あらすじ一覧

ペチのまなざし【節度・節制】

オープニング

『もやモ屋』。それは、まぼろしの映画館(えいがかん)。みればみるほど、頭はモヤモヤ、心もモヤモヤ。さあ、ごらんあれ!

scene 01下校とちゅうで見かけた犬

マイコがミノリとユキと下校のとちゅう、石段(いしだん)のところで一ぴきの犬を見かけました。首輪(くびわ)をしていて、ちぎれたくさりがつながっています。「かい犬だよね。まいごになったのかな」。「すてられちゃったとか」。マイコは「おまわりさんに知らせたほうがいいんじゃない?」と言いました。犬は石段をおりて森のほうへ歩いていきました。「こっちです」。三人がおまわりさんをつれてきました。森の入り口まで来ましたが犬のすがたは見えません。「たしかに首輪はついていたんだよね? のら犬かもしれないから、近づかずに、また見かけたらすぐにれんらくしてね」とおまわりさんが言いました。

scene 02保健所…殺処分?

「もし犬が見つかって、かい主が見つからなかった場合、犬はどうなるんですか?」。石段(いしだん)を引き返しながらマイコがたずねました。おまわりさんは、「動物愛護団体(あいごだんたい)や保健所(ほけんじょ)にれんらくだね」と言います。「保健所…それって、殺処分(さつしょぶん)ってことですか?」とユキ。「いちがいには言えないね」とだけ言って、おまわりさんは行ってしまいます。マイコはふりかえって森を見つめますが、すぐにその場を立ち去りました。『何日かたち、犬のことをちょっとずつわすれていった』。

scene 03アナウンスをほめられた

「下校の時間となりました。みなさん、どんな一日をすごしましたか?」。校内放送のアナウンスしているのは放送委員のマイコです。「帰り道は、うかれず、さわがず、わき見せず、まっすぐ帰宅(きたく)しましょう」。すると、「だいぶうまくなったね」とせんぱいのアキバさんが声をかけました。「うかれず、さわがず、わき見せずって、マイコさんが考えたの? いい感じ」。そして、「そろそろ、マイコさんにまかせようかな。水曜と金曜、朝と帰りの放送」と言ってくれました。「本当ですか?」。「このげんこうを持って帰っていいから練習して。おもしろい放送、期待してる」。「はい、がんばります!」とマイコ。

scene 04あの犬を追って森の中へ

「寒い朝がつづきますね。今月はあいさつ月間です…」。マイコが石段(いしだん)にすわって、放送げんこうを読む練習をしています。ふと見ると、石段の下にあの犬がいました。石段をのぼってゆっくり近づいてきますが。とちゅうで立ち止まりました。「どこに行ってたの?」とマイコが声をかけると、犬はクルッと向きをかえ、石段をおりて森のほうへかけだしました。思わずあとを追うマイコ。森の中で犬を見うしないますが、歩いていくと木立が開けたところになぜかソファが一つあります。そのうしろから、木の枝(えだ)をくわえた犬が出てきました。

scene 05「ペチって名前にしよう」

犬はマイコのところにやってくると、ポトッと枝を落としました。その枝(えだ)を拾い上げて、遠くに投げるマイコ。すると犬は走っていって枝をくわえてもどってきました。「よーし、いくよ!」。マイコはまた枝を拾って遠くに投げました。『前は無愛想(ぶあいそう)に見えた犬が…今はむじゃきでかわいい』。遊んだあと、マイコと犬はソファにすわりました。「ペチ。ペチって名前にしよう。ね」。頭をなでながらマイコが話しかけると、ペチもじっとマイコを見上げました。

scene 06朝一番に森のペチのところへ

「行ってきまーす」。朝、家を出るとマイコは急いで森にやってきました。ソファにペチがぽつんとすわっています。ふと気配を感じてかけだしました。やってきたマイコにうれしそうにとびつくペチ。「おはよう、ペチ」。マイコは家から持ってきた朝のおかずののこりをやりました。ペチはむさぼるように食べています。「おなかへったよね」。マイコとペチは、また森の中をかけまわって遊びました。「ペチ、おいで」。ペチはちゃんとマイコのあとをついて歩きます。ペチをだきしめるマイコ。「学校終わったらまた来るから」。そう言って学校へ向かいます。

scene 07朝の放送にちこくしてしまった

マイコが走って学校にやってきましたが、「もうすぐ朝休みが終わります…」と朝の放送が流れていました。放送室にかけこむマイコ。「すみません。おくれました」。「ちこくって、放送委員がいちばんやっちゃいけないことだよ」。そう言ってアキバさんは行ってしまいます。『しばらく森へは行かないと決めた。それなのに、行かずにはいられなかった』。森でペチに給食(きゅうしょく)ののこりを食べさせるマイコ。「ほら見て、パンだよ」。森の中を歩くマイコとペチ。ペチをギュッとだきしめて、マイコは帰っていきます。『わたしをじっと見ている気がした』。マイコはふりかえらずに歩いていきました。

scene 08まよい犬のはり紙…

休み時間、ユキが教室にかけこんできました。「見てこれ!」。それは、まよい犬のはり紙でした。ミノリが、「これって、あの犬? だよね!」と言います。写真の犬はペチそっくりです。「やっぱりかい犬だったんだよ。名前は『花丸』だって」とユキ。「かい主さんにれんらくしよう」とミノリが言いますが、マイコは「これ、あの犬じゃないよ。耳がちがう」と言いました。「えー? そっくりだけどな」とユキ。「土曜日、ひさしぶりに森に行って犬さがししない?」とミノリ。「おまわりさんにも声かける?」。「だね。マイコも行くよね?」と言われ、「行かない」とマイコは教室を出ていきました。

scene 09首輪をつけかえるマイコ

下校時間。マイコは放送室の前を通りすぎていきます。森に着いたマイコはペチの首輪(くびわ)をはずし、「これ、プロミスリングだよ。ずっといっしょにいるって約束(やくそく)」と、持ってきた首輪につけかえました。そのとき、急に雨がふってきました。マイコとペチは森の木の下で雨宿り。「ペチ、寒い? でも、この景色(けしき)見てるの、世界中でペチとわたしだけなんだよ」。マイコの気持ちは、モヤモヤ…。校内放送が聞こえてきます。「下校の時間になりました…」。マイコ自身の声です。「わたしは…わたしは、放送委員の活動をさぼってペチに会いにきました。ペチに会いたかったからです。わたしは…」。

scene 10「いつもわたしだけを見つめるから」

マイコが目をさましました。『雨にぬれたせいで、夜から熱(ねつ)が下がらない』。カレンダーを見ると土曜日です。「つかまっちゃう…行かなきゃ…」。ふらふらしながら森へ向かいます。そのころ…。「花丸?」。ソファにいたペチにおまわりさんが声をかけ、ペチをほごしました。「よかったぁ」とユキとミノリ。そこへマイコがふらふらとやってきました。「つれてかないで。おねがい…」。そう言って力なくしゃがんでしまいます。「マイコ!」。マイコは立ち上がり、ペチに近づきながら、「ペチとわたしはずっといっしょにいるの」と言います。「ね、ペチ」。マイコはペチにほほえみかけました。「いつだってわたしを、わたしだけを見つめるから」。ペチはキョトンとマイコを見ています。