばらしい」。「国(くに)じゅうをさがしてもこんな名人はおるまい」。物語(ものがたり)がすすみ、平家(へいけ)の母親(ははおや)がおさな子をだいてみずから海(うみ)にとびこむくだりにさしかかると、みながいっせいになきだしました。「芳一、そなたのびわはすばらしい。わがあるじもたいそうおよろこびです。これから六日のあいだ、まいばんここにきて、きかせてくれませんか。さすればおもいのままにほうびをとらせましょう。ただし、このことはだれにもはなしてはいけませんよ」。「は、はい」。芳一が寺(てら)にかえったのは、もう明け方(あけがた)にちかいころでした。

scene 05芳一がびわをひいていたところは
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「芳一や、こんな時分(じぶん)までなにをしていたんだね」。「もうしわけありません」。芳一はおしょうになにもはなしません。芳一の身(み)になにかわるいことがおきているのではないか。そうおもったおしょうは、寺(てら)の男たちに芳一を見はるようめいじました。その夜(よる)。雨のなか、芳一が出かけていきました。男たちはすぐにあとをおいますが、見うしなってしまいます。墓地(ぼち)のちかくをとおりかかると、芳一がいました。おはかの前(まえ)にたった一人。ずぶぬれになって壇ノ浦のたたかいの場面(ばめん)をかたっているのです。「芳一さん!」。男たちは力ずくで芳一を寺につれてかえりました。

scene 06体じゅうにかきつけたお経
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おしょうは芳一からこれまでのことをすべてききました。「芳一、このままではおまえの命(いのち)があぶない。だが、わしは今夜(こんや)も出かけなければならない。その前(まえ)に、おまえの体(からだ)にお経(きょう)をかこう。お経がおまえをまもってくれるはずだ」。『かんじざいぼさつぎょうじんはんにゃはらみつた…』。芳一の体のありとあらゆるところに、びっしりとお経がかきつけられました。「もし名をよばれても、返事(へんじ)をしてはいけない。うごいてもいけない。もし声(こえ)を出したり、すこしでもうごいたりすれば、おまえは八つざきにされるだろう」。

scene 07「おや? これは芳一の耳ではないか」
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芳一はじっと、ざぜんをくみました。どのくらい時間(じかん)がたったのでしょう。ガシャガシャガシャ。足音は芳一の前(まえ)でぴたりととまりました。「芳一! 芳一! びわはある。しかし芳一はいない。いったいどこにおるのだ…」。すると、「おや? これは芳一の耳ではないか。それではここへきたしょうこに、この耳をもってかえるとしよう」。そのしゅんかん、ギリギリ…ベリッベリッ! 気のとおくなるようないたみをこらえ、それでも芳一は声(こえ)一つあげません。芳一は、頭(あたま)のりょうがわから生あたたかいどろどろしたものがながれおちるのをかんじていました。

scene 08耳にお経をかきわすれていた…
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夜明け前(よあけまえ)、おしょうがかえってきました。「お、おまえ…。その耳はいったい…」。おしょうはおどろきました。「ああ、芳一。耳にお経(きょう)をかきわすれたとは…。わしがわるかった。かわいそうなことをした。すぐによい医者(いしゃ)をたのんで、きずの手あてをしてもらうとしよう」。このきみょうなできごとはひろくしれわたり、芳一のびわをききたいと人々がたえず寺(てら)にやってくるようになりました。そうして芳一は、いつしか「耳なし芳一」とよばれるようになったのです。

おはなしのくに
【コワイオハナシノクニ】耳なし芳一(ほういち)
目の不自由な琵琶法師・芳一は、ある日、霊に取りつかれてしまう。なんとか助けようと寺の和尚が、芳一の体中にお経を書くのだが…【語り:本郷奏多】

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