あらすじ一覧

scene 01三十一音の短い詩

「真砂(まさご)なす数なき星のその中に吾(われ)に向かひて光る星あり」――夜空を見上げると、砂(すな)のように、数え切れないほどのたくさんの星。そのなかに、わたしに向かって光っている星がある。…これは、明治時代の正岡子規(まさおか・しき)という人の作品です。短歌とは、五・七・五・七・七の三十一音でつくられる、日本独特(どくとく)の短い詩です。今日は、明治時代から現代(げんだい)までによまれた短歌をいくつかしょうかいしましょう。

scene 02与謝野晶子の情熱的な短歌

明治時代を代表する歌人、与謝野晶子(よさの・あきこ)。古い考え方にとらわれず、自分に正直に生きた人です。大阪に生まれ育ちましたが、家出をして、すきな人のいる東京に行きました。そして、その人と結婚(けっこん)をして、情熱的(じょうねつてき)な短歌をたくさんのこしました。

scene 03その子二十歳…

「その子二十歳(はたち)櫛(くし)にながるる黒髪(くろかみ)のおごりの春のうつくしきかな」――その少女は、今二十歳。櫛でとかしている黒髪は、つややかに流れている。青春時代をほこらしげにすごすそのすがたは、本当に美しい。

scene 04新しい短歌の世界

日本人は、はるか昔から短歌をよみつづけてきました。その多くは、季節(きせつ)の美しさや恋心(こいごころ)をうたったものでした。明治時代、世の中のしくみや人々の考え方が大きく変化(へんか)しました。短歌の世界でも、新しいタイプの作品が次々と誕生(たんじょう)しました。そして、自分自身の生き方や心のゆれを見つめる歌が数多くよまれるようになりました。

scene 05生活のまずしさをうたった石川啄木

石川啄木(いしかわ・たくぼく)は、生活のまずしさやつらさをうたった短歌で知られています。岩手県に生まれ、文学者としての成功(せいこう)を夢(ゆめ)見て、二度にわたり東京に出てきました。ところが、志(こころざし)をはたすことはかなわず、27歳(さい)のわかさで短い生涯(しょうがい)をとじました。

scene 06ふるさとの山に向かひて…

そんな啄木が故郷(こきょう)への思いをよんだ歌。「ふるさとの山に向かひて言ふことなしふるさとの山はありがたきかな」――ふるさとの山に向かうと、さまざまな思いがこみ上げて、言葉が出てこない。ふるさとの山は、そこにあるだけで、ぼくの心をささえてくれるようだ。なんとありがたいのだろう。

scene 07みちのくの母のいのちを…

明治が終わり、大正時代になりました。国の経済(けいざい)が発展(はってん)し、個人(こじん)の自由や平等をもとめる考え方が広がりました。そんななか、自分が見て感じたままをすなおに表現(ひょうげん)する短歌が数多く生まれました。「みちのくの母のいのちを一目(ひとめ)見ん一目みんとぞただにいそげる」(斎藤茂吉:さいとう・もきち)――ふるさとの母に命があるうちに、ひと目でいい、ひと目でいいから会いたいと、ただただ、先を急いでいる。

scene 08今の時代の短歌

時代はさらに進み、平和でゆたかな世の中になりました。短歌の世界では、ふだん話すときの言葉がたくさん使われるようになりました。最後(さいご)に、今の時代の短歌を二首しょうかいします。とくに解説(かいせつ)はしません。そのままの言葉で、十分何かがつたわるはずです。

scene 09「寒いね」と話しかければ…

「『寒いね』と話しかければ『寒いね』と答える人のいるあたたかさ」(俵万智:たわら・まち)。

scene 10校庭の地ならし用の…

「校庭の地ならし用のローラーに座(すわ)れば世界中が夕焼(や)け」(穂村弘:ほむら・ひろし)。