チャプターあらすじを読む
scene 01町はずれのほりのきみょうなうわさ
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むかし、人けのない町はずれに、ほりがあった。草がぼうぼうと生いしげり、ときおり、ぴちゃんぴちゃんと魚(さかな)のはねる音だけがひびいていた。このほりには、きみょうなうわさがあった。ここで、フナやらコイやらたくさん魚をつった親子(おやこ)がいて、そのうち日がくれて…。「ぼうず、そろそろかえるとするか」。「うん」。親子がかえりじたくをはじめると…。〔語り:矢本悠馬(やもと・ゆうま)〕

scene 02「おいてけ~、おいてけ~」
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草がいっせいにざわざわとうごきだし、ほりの水がゴボゴボとなみだった。そしてふいに、「おいてけ~、おいてけ~」。そのおそろしい声(こえ)は、ほりのそこからきこえてきた。「おいてけ~、おいてけ~」。「ひ、ひ、ひゃあっ」。親子は、つった魚もそのままに、命(いのち)からがらにげかえった。それからというもの、そのほりは「おいてけぼり」とよばれるようになった。

scene 03こわいものしらずの男がほりへ
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ある日、町でいちばんこわいものしらずの男が、おいてけぼりのうわさをききつけた。「わっはっは。みんないくじがないのう。ようし、わしがいって魚(さかな)をたんとつってきてやらあ」と、つりざおをもっていせいよく出かけていった。ほりは、ひんやりとしたしずけさにつつまれていた。男はこしをおろすと、さっそくつり糸をたらした。すると、つれるわ、つれるわ。まるで魚のほうからとんでくるようにぴんぴんとつれた。「こりゃあすげえ。おもしろいようにつれるぞ。ははは」。男のびくはたちまち魚でいっぱいになった。なかには見たこともないきみょうな魚もまじっていたが、男は気づかなかった。

scene 04ほりのそこからおそろしい声が
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「よし、そろそろひきあげるとするか」。男がかえりじたくをはじめると…。ざわざわ、ゴボゴボ…。「おいてけ~、おいてけ~」。ほりのそこから、あのおそろしい声(こえ)がきこえてきた。「おいてけ~」。びくの中の魚(さかな)たちが、ぴちん、ぴちんとあばれだした。「で、出たな、ばけもん。こ、この魚はわしのものだ。だれにもわたさねえ」。「おいてけ~、おいてけ~」。あばれる魚をおさえようとすればするほど、声はどんどん大きくなってきた。「おいてけ~、おいてけ~」。「ぎゃあーっ」。男はたまらずにげだした。

scene 05やみの中をちかづいてきた女
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「はあはあはあ…。おっかねえ。やれ、魚(さかな)はとられずにすんだ」。ほっとひといきついて、男はあせをぬぐった。と、そこへ、カラン、カラーン。とおくからきこえてきたのは、げたの音。「こんな町はずれにいったいだれじゃろう」。カラン、カラン、カラーン。音はだんだんとちかづいてきて、やなぎの木の下でぴたりととまった。やみにぬうっとうかびあがったのは、色(いろ)の白い、うつくしい女だった。

scene 06うつくしい女の顔が…
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「うわっ」とおどろく男。「たくさんつれたようですね」と女が声(こえ)をかけてきた。「お、おう」。すると、「その魚(さかな)、あたしにわけてはくれませんか」と女。「な、なにいってやがる。見ずしらずのおまえに一ぴきだってわたさねえ」。「どうしてもです?」。「ああ、どうしてもだ」。「こうしてもです?」。女が顔(かお)をつるりとなでると、目も、鼻(はな)も、口もない、のっぺらぼうになった。「で、出たあーっ」。「おいてけ~、おいてけ~」。

scene 07屋台のおやじの顔が…
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「はあはあはあ…。おっかねえ、おっかねえ。やれ、なんとかにげられた」。男がふと顔(かお)を上げると、あかりが見えた。そばの屋台(やたい)だった。「ふう、たすかった。おやじ、み、水をくれ」。「あいよ」。「はぁ、せっかくの魚(さかな)もにがしちまった」。「なんかあったんです? 顔が青いですよ」。「いま、そこで、お、おっかねえ女に…」。「はて、おっかねえ女?」。「ああ、なんていうかその、顔が…」。「顔? もしやその女、こんな顔でしたか」。屋台のおやじが顔をつるりとなでると…。「はっ」。のっぺらぼうになった。「ぎゃあーっ」。「おいてけ~、おいてけ~」。

scene 08おかみさんの顔が…!
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「はあはあはあ…。おっかねえ、おっかねえ」。男は、ほうほうのていで家(いえ)までたどりついた。「おや、おまえさん、おかえり。つりはどうだったんだい」。「え? つり? あぁ、つりはもうごめんだ」。「なんかあったのかえ?」。「出たんだよ」。「出た?」。「あぁ。ば、ばけもんだよ」。ようやく男がおかみさんのほうをむくと…。「ほう、ばけもの。それはこんな顔(かお)じゃなかったかえ」。「は? ぎゃあーっ」。そのとたん、家のあかりがふっときえた。…どのくらい時間(じかん)がたったろう。男はほりのそばに、ぽつんとすわっていたという。

おはなしのくに
【コワイオハナシノクニ】おいてけぼり
魚を釣ると「置いてけ」という声が聞こえる不思議な堀。男が無視して去ろうとすると女に出会う。顔をのぞきこむと、そこには目も鼻も口も無く…【語り:矢本悠馬】

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