
今回、番組の案内役・濱口優(はまぐち・まさる)さんをスタジオで待っていたのは、シェパードの妙(たえ)ちゃん、3歳(さい)。『命を守るチカラ』。今回密着(みっちゃく)するのは、災害救助犬の現場です。地震(じしん)が起きて建物にとじこめられたとき、あるいは土砂(どしゃ)くずれにまきこまれたとき、すぐれた嗅覚(きゅうかく)でわたしたちを見つけて救助に結び付けてくれるのが、災害救助犬です。その知られざる世界にせまります。

千葉県佐倉(さくら)市のとある農家の倉庫。ここで災害救助犬の訓練が行われていました。妙ちゃんのボスとしてコンビを組むのは、指導手の古川祥子(ふるかわ・しょうこ)さん。「指導手」とは、救助犬を育てて訓練する人。災害が起きたとき、いっしょに出動して捜索(そうさく)の指示を出します。古川さんの本業は、犬のしつけを行う「ドッグトレーナー」。全国にいる災害救助犬の指導手のほとんどは、ボランティアで活動しています。

さっそく訓練スタート。この日行われたのは、建物内捜索(そうさく)訓練。大きな地震(じしん)で建物がこわれたことを想定して、とじこめられた人をさがし出します。はげしくほえているのは、人を発見したという合図。テニスコートほどの広さのある倉庫ですが、「さがせ!」の命令で、たちまちかくれている人を見つけ出します。でもどうやって見つけるのでしょう。災害救助犬が捜索の手がかりにしているのは、人のにおい。はく息や体のにおい、さらに“ラフト”とよばれる、体からはがれ落ちたフケのようなものまでかぎ分けているそうです。

災害救助犬の能力を生かして、古川さんたちはさまざまな災害や山の遭難(そうなん)の現場で救助活動を行ってきました。「犬の体力を考えると、活動できる期間は長くても7、8年。今後、出動はないかもしれないけど、いつか出動することがあれば、生存者(せいぞんしゃ)を一人でも発見できたら本望です」(古川さん)。いつ起こるかわからない災害に備えて、災害救助犬と指導手たちは日々訓練を続けています。

古川さんにスタジオに来ていただきました。濱口さんからいくつか質問です。――災害救助犬は日本に何頭くらいいるんですか。「いろいろな救助犬団体があって、数百頭はいます」。――小型犬でも救助犬になれるんですか。「せまいすきまに入っていくには有利な犬種なので、小型犬でも訓練で救助犬になれます」。――救助犬にむかない犬っていますか。「基本的に、人が大好きでほえることができたら救助犬になれます」。濱口さんが飼っているチワワでもだいじょうぶだそうです。

5月下旬(げじゅん)、まだ雪が残る北アルプス。3000m級の山が連なるこの地域(ちいき)で、大規模(だいきぼ)な訓練が行われました。参加したのは、妙をふくめて7頭の災害救助犬たち。全国から集まりました。今回は、広い範囲(はんい)での捜索(そうさく)訓練。まず、助けを求める役の人が山の中にかくれます。そして1時間後、災害救助犬たちが出発。どこにいるのかさがし出します。倉庫などの限られた空間に比べて、広い山でにおいだけをたよりに人をさがすのはとてもむずかしいのです。

ときには道なき道を進むことも。指導手も大変です。体力や登山の技術もみがきながら、どんな災害にも対応できるよう、このような過酷(かこく)な訓練をしています。連続して捜索(そうさく)できるのは、犬の集中力が続くおよそ20分間。2頭の救助犬がコンビを組んで、交代しながら捜索します。風下から風上へ、捜索範囲(はんい)をしぼりこみながら、けわしい山道に分け入ることすでに3時間。救助犬たちの様子に変化が! 妙も何かをかぎ取ったようです。

「さがせ!」の声で、妙が木々のあいだに走りこんでいきました。古川さんは妙のつなをはなし、あとを追います。すると…、妙がほえ続けています。人を発見したときの合図です。古川さんが現場を確認(かくにん)。遭難者(そうなんしゃ)役の人を発見です。お見事! 「よーし! 妙、がんばった!」と声をかける古川さん。訓練終了(しゅうりょう)です。

濱口さんがもう一つ疑問(ぎもん)に思っていたことを古川さんにたずねます。――災害現場って、レスキュー隊の人とかいっぱい人がいるわけじゃないですか。そのなかから、助けなければいけない人をどうやって見つけるんですか。「元気な人と、そうでない人を見分ける訓練をやってるんです。たおれている人やしゃがんでいる人に反応するように」。すべては訓練のたまものなんですね。

最後に古川さんからのメッセージです。「もし地震(じしん)で建物にとじこめられてしまったときは、まずは自分の身の安全確保。そしてパニックにならず、あきらめないでじっとがまんして救助を待ってください。体力を消耗(しょうもう)しないためにじっとしていることも大切なんですが、災害救助犬はとても嗅覚(きゅうかく)がすぐれているので、じっとしていてくれるほうが、人の呼吸(こきゅう)とか体臭(たいしゅう)などで発見しやすいのです」。動くとかえって見つけにくくなってしまうそうです。合図用の笛なども有効です。パニックを起こさず、安全なところで救助を待ちましょう。