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オープニング
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(オープニングタイトル)

scene 01わたしは12歳の歌手
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わたしの名前はビサン。12歳(さい)で歌手なの。ふだん、家ではアラビア語で話してるけど、歌はヘブライ語と英語(えいご)でも歌ってるの。「♪わたしは子どもだけど おねがい 話を聞いて 子どもらしく遊びたい ねえ そうさせて…」オーディションに出たときの映像(えいぞう)をタブレットでときどき見る。『愛(あい)はわたしの心に』っていう歌。「♪やみとウソばかりのこの悲しい世界にも 希望(きぼう)はあると人は言う “愛”という希望 その時を待つのよ…」はじめてのオーディション。これで有名になったんだ。

scene 02アラブ系とユダヤ系がくらす町
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わたしはアラブ系(けい)イスラエル人。イスラエルで生まれて、イスラエルにすんでる。ユダヤ系じゃなくてアラブ系なの。わたしの町ラムラではユダヤ系とアラブ系の人がくらしている。わたしの親友はマナル。マナルがすんでるのはジャワリシュっていう地区で、うちはとなりのガネイ・ダン。そのあいだには長いかべがあるんだ。かべがきらい。じゃまだもの。心にもかべができちゃう。ものすごくなかよしだから、わたしはいつもいっしょにいたいし、マナルだって同じ気持ちなんだよ。近くにすめていつでもすぐ会えたらいいのにな。

scene 03長いかべでへだてられた地区
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たとえばこっちの公園でいっしょに遊びたいとするでしょ。だけどかべがあるせいでむりなんだ。かんたんには会えない。それに二人で学校から帰るときだって、マナルはあっちでわたしはこっち。かべはこわせない。でも、いつかこのかべに、自由に出入りできるドアができるといいな。みんながそう思ってる。マナルとは2年生のときから大親友なんだ。『コーラン』には「みんな家族」って書いてあるから、マナルに「わたしたち兄弟って知ってた?」って聞いたの。「わたしたちアラブ系(けい)は兄弟なんだよ。」ってね。だったらいいなあってずっと思ってた。マナルの家にも行ってみたい。

scene 04あのかべにドアの絵をかきたい
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「ジャワリシュとガネイ・ダンのあいだにかべがあるから会いにいけないときがあるでしょ。でも、かべをこわしたりドアをつけたりするなんて、実際(じっさい)にはできない。それで、かべにドアの絵をかいたらどうかなと思うんだ。みんなでいっしょにかくの。希望(きぼう)のしるしになるでしょ。まず、お知らせのチラシを配らない? そっちとこっちで。マナルはジャワリシュで。」とマナルに相談した。「だれが来てもいいの?」「もちろんだよ。アラブ系(けい)もユダヤ系も大歓迎(かんげい)。」「みんないっしょね。」「これから歌のレッスン。先生にも何かいいアイデアがないか聞いてみる。」「じゃあね」

scene 05歌のレッスン
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マナルとわかれて歌のレッスンへ。「♪ア~~~」まず先生が伴奏(ばんそう)をひく。そして、「はいどうぞ。」わたしが歌う。「♪よろこびの日の祝日(しゅくじつ) それなのに なぜ? おいわいいもかざりもないの ああ 世界よ この国は戦火(せんか)にやかれ この地には 自由などないの」すると先生が、「すごくいいよ。でも最後(さいご)がちょっと…」って。「歌詞(かし)をうまく表現(ひょうげん)できてますか?」って聞いたら、わらって、「ああ、ずっとよくなってるよ。君はカンがいいから上達(じょうたつ)がはやい。」って言ってくれた。

scene 06歌の先生にも相談してみた
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そこで、「べつの相談があって…」と話を切り出した。あのかべがなかったらずっと楽になる。だけど本当にかべをこわすわけにはいかない。だから、「みんなに希望(きぼう)を持ってもらうために、かべにドアの絵をかきたいんです。」先生は、「市長の許可(きょか)がいるね。町の人は地域(ちいき)のためなら歓迎(かんげい)だと思うな。もし決まったらぼくもフェイスブックで告知(こくち)するよ。」って言ってくれた。「じゃまする人もいるかも。」って言ったら、「人間は弱いんだ。恐怖(きょうふ)ってものが根っこにあるんじゃないかな。おたがいにこわがってるんだよ。相手のことをよく知らないせいだ。」って。

