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オープニング
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scene 01山おくへかりにやってきた二人
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二人のわかいしんしが、白クマのような犬を二ひきつれてあるいておりました。それはだいぶの山おくでした。「鳥(とり)もけものも一ぴきもいやがらん」。「シカの横(よこ)っぱらなんぞに二三発(ぱつ)おみまいもうしたら、ずいぶんつうかいだろうねえ」。あんまり山がものすごいので、白クマのような犬が二ひきいっしょにめまいをおこして、あわをはいてしんでしまいました。「ぼくはもうもどろうとおもう」。「さあ、ぼくもちょうどさむくはなったし、はらはすいてきたし」。風(かぜ)がどう、草はざわざわ、木の葉(は)はかさかさ、木はごとんごとん。〔語り:もう中学生さん〕

scene 02『山猫軒』を見つけた
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そのとき、ふとうしろを見ますと…。りっぱな一けんの家(いえ)がありました。『山猫軒(やまねこけん)』という札(ふだ)がでていました。「きみ、ちょうどいい。はいろうじゃないか」。「おや、こんなとこにおかしいね」。二人は玄関(げんかん)に立ちました。そこに金文字でこう書(か)いてありました。『どなたもどうかおはいりください。けっしてご遠慮(えんりょ)はありません』「やっぱり世(よ)の中はうまくできてるねえ、このうちは料理店(りょうりてん)だけれどもただでごちそうするんだぜ」。二人はとびらをおして中へはいりました。

scene 03「当軒は注文の多い料理店です」
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「どうもへんな家(いえ)だ」。「さむいとこや山の中はみんなこうさ」。ずんすん廊下(ろうか)を進(すす)んでいきますと、水いろの戸(と)がありました。その戸をあけようとしますと、上にこう書(か)いてありました。『当軒(とうけん)は注文(ちゅうもん)の多(おお)い料理店(りょうりてん)ですからどうかそこはご承知(しょうち)ください』戸をあけるとそのうらがわに、『注文はずいぶん多いでしょうがどうかいちいちこらえてください』「これはきっと注文があまり多くて、したくが手まどるけれどもごめんくださいと、こういうことだ」。

scene 04「髪をきちんとして、はきものの泥をおとしてください」
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ところがどうもうるさいことは、また戸(と)が一つありました。『ここで髪(かみ)をきちんとして、それからはきものの泥(どろ)をおとしてください』と書(か)いてありました。「作法(さほう)のきびしい家(いえ)だ。きっとよほどえらい人たちが、たびたびくるんだ」。二人は、きれいに髪をけずって、靴(くつ)の泥を落(お)としました。そしたら、どうです。ブラシがぼうっとかすんでなくなって、風(かぜ)がどうっとはいってきました。二人はびっくりして、次のへやへはいっていきました。

scene 05「鉄砲・金物類をおいてください」
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戸(と)のうちがわに、また変(へん)なことが書(か)いてありました。『鉄砲(てっぽう)と弾丸(たま)をここへおいてください』。二人は鉄砲を台(だい)の上におきました。「なるほど、鉄砲をもってものをくうという法(ほう)はない」。またくろい戸がありました。『どうか帽子(ぼうし)と外套(がいとう)と靴(くつ)をおとりください』。二人は帽子とオーバーコートをくぎにかけ、靴をぬいで、戸の中にはいりました。うらがわには、『金物類(かなものるい)、ことにとがったものは、みんなここにおいてください』と書いてありました。「ははあ、なにかの料理(りょうり)に電気(でんき)をつかうとみえるね。金気(かなけ)のものはあぶない」。二人はみんな金庫(きんこ)の中に入れ、ぱちんとかぎをかけました。

