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Scene01 裁判の被告人は猿
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とある法廷で、始まった裁判員裁判。友永啓介たち裁判員は、法廷で見たり聞いたりすることをもとに、このちょっとフシギな裁判の判決を考えなくてはなりません。裁かれる被告人は、猿。硬い青柿をぶつけて、カニを殺した罪に問われています。

Scene02 今回の裁判の争点は?
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猿が犯したとされる罪を、検察官が述べます。「被告人の猿は、何の落ち度もないカニの命を無残に奪いました。事件当時20歳だった猿は、柿を取れずに困っていたカニの親子に出会いました。猿は『自分が取ってやろう』と言って木に登り、熟れた柿を食べつくしました。そのことに、文句を言った母ガニに猿は逆上。まだ青くて硬い柿をしつように投げつけました。何発も直撃を食らった母ガニと幼い娘二人は、体を砕かれ死亡しました。猿は逮捕されるまでの8年間、逃亡を続けました。これは刑法第199条の殺人罪にあたります。そして、この短絡的であまりにも残虐な犯行は、死刑が相当と考えます。」猿は、検察官が述べた内容を全面的に認めました。その上で、弁護人は、犯行に至るまでの猿の境遇に同情の余地があること、猿が十分に反省し更生していることから、「死刑にすべきではない」と訴えます。啓介たち裁判員に突きつけられたのは、猿を死刑にするか、死刑にしないか、ひとつの命をめぐる判断なのです。

Scene03 証人尋問・子ガニ
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検察官は、殺されたカニの長男である、子ガニを証人に呼びました。子ガニは、突然家族を奪われた無念を語ります。「母は、とても優しい人でした。父が亡くなった後も、いつも笑顔で、僕と妹たちを育ててくれました。母と妹たちは、何ひとつ悪いことをしていない!僕は猿を絶対に許しません!」また、事件当時8歳だった子ガニは、母と妹たちが殺される現場を目撃していました。「猿は、『死ね!死ね!』とすごい形相で柿を投げつけていました。僕は怖くて動けなくて、ただ見ていることしかできませんでした…。」事件から8年後、猿の居所を突き止めた子ガニは、臼、栗、蜂、牛のフンを伴い、仇を討とうと猿を襲撃しました。「僕は母たちを見殺しにした自分を責め続けてきました。それを償うためには、この手で猿を殺すしかないと思ってきました。」しかし、子ガニは、自ら手を下すことなく、猿を警察に引き渡した。「殺しきれなかったふがいない自分に代わって、法律が猿に死を与えてくれると信じています。」
つづいて、弁護人が反対尋問を行います。「あなたは、なぜ猿を殺すことができなかったのですか?」子ガニは、自分のハサミを猿の首にかけておきながら、切り落とすことができなかったのです。子ガニは理由を答えます。「家の壁に、猿の子どもが描いた絵が飾られていて…。それを見たら、どうしても猿を殺すことができなくなりました…。」弁護人は、子ガニに尋ねます。「あなたは死刑を望んでいるが、本当は、猿の命を奪ってはいけないと思っているのではありませんか?愛する人を奪われる悲しみを知っているあなただからこそ!」

Scene04 証人尋問・猿の妻
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弁護人は、猿の妻を証人に呼びました。事件の少し後に夫と出会った妻は、事件のことは何も知らされていませんでした。「夫は、知り合った頃は口数も少なくてどこか影のある感じでしたが、子どもができてから変わったんです!」傍聴席には、猿の幼い子どもが来ています。「夫は、生まれたばかりのあの子を抱いて、何度も私に『ありがとう、ありがとう』と礼を言いました。優しくて、本当にいい父親なんです…。」妻は、猿がひとりの父親として更生していることを訴えます。そして、弁護人から、猿が、子ガニに対して毎月5万円の仕送りをしていた事実が明かされます。妻は、啓介たち裁判員に訴えます。「夫は本当に後悔しています。ですから、どうか生きて償わせてください!息子から父親を奪わないでやってほしいんです!」
反対尋問に立った検察官は、矢継ぎ早に、猿の妻に質問します。「あなたは『生きて償わせてほしい』と言いましたが、では具体的にどう償うつもりですか?」「毎月の仕送りも、償いではなく、ただ罪の意識を軽くするために行っていたのではないですか?」「あなたは、猿が後悔していると言いましたが、ではなぜ8年間も身を隠し出頭しなかったのでしょうか?」検察官は、子ガニから家族を奪った罪が償いきれるものではないこと、猿が身勝手であることを訴えていきます。