scene 07市長に会いに…
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さっそく市長さんに会いにいった。「あのかべをこわせないことはわかっています。でも、何か希望(きぼう)のしるしになることがしたくて、かべにドアをかきたいんです。みんなに希望をあたえることになると思うんです。いつか自由に行き来できるようになって、なかよくくらせるって。」でも市長さんは、「それはたしかに市民(しみん)の夢(ゆめ)だが、ドアの絵をかくと、今はかべがあるという現実(げんじつ)をきわだたせてしまう。ドアには意味があるからね。君が言うように、希望と見る人もいるかもしれないが、反対する人たちもいると思うよ。」って。それでも、チラシを配って反応(はんのう)を見てごらんと言ってくれた。

scene 08どうすればいいかわかんないよ
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マナルにすぐに電話で報告(ほうこく)。「あ、マナル? 今、市長さんに会ってきたんだ。なんか…わかんなくなってきちゃった。だめじゃないけど、住民(じゅうみん)の反応(はんのう)によるんだって。そんなのどうすればいいかわかんないよ。町の人の反応ってどうやって聞けばいいかな。チラシはもう作ったけど、どうすればいいかわかんない。ハァ~。町の人をどうやって説得(せっとく)すればいい?『わたしはビサンです。かべにドアをかきたいんです』って?」とにかく、マナルに会って話すことにした。

scene 09街を行く人にチラシを配る
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とりあえず、マナルと2人でチラシを配る。マンションの郵便(ゆうびん)受けに入れたり、街(まち)を行く人に配ったり。「チラシもらってくれますか。かべに絵をかくイベントを企画(きかく)したので、よかったら来てください」って。「平和や対話や共存(きょうぞん)を、絵で表現(ひょうげん)するんです。よかったら来ていっしょに絵をかいてください。」わたしが歌で有名になる前はだれもわたしの意見を聞いてくれなかった。今日こうして『かべに絵をかこう』ってよびかけても、みんな来てくれるか心配。でも、みんなわたしが歌手だって気づいて話を聞いてくれたの。きっと絵をかきに来てくれる。」

scene 10ジャワリシュへ行くのは心配?
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ママに、「ジャワリシュはどんなとこ?」って聞いた。そしたら、「どんなって…。いろいろ問題があった時期があるのよ。」って。「あっちに遊びに行ってもいい?」って聞いたら、「それは少し心配ね、お母さんとしては。わかるでしょ? それでも最近(さいきん)はかわってきたけどね。前よりずいぶん安全になったわ。」ってママが言う。「マナルのうちに、おとまりに行っていい?」って聞いたら、しばらくだまっちゃった。「それは…」って。だから、「考えといて。」って言っといた。

scene 11みんなでかべに楽しい絵をかいていく
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いよいよかべに絵をかく日。すご~く楽しみ。ずっとこの日を待ってたんだ。きっとうまくいく。最初(さいしょ)の計画とちがってドアの絵をかけないのは残念(ざんねん)だけど。“ドア”って、わたしが思っていることを全部表しているから。でもほかにも表現(ひょうげん)方法(ほうほう)はあるし、今はとにかく絵をかきたい。集まった子どもたちといっしょに、かべに花の絵とか楽しい絵を自由にかいていく。人が集まるのを待ってたら、小さい子のグループが二、三組来たの。そのあと人が次々に来て、30人近い子どもにかこまれた。すごいでしょ。いろんな色をたくさん使って、みんなでかべに絵をかいていく。

scene 12一つひとつ夢をかなえていけば
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一つの夢(ゆめ)をかなえたくて、がんばって行動を起こした。本当はあれで満足(まんぞく)はしてない。でも、絵をかけただけでもよかったよ。次の段階(だんかい)めざしてがんばれば、いつか満足できるかも。――「次はビサンが歌います。タイトルは、『子ども時代がほしい』平和と安全と幸せをねがう曲です。」ライブ会場の司会(しかい)者にそうしょうかいされて、わたしは歌い出した。「♪子ども時代を返してほしい 子どもらしくいさせて 子ども時代を返してほしい…」

scene 13今日はマナルの家でおとまり会!
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今日はおとまり会! 「ねえどこでねるの? どんなおうち?」って聞いたら、「だから居間(いま)があって、それから…ふつうだよ。」ってマナル。あのかべのそばの空き地で、「わたし、絵をかくもの持ってきたんだ。本当にかきたかったものかくの。これチョーク。かこう。」「うん」「ドアかくよ。」「ヘブライ語で『平和』ってかく。」とマナル。「わたしはアラビア語で。遠くからは見えないだろうけど、心にある。」とわたし。それから二人でジャワリシュのマナルの家へ向かう。「いつもこんな歩くの?」「そう」「ねえ、まだ着かないの?」「あせりすぎ。もうすぐだから。」

カラフル!~世界の子どもたち~
とどけ!ビサンの歌声(イスラエル)
私は12歳だけどプロの歌手。私の願いは歌でみんなをつなぐこと。でも、私の町には地域を2つに分ける長い長い壁があって…。