中高生のみんなは裁判員裁判を知っていますか? 「聞いたことなかった」(高3男子)。「名前は知っているけど内容は…」(高2女子)。裁判員裁判とは、法律の専門家と一緒に一般の人が裁判員として参加する裁判のこと。では、もしキミが裁判員に選ばれたらどうする? 「ちょっと大変というか…」(高1男子)。「正直行きたくない」(高2女子)。みんなあんまり乗り気ではないようですが…。「今回のテーマは、裁判員裁判。自分とは関係ないと思うかもしれないけど、誰だって裁判員に選ばれる可能性はある。もしそうなったら、キミならどうする? まずは、これがどういう制度なのか見てみよう」(DAIGOさん)。
みんなは裁判にはどんな種類があるか知っていますか? 裁判には、民事裁判と刑事裁判があります。民事裁判は、たとえば、お金を貸したのに返してもらえない、話し合っても解決できないといったときなどに、裁判所に訴えて解決してもらう裁判です。一方、刑事裁判は、犯罪の疑いのある人に有罪か無罪か、有罪ならどんな刑を与えるかを決める裁判です。この刑事裁判のうち、殺人や強盗致傷、身代金目的の誘拐などの重大事件が、裁判員裁判の対象になります。
でも、どうして重大な問題を一般の国民にまかせるのでしょう。専門家に聞いてみました。「国の行方を判断しないといけない重大な案件が出たときは、衆議院を解散して選挙で民意を問うことができます。裁判も同じで、国民主権の制度だから、重大な問題のときは国民の意見を聞く。その裁判が社会にとって重要だから国民の意見を聞きたい、ということで設けられた制度です」(國學院大學法科大学院 四宮啓教授)。そう。国の大事な問題を選挙で決めるように、重大な事件にも国民に裁判員として参加してもらいたいというわけです。
では、裁判員はどうやって選ばれるのでしょう。まず、選挙人名簿をもとに、一年間の裁判員候補者名簿が作られます。そして事件ごとに、その名簿から無作為に裁判員の候補者が選ばれます。それから、裁判員を選ぶ日時が書かれた呼出状が送られます。経歴や職業も関係ないため、名簿から選ばれれば突然呼出状が届けられることになります。過去に裁判員を経験した小平衣美(こだいら・えみ)さん。「茶封筒で下にでかでかと『東京地方裁判所』と書いてあった。自分が訴えられたんだと思って、本当にぞっとしてびっくりした」と言います。
呼出状が届いたら辞退はできないのでしょうか。まだ学生だったり、病気や妊娠など、裁判所が法令上の理由があると認めれば辞退することができます。でもその理由は限られています。こうまでして裁判所が国民に参加を求める理由は、生活者としての視点や感覚が裁判には必要だと考えているからです。「でも、人を裁くことの責任の重大さ、公正な判断をする自信がないなど、裁判への不安やためらい、心の負担を挙げる人も多いみたい。もし自分が裁判員に選ばれたらどうしたらいいんだろう。実は今、この制度を知ってもらうための授業も行われているらしいよ」(DAIGOさん)。
この日、大学の法廷教室を借りて、模擬裁判を体験する授業が行われました。参加するのは、湘南台高等学校3年の生徒たち。みんなは裁判に興味があるのでしょうか。「正直興味ない」。「他人の人生に深く関わりたいかといえばそうじゃないんで…」。あんまり興味はなさそうですね。今回の授業の目的は、裁判員制度が対象とする刑事裁判の仕組みや流れを学ぼうというもの。被告人役は先生。証人役には監修の弁護士。そして生徒たちは弁護人役、裁判官役、検察官役に分かれ、それぞれの役割を学びます。今回の裁判は、コンビニに強盗に入ったとして捕まった男が、有罪なのか無罪なのかを決めるというものです。
「それでは、被告人●●●に対する強盗致傷事件の裁判を始めます」。裁判長の言葉で模擬裁判が始まりました。はじめに、被害にあった店員の証言を聞きます。ポイントは、証言から、被告人が盗みに入った男と同一人物かをはっきりさせること。「犯人は黒いスキー帽にサングラス、マスクをしていて顔が見えなかった。もみあったときにサングラスが外れて一瞬だけ犯人の顔が見えた」という証言です。店員は、男のサングラスが外れた拍子に一瞬顔 を見ただけのようです。なぜ被告を犯人だと思うか裁判長が聞くと、「目元と声の感じがよく似ている」という証言でした。
次に検討されたのは、被告人の家から押収されたお札について。店から奪ったものではないかと疑われたのです。「あなたの家から押収された9万7千円はどこで手に入れましたか」と検察官。被告人は、「それはアルバイトで稼いだお金です」と言います。「どうしてこんなにグチャグチャなんですか?」と検察官に聞かれると、「アルバイト先の先輩がちょっかいを出すから、いらいらしてグチャッとした」と答えました。あやふやな供述をする被告人を、検察官は疑わしいと感じたようです。
このあとは、それぞれの役からはなれて全員が裁判員の立場になり、有罪か無罪かを考えます。「普通だったら金はグシャグシャにしないよね」。「盗まれたものだとしたら?」。「お金はグシャッとなる…」。しかし、疑わしいという意見が出る一方で、「マスクも帽子もかぶってたんだよ」、「その人が犯人と断定できないよね」と反対意見も出ました。結局、「犯人っぽいだけで犯人であるとは言い切れないと思うから…犯人ではない!」。参加した生徒たちは、疑わしくても確実な証拠がないということで、無罪の判決を出しました。
「がんばって証拠を見つける検察官がいたり、被告人を守ろうとしている弁護人がいたりすることがわかったので、犯人だと勝手に思ってはいけないと思った」。「判決を下すというのは相手の人生にすごく影響すると思うので、証拠に基づきながらしっかりよく考えて、納得のいく決断をしたい」。専門の知識を持っていない生徒たちでも、自分たちなりに考え、裁判に向かい合うことが大切だと感じたようです。「模擬裁判の様子、どうだった? 裁判員に必要なのは、生活者としての視点や感覚。法律の知識がないからといって、敬遠する必要はないのかもしれないね。みんなはどう思う?」(DAIGOさん)。