あらすじ一覧

いしをつむ【希望と勇気、努力と強い意思】

オープニング

『もやモ屋』。それは、まぼろしの映画館(えいがかん)。みればみるほど、頭はモヤモヤ、心もモヤモヤ。さあ、ごらんあれ!

scene 01「うよはお」

「おはよう」。歩道橋を下りてきた加藤(かとう)と陽斗(はると)があいさつをかわします。川ぞいの土手の道で童夢(どうむ)が追いついてきて声をかけました。「うよはお」。加藤が「え?」と聞き返すと、「う、よ、は、お」とゆっくり言う童夢。「あ、『おはよう』か」と陽斗。「うよはお、むうど」と、さかさことばであいさつを返します。看板(かんばん)の注意書きを一気にさかさ言葉で読む童夢。「いさだくでいなつでドーリずらなか!(かならずリードでつないでください)」。「うお~!」と感心する二人。「ろだーげす(すげーだろ)」。三人はわらいながら土手の階段(かいだん)を走り下りていきます。

scene 02石をつんで「こんう、しるし」

すると、加藤がつまづいて転びそうになりました。加藤はすぐ横にあるものを見つけ、「うっ、犬のこんう!」と大声で言います。「きたねっ」と言う陽斗に、「ねたき」と言い直す童夢。童夢は河原(かわら)の石をひろって犬のふんのそばにおきました。「いなぶあ。しるし」。陽斗も石をひろってきて、「こんう、しるし」と石を重ねます。石のしるしをそのままにして、「ぜうこい」と三人はかけていきました。そんな様子を遠くで見ていた小太郎(こたろう)が近づいてきました。石のしるしに気づき、自分も石を一つつみ重ねました。

scene 03つみ上げられた石が何本も

「うよはお!」。土手の上で童夢が加藤と陽斗に声をかけました。「なうろやムーゲでとあのーカッサたしあ」と言いながら河原(かわら)へ下りていく三人。きのうの石のしるしのところに行ってみると、石のしるしがふえています。ふしぎなバランスでつまれた石が何本も立っていました。「がれだ、とこなんこ」。見ると、川べりに小太郎がいました。「小太郎!」とかけよる童夢たち。小太郎は石をくずれないようにつみ上げる作業に集中しています。「になれこ」と聞きますが、小太郎は何も言いません。ふざけあいながら走っていく三人にかまわず、小太郎は石をつんでいます。

scene 04ロックバランシング?

サッカーの帰り、自転車で土手を走っていく童夢たちが、今日も河原(かわら)で石をつみ上げている小太郎によびかけました。「小太郎! 新しいゲームあるよ。来る?」。小太郎はだまって首をふってしゃがみ、見つけた石をうれしそうになでています。河原でテレビゲームをしていた童夢と陽斗に、「ねぇねぇ、小太郎がやってたのって、これじゃない?」と加藤がスマホの画面を見せます。それは、『ロックバランシング』といって、しんじられないようなバランスで石をつみ上げていくすご技(わざ)をしょうかいした動画でした。つみ上げた石を見て、「うぉ~!」と声を上げて感動する童夢たち。

scene 05ロックバランシングをやってみた

童夢たちが、小太郎といっしょに河原(かわら)で石を集めてロックバランシングをやってみています。「はぁ、もうあきた。はらへった」と加藤。すると童夢が「できた!」と言います。見ると、石を4つつみ上げていました。「おぉ~」。「まぁ、こんなもんだろ」。「童夢はいいなぁ。何でもできちゃう」とうらやましそうな陽斗。と、そのとき、「ピーッ」と音がして、葉っぱのお面をつけた子が遠くに見えました。「颯太(そうた)、何それ?」。にげていった颯太をみんなで追いかけます。つかまえた颯太のポケットから、陽斗が取り出したのは…。「どんぐり?」。

scene 06どんぐりぶえを作って鳴らすと

「どんぐりの頭を、こうやってこすって」。颯太がどんぐりをコンクリートにこすりつけます。颯太がけずったどんぐりを下くちびるに当てて強くふくと、「ピーッ」と鳴りました。みんなやってみます。加藤も陽斗も「ピーッ」。でも童夢は「フー」。うまく鳴りません。「あれ? フーッ。フーッ」。むきになった童夢が思いっきり息をすいこむと、「ハクション!」。くしゃみが出てみんなにわらわれてしまいました。「ピーピー」。颯太を先頭に四人がどんぐりぶえを鳴らしながら歩いていきますが、童夢だけはかすれて音が出ません。

scene 07どんぐりぶえを投げすてた

次の日。加藤と陽斗がいつものように歩道橋を下りてきて、「ピーッ」と、今日はどんぐりぶえであいさつ。川ぞいの土手の道でも、颯太がどんぐりぶえを「ピーッ」と鳴らすと、加藤と陽斗もどんぐりぶえをふきながらかけてきました。童夢もやってきますが、やはりふえは鳴りません。颯太を先頭に河原(かわら)へ下りていく四人。河原ではあいかわらず小太郎が石をつんでロックバランシングに取り組んでいます。そんな小太郎のうしろを通りすぎながら、童夢は「あきた」と、どんぐりぶえを投げすてました。

scene 08今日は四人で石切り

また次の日。「せーの!」。童夢たち四人が川に向かって石切りをしています。童夢の石がいちばん長く水面を切ってとんでいきました。ふと対岸を見ると、小太郎がまた石をつんでいます。小太郎の顔ほどもある大きさの石を拾い上げ、だいじそうになでてうれしそうです。

scene 09紙ひこうきが石に当たって

「せーの!」。童夢たち四人が河原(かわら)で紙ひこうきをとばして遊んでいます。小太郎はやっぱり今日も石をつんでいます。童夢の投げた紙ひこうきが小太郎に向かってとんでいきました。「あっ」。ひこうきは小太郎がつみ上げた石に当たり、石がくずれてしまいました。くずれた石をしばらく見ていた小太郎は、だまってそのまま行ってしまいます。くずれた石を見つめる童夢。見ると、颯太と陽斗は紙ひこうきを丸めたボールで野球をして遊んでいます。「あーぁ、紙ひこうきの時代も終わりか…」と加藤。

scene 10きのうのことをあやまったのに

朝早く、童夢が一人で河原(かわら)に下りていくと、もう小太郎が来ていて、石をつんでいました。「おはよう。 こんなに早く来てると思わなかった」。童夢が声をかけますが、小太郎はだまって石をつんでいます。「あ、おれさ…きのう…」とポケットから取り出した石を小太郎にさしだす童夢。石には『ゴメン』と書かれています。小太郎はその石を見てもだまっています。童夢はその石を川に投げ入れて立ち去ろうとします。でも、モヤモヤ…。立ち止まった童夢が言いました。「おまえさ、なんでまだやってるわけ?」。「…」。小太郎はだまって石をつんでいます。

scene 11ふしぎなバランスで立つ石が…

「あきないの? だれかにほめられたい?」。「…」。「おれがすぐできちゃったから、むきになってるとか? そうなんだろ? 負けたくないからだよな?」。「…」。「なんでずっと石つんでんだよ!」。「…」。小太郎は何も言わず、自分の頭ほどの石をのせようとしています。しずかに手をはなしました。その大きな石がいちばん上にふしぎなバランスで立ちました。ほほえんで両手を広げる小太郎。童夢はハッとします。それは、両手を広げた人のようにも見えたのです。小太郎がうれしそうに童夢を見ました。するとそのとき、石はくずれてしまいました。また石をつみ始める小太郎。童夢は立ちつくしたまま、じっと小太郎を見つめています。