Scene05 被告人質問・猿
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いよいよ、被告人の猿への質問です。まずは、弁護人から。「あなたは、なぜ面識のなかったカニの親子に殺意を抱いたのですか?」「母ガニに…『ひとでなし』と言われたからです。」猿は、自らの過去を語り始めました。猿が子どもの頃、猿の父親は、母親にひどい暴力をふるっていました。そんな父親に、母親がいつも泣きながら言っていた言葉が「ひとでなし」だったのです。そんな父親を、猿は心から軽蔑し憎みました。しかし、中学に入ったある日、猿は鏡を見て、愕然としました。鏡にうつった自分の姿が、あの父親にそっくりだったのです。「父のようになってしまうのではないか、強い恐怖を抱きました。でも、父のようになりたくないと思えば思うほど、仕草も言葉づかいも似てくるんです…。そんな自分自身に耐え切れなくなっていきました…。」猿は追い詰められていたのです。続いて、猿は、事件当日のことについて話します。「あの日、当時交際していた女性と、ちょっとしたことで口論になりました。その時、つい手を上げそうになったんです…。その瞬間、私は『父になってしまった』と思いました。震えが止まらなくなりました…。」そんなときに、猿は、カニの親子に出会ったのです。「幸せそうなカニの親子がいらだたしくて、木に登り柿を食べつくしました。そしたら、怒った母ガニに…言われたんです。」その一言が、猿が一番言われたくなかった、「ひとでなし」だったのです。猿がその時の気持ちを、涙声で語ります。「私の中で何かが切れてしまいました。『だまれ!だまれ!』という気持ちで柿を投げ続けました。それだけは、認めたくなかったんです!本当に…申し訳ありませんでした!」猿は、子ガニのほうを向きなおり、深々と頭を下げました。
検察官が、反対質問を行います。「あなたは、父親に似ていく自分に嫌悪感を感じて追い詰められていたのかもしれない。しかし、そんなことは、カニの家族にとっては何の関係もないことです。母ガニの何気ない一言に逆上したあなたは、硬い柿をしつように投げ続けた。ひとつは、胸を貫通し、ひとつは目をそぎ、体は粉々に砕けました。さらに、あなたは、母ガニのそばに、幼い子どもたちがいたこともわかっていましたね?つまり、あなたは、逃げようとした幼い子どもたちまでもねらった!ただ、自分の気持ちを静めるためだけに!」そして、最後に、検察官は問いかけます。「命ってそんなに軽いものですか?」猿は、何も答えることができません。

Scene06 最終弁論
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最後に、検察官と弁護人がお互いの意見を述べ合います。検察官は、「猿は、極めて残虐な方法で、親子3人の命を奪いました。しかも、その動機は、あまりに自己中心的です。遺族の処罰感情も強く、もはや死をもって償うしかありません!」と訴えます。一方、弁護人は「本件は、精神的に追い詰められた末の衝動的な犯行であり、計画性はありません。さらに、猿は十分に反省し、一人の父親として更生しています。これらは、死刑を回避するのに十分な理由です。命を奪った罪は命でしか償えないものでしょうか。猿は生きて償うべきです!」と訴えます。
猿を死刑にするか、死刑にしないか。啓介たち裁判員は、ひとつの命をめぐる判断をくださなければなりません。

昔話法廷
「さるかに合戦」裁判
猿が、カニに硬い青柿を執拗に投げつけ死亡させた事件。罪を認める猿に、検察官は死刑を求刑。弁護人は、猿が改悛している点などを主張し、「生きて償うべきだ」と訴える。

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