scene 06「顔にクリームをぬってください」
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すこしいくとまた戸(と)があって、『壺(つぼ)の中のクリームを顔(かお)や手足にすっかりぬってください』とあります。「外(そと)がひじょうにさむいだろう。へやのなかがあんまりあたたかいとひびがきれるから、そのよぼうなんだ」。二人はクリームを、顔にぬって手にぬって、それから靴下(くつした)をぬいで足にぬりました。それでもまだのこっていましたから、こっそり顔へぬるふりをしながらたべました。すると、すぐその前(まえ)につぎの戸がありました。

scene 07「頭に香水をふりかけてください」
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『料理(りょうり)はもうすぐできます。すぐたべられます。はやくあなたの頭(あたま)にびんの中の香水(こうすい)をよくふりかけてください』。そして戸(と)の前(まえ)には金ぴかの香水のびんがおいてありました。二人は香水を頭にふりかけました。「この香水はへんに酢(す)くさい。どうしたんだろう」。戸をあけて中に入りました。戸のうらがわには、「いろいろ注文(ちゅうもん)が多(おお)くてうるさかったでしょう。おきのどくでした。もうこれだけです。どうかからだじゅうに、壺(つぼ)の中の塩(しお)をたくさんよくもみこんでください」

scene 08きた人を西洋料理にする家!?
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なるほどりっぱな塩壺(しおつぼ)がおいてありましたが、「どうもおかしいぜ。たくさんの注文(ちゅうもん)というのは、むこうがこっちへ注文してるんだよ」。「だからさ、ぼくのかんがえるところでは、西洋料理(せいようりょうり)を、きた人にたべさせるのではなくて、きた人を西洋料理にして、たべてやる家(うち)、とこういうことなんだ。これは、その、つ、つ、つ、つまり、ぼ、ぼ、ぼくらが…」。「その、ぼ、ぼくらが…うわぁ」。「にげ…」。うしろの戸(と)をおそうとしましたが、どうです、戸はもう一分(いちぶ)もうごきません。

scene 09「あとはあなたがたをお皿にのせるだけ」
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おくのほうにはまだ戸(と)があって、銀(ぎん)いろのホークとナイフの形(かたち)が切(き)りだしてあって、「いや、わざわざごくろうです。たいへんけっこうにできました。さあさあおなかにおはいりください」「うわあ」。がたがたがたがた。「うわあ」。がたがたがたがた。二人は泣(な)きだしました。「おい、お客(きゃく)さんがた、はやくいらっしゃい。いらっしゃい。いらっしゃい。あとはあなたがたと、菜っ葉(なっぱ)をうまくとりあわせて、まっ白なお皿(さら)にのせるだけです。はやくいらっしゃい」。「はやくいらっしゃい。親方(おやかた)がもうナフキンをかけて、ナイフもって、したなめずりして、お客さんがたをまっていられます」。

scene 10犬たちがとびこんできて
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かぎ穴(あな)からはきょろきょろ、二つの青い目玉がこっちをのぞいています。二人はあんまり心(こころ)をいためたために、顔(かお)がまるでくしゃくしゃの紙(かみ)くずのようになり、声(こえ)もなく泣(な)きました。そのときうしろからいきなり、あの白クマのような犬が。「わん、わん、ぐわあ」。「わん」。戸(と)はがたりとひらき、犬どもはすいこまれるように飛(と)んでいきました。まっくらやみのなかで、「にゃあお、くわあ、ごろごろ」。

scene 11山猫軒はけむりのようにきえ…
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風(かぜ)がどう。草はざわざわ。木の葉(は)はかさかさ。木はごとんごとん。へやはけむりのようにきえ、二人は寒(さむ)さにぶるぶるふるえて、立っていました。みのぼうしをかぶったせんもんのりょうしが、草をざわざわわけてやってきました。二人はやっと安心(あんしん)しました。しかし、さっきいっぺん紙(かみ)くずのようになった二人の顔(かお)だけは、もうもとのとおりになおりませんでした。

おはなしのくに
注文の多い料理店
“当軒は注文の多い料理店ですから”【作者】宮沢賢治【語り・イラスト】もう中学生

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