オープニングタイトル
早朝の商店街。何者かがたぬきの像（ぞう）にスプレーで落書きを始めました。「あんた！ 何やってんの！」。たまたまそれを見かけた近所のおばさんがホウキを持って追いかけると、何者かはあわててにげだしました。たぬきのおなかは、スプレーで金色に落書きされてしまいました。
さんすう課のゼロが聞きこみをしています。「ひどいことするもんだよ。うちの町の大事な“たぬキング”にさあ」と目撃者（もくげきしゃ）のおばさん。「犯人（はんにん）の顔は見ましたか」とゼロが聞くと、「それがよくわからなかったのよ」と、あめ屋の店主、日比野（ひびの）たえ子は言いました。イチの聞きこみによると、監視（かんし）カメラに画像（がぞう）が残っていました。ただ、写真には影（かげ）しかうつっていません。写真を手に、「数字のにおいがするな」と言うゼロ。「重要な手がかりになるかもしれないぞ」。
さんすう課にもどったゼロとイチが、写真を手に考えこんでいます。「どこかにヒントがあるはずだ…」。そこへ、主任（しゅにん）からの指令です。「手がかりが見つかったわよ。犯行時刻（はんこうじこく）の午前８時ごろに、現場（げんば）近くで三人の人物が目撃（もくげき）されていたの」。一人目は里中登（さとなか・のぼる）、中学２年生。二人目は車辰二郎（くるま・たつじろう）、商店街の組合の会長。最後は川上勝（かわかみ・まさる）、工務店（こうむてん）の従業員（じゅうぎょういん）です。この三人のなかに犯人が？
そのときゼロが、机（つくえ）の上のペンスタンドの影（かげ）に気がつきました。「主任（しゅにん）！ 三人の身長はわかりますか！」。身長は背（せ）の高い順に、川上勝182cm、里中登170cm、車辰二郎156cmでした。「これで犯人（はんにん）がわかるかもしれないぞ」。ゼロは15cmと30cmの定規（じょうぎ）でイチに説明します。ものの高さが２倍になると、影の長さも２倍。つまり、ものの高さと影の長さの比はいつも同じです。写真には犯人の影といっしょにたぬキングの影も写っています。たぬキングの高さとその影の長さをはかれば、その比は、犯人の身長と影の長さの比と同じなのです。
次の日、犯行時刻（はんこうじこく）と同じ午前８時。ゼロとイチは商店街に来ていました。まず、たぬキングの高さをはかります。200cmです。次は、影（かげ）の長さです。たぬキングの台の根もとからはかると300cmでした。たぬキングの高さと影の長さの比は、200対300。かんたんな比にすると、２対３です。そして犯人の影の長さをはかると、273cmでした。犯人の身長と影の長さも２対３ということは、２：３＝〔？？？〕：273。３に91をかければ273になるので、２に91をかけた182が犯人の身長です。ということは、川上が犯人？
ところが、もう一度日比野たえ子に話を聞くと、「182cmもあったかしらねえ。もうちょっと小柄（こがら）な人だった気がするんだけど…」と言います。「もしかして、この人ですか」とゼロが車辰二郎の写真を見せると、「ちがうわよ。この人ね、商店街をもり上げるために毎日走り回ってんのよ」と笑いました。そのとき、何気なくたぬキングの像（ぞう）に目をやったゼロは、像の台を見て何か気がつきました。「なるほど！」。そして、「イチ、もう一度影（かげ）をはかってくれ！」と言いました。
像（ぞう）の台のはしからはかろうとするイチに、ゼロは「それじゃ正しい長さははかれないよ」と、タブレットの画面を見せました。「正確（せいかく）な影（かげ）の長さは、像のいちばん高い部分から垂直（すいちょく）に下ろしたところからはからないといけないんだ」。そこでイチが影をはかりなおしてみると、正しい影の長さは350cmでした。たぬキングの高さと影の長さの比は、200：350。それをかんたんにすると、４：７。犯人（はんにん）の身長と影の長さの比も４：７になります。
ゼロとイチは辰二郎のところにやってきました。「車辰二郎さんですね。たぬキングにスプレーをかけたのはあなたですか」。すると辰二郎は、「証拠（しょうこ）はあるんですか！」と言います。ゼロが説明しました。「監視（かんし）カメラに写っていた犯人（はんにん）の影（かげ）の長さは273cm。捜査（そうさ）の結果、犯人の身長と影の長さの比は４：７だとわかりました。この比から、犯人の身長がわかります。７に39をかけると273になりますから、同じように４に39をかけて、犯人の身長は156cm。あなたの身長とぴったり一致（いっち）するんです！」。
がっくりかたを落とす辰二郎。すると、「辰さん！ なんでこんなことしたのよ」という声がしました。日比野たえ子でした。「少しでも話題になればと思って…。ニュースで取り上げられたら、商店街の名前も広まるかなって…」と言う辰二郎を、「一人でかかえこまないで相談してくれればよかったのに」となぐさめるたえ子です。「あの人が犯人（はんにん）だったなんて」と言うイチに、「人間の心までは計算できないってことさ」と答えるゼロでした。