
女の子の王子様と男の子のお姫様のイラスト。「あれ? 逆じゃないの?」と感じた人もいますよね。多くの人が持つそんな視点に苦しんでいる十代がいます。12歳小学生“えがお”さんからのお便り。「劇の役決めで、『王子様やりたい』と友だちに言ったら、『女の子だからお姫様じゃないの? 変!』と言われました」。高橋さんのまわりでも似たようなことありました? 「勝手に“男らしさ”ってこうだと。絵を描くことや本を読むことが好きな子に対して、『男だったら校庭で遊ぶだろ』みたいなのはありましたね」(高橋さん)。今日は、社会に根付いた“女らしさ 男らしさ”がもとになって起こるいじめについて考えます。

千葉県柏(かしわ)市立酒井根(さかいね)中学校1年4組。女らしさ、男らしさをめぐるいじめを防ぐにはどうしたらいいのか、特別授業が行われました。はじめに、NHKに寄せられた十代の悩みについて考えます。11歳小学生「私は男子ですが、動作や考え方が女子に近いので、『お前ホモ! キモッ!』とからかわれます」。16歳高校生「私は女性で、好きになる相手は女性ですが、友人たちはTwitterでさらしたり、バカにしたりします」。こうした悩みについてどう感じるか、話し合いました。

「普通とか当たり前が違うから、自分の普通を押し付けるのは違う」。「そういう人たちを笑う人たちのほうがかっこ悪い」。「今まで周りにそういう人がいなかったからさけるとかいじめるまではいかないけど、あまり近づいてワイワイはいかないと思う」。さまざまな意見が出るなかで先生が見せたのは、女性として生まれ、今は男性として生きる人のインタビューでした。鈴木麻斗(すずき・あさと)さん。ものごころついたときから自分は男だと思っていた麻斗さんは、世間が求める“女らしさ”とのギャップに苦しんできました。

世界が一変したのは、小学5年生のとき。保健の授業で、初潮について初めて教わったときのこと。「男の子はこっちのクラス、女の子はこっちのクラスって分けられるときに、ぼくは男子のクラスに行こうとした。そしたら先生に『鈴木さん、こっちね』って女子のクラスに案内されて、『あれ? 何でオレだけひとりこっちなんだろうな』って。体が女性化していく過程は本当にしんどかった。体が『お前、女なんだよ』って言い聞かせてくるような、心と体が引き裂かれるような感じ」。そうした悩みを抱えていた麻斗さん、次第にいじめの標的になっていきます。

「生理が来てナプキンをポケットに持ってトイレに行くのをだれかに見られたようで、『あいつあんだけ男っぽくしてんのにやっぱ女なんだよ』と言われたり、廊下ですれちがいざまに『死ね』って言われたりするのは日常的に起きてた。『あいつ女のくせしてキモイな』とか化け物あつかいされてましたね。夜、寝るたびに『明日、朝起きて死ねたらいいな』と毎日考えていたときに、ぼくをいじめてたクラスの主犯格4人に学校の屋上に呼び出された。フェンスにバンッて体を押し付けられて、『お前早くここから飛び降りて死ねよ』って面と向かって言われた。『お前の存在が目障りでキモイ』って」。

もし身近に麻斗さんのような人がいたらどうするか、みんなで考えました。「化け物ってさ、人じゃないじゃん。どんな目で見てんだよって感じ」。「いじめ止める?」。「止めるでしょ」。自分がその場にいたら何ができるのか。ある生徒からこんな本音が飛び出しました。「体の性別と心の性別が違うのは悪いことじゃないし仕方ないと思うけど、自分の身近な人が性同一性障害だったら、自分もいじめてしまうかも」。そう答えたのは、あやかさん。どうしてそう思ったのでしょう。「自分が麻斗さんを守っちゃったら、自分がいじめられちゃうかもしれないし、みんなの意見に合わせていじめちゃうかもしれない」。

「あやかさんは正直に話してくれたなって思いますね。そういう自分の考えと向き合うこととか、みんなで話し合うことはすごく大切なことだと思う」(高橋さん)。いじめっ子たちはなぜあんなひどいことをしたのでしょう。「ものごころついたときにはお父さんがいてお母さんがいて、男性がいて女性がいて、それ以外いるわけないじゃないかと思っちゃうんだろうな」。もし身近に麻斗さんのような人がいたらどうすればいい? 「おはよ~って話しかければいいんじゃないかな。普通に友だちと接するように。麻斗さんに話しかける人が増えていったら、ひどいことを言えなくなると思う」。

その後、麻斗さんはどうやってありのままの自分を取り戻していったのか、授業は続きます。「カミングアウトを初めてできたのは、専門学校に入ってから。仲のいいグループが男女半々ぐらいで5~6人いた。女としてもう生きていけない、誰かが自分を認めてくれないとしんどいなっていう時期があって、その子たちは信用できる子だったので、一番に知ってほしいと思った」。友人たちとの旅行先で麻斗さんはついに打ち明けます。

「『実はちょっとみんなに話があってさ』という話をして、『性同一性障害って知ってる? 多分そうなんだよね』って大号泣しながらカミングアウトしたんですよ。そうしたら、『あぁ~、わかってたよ』って言ってくれた。『やっと言ってくれたね』って受け止めてくれて、本当、生きててよかったって思いました。こんな自分をありのまま受け入れてくれる友だちっていいなって。カミングアウトする側は、命をかけてカミングアウトしてる場合が多いんですよ」。

「命をかけてカミングアウトした」。この言葉に反応したのが、あやかさんでした。「ありのままの自分を知ってほしいという思いはどんな人にもあると思うから、命をかけてでも『この仲間には本当の自分を知ってもらいたい』と思ってもらえるような優しい人になりたいと思いました」と言いました。「周りの意見とか偏見とか差別で人を判断していじめたりするんじゃなくて、その人の心の中とか性格も知って、友だちになったり話したりしたいなと思いました」とあやかさん。