『太陽がギラギラ照りつける夏の午後。サッカー少年団(だん)で紅白戦(こうはくせん)をしていたぼくたちに、まさか、あんなことが起こるなんて…』。試合中、次々にグラウンドにたおれる子どもたち。「救急車! 救急車おねがいします!」とさけび、「だいじょうぶか!?」とたおれた子どもにかけよるコーチ。ほかのメンバーや大人たちもあわててかけよります。
この日は、梅雨(つゆ)も明けて、朝から気温がどんどん上がっていました。試合中、「あっつ~」と立ちどまるレオ。「レオ! ボール!」という声がして、急にボールが飛んできました。ボールはレオの頭上をこえていき、そのままレオはしりもちをつきます。「いって~」。チームメイトのユウキが、「なんだよ、もうバテたか?」とレオを引っぱり起こします。ケンタロウもやってきて、「レオはまだ入ったばっかりだもんな」と言いました。おしりのすなをはらい、あせをぬぐうレオ。『この日は、思うように体が動かなくて…』。
ユウキがボールを受け、その横をケンタロウがオーバーラップ。「ユウキ! パス!」。ユウキがパスを出し、ボールを受け取ったケンタロウがシュート! みごとゴール。これで得点は1対0です。「ケンタロウ、ナイス!」。でも、最初におかしくなったのは…。センタリングに合わせて走りこんできたケンタロウが、あきらめたように歩き出しました。すごくつかれているようです。「どうしたの?」と声をかけるレオに、「ちょっとゲームやりすぎちゃって」とケンタロウ。「ねぶそく?」。「うん…」。そのあとも、ケンタロウはパスをもらいますが、受けそこねて相手にとられてしまいます。力が入らないケンタロウ。
「母ちゃんが、朝めし食わないと力出ないぞって言ってたっけな…」とケンタロウ。ねぼうしたから食べてないと言います。「ケンタロウ、足とまってるぞ!」。「おう!」と答えてふらふらと走り出すケンタロウ。『ねぶそくで、朝ごはんも食べていない、つらそうなケンタロウくん』。ケンタロウはひざに手をついて立ち止まってしまいます。「ケンタロウどうした?」。コーチが気づいて声をかけます。すると…。転がってきたボールが二つに見えたケンタロウ、からぶりしてそのままあおむけにたおれました。「ケンタロウ、だいじょうぶか?」。コーチやユウキが助け起こします。ケンタロウは真っ赤な顔で、大あせをかいています。
コーチがケンタロウを木かげにすわらせました。冷たい水をもらってゴクゴクとのむケンタロウ。首のうしろを冷やしてもらい、「はぁ~、気持ちいい」とケンタロウは少し元気になりました。「ケンタロウ、どうしたんだよ」とコーチに言われ、「いやぁ…」と照れ笑い。夜おそくまで起きていたことを白状(はくじょう)すると、「ったく。はは」とコーチも苦笑い。そんなケンタロウの様子を心配そうに見ているレオ。「レオ、行ったぞ!」という声でわれに返ると、相手チームの選手にドリブルでかわされ、そのままシュートでゴール! 1対1。ここで前半が終わりました。『やっと休める』とレオ。
「みんな、ちゃんと水分取れよ!」。コーチがみんなに声をかけました。みんなゴクゴクとドリンクを飲んでいます。ぐったりとベンチにすわっているレオ。『なんだろう? 気持ち悪い…』。コーチが「具合悪いやついるか? いるなら早く言えよ」と言ったので、『あ…』と手を挙げようとします。でも、「ユウキ、休むときは休め」と言われたユウキが、「だいじょうぶです。ケンタロウの分までがんばらないと」と言ったので、何も言えなくなりました。『がんばっているユウキくんを見ると、休みたいとか言えないや』。
後半が始まりました。あいかわらず太陽がギラギラと照りつけています。まだ気分が悪くてうごけないレオ。でもユウキは元気に走り回っています。「あきらめんな! つかれてるのはみんないっしょだぞ!」。ボールをうばい、ヘディングでパスを送り、ドリブルで相手をかわしていきます。『ユウキくんもがんばってるし、ぼくもがんばらないと』。
ところがそのユウキが、頭がいたいのかしきりにこめかみをもんでいます。「ユウキ、だいじょうぶか?」とコーチ。でもユウキは、「だいじょうぶです。ほらみんな、声出せ」と走っていきました。「ぜったい1点取るぞ!」。でも、息があがり、ふらふらしてきました。『そんなユウキくんが…』。ボールを持ったユウキがドリブルで一気に上がっていきます。でも、「え?」。「おい、ユウキ…?」。そしてシュート! みごとなゴール…。すると味方がかけよって言いました。「ユウキ、何やってんだよ。オウンゴールだよ」。ユウキは味方のゴールにシュートしたのです。1対2と逆転(ぎゃくてん)されてしまいました。
ユウキを見ると、なんだかもうろうとしています。「ハァハァ」。息づかいがあらく、ふらふらと歩き出すユウキ。「ユウキくん?」。そしてユウキは足がもつれてたおれこんでしまいました。白目をむいて、体がけいれんしています。おどろいてかけよるコーチ。みんながユウキのまわりに集まったとき、はなれたところでレオもたおれました。『暑いはずなのに、なんだか寒くなってきた。手も自分の手じゃないみたい。あれ? まわりがフワフワしてる…』。一人の子が気づきました。「あ! レオがたおれてる!」。「救急車おねがいします! おいレオ、だいじょうぶか?」。みんながかけよってきます…。