あらすじ一覧

走れメロス(太宰治)

オープニング

(オープニングタイトル)

scene 01正義感の強い若者メロス

小説『走れメロス』の舞台は、紀元前のギリシャ時代、イタリア南部のシチリア島にある都市です。ここに伝わる古い伝説が物語のモチーフになっています。主人公は、村で羊を飼って暮らしている若者メロスです。人一倍正義感が強く、人を疑うこととうそをつくことを何よりも嫌っています。物語は、メロスが40km離れた町を訪れる場面から始まります。妹の結婚式のための買い物が目的でしたが、もう一つの楽しみは、親友セリヌンティウスとの2年ぶりの再会でした。

scene 02暴君が治める町

ところが、訪れた町は以前に比べすっかり活気を失っていました。不審に思ったメロスは道で老人をつかまえ、理由を問いただします。人を信じられない王が、妹むこ、自分の子、妹、妹の子と、次々に人を殺していることを知ったメロスは激怒。親友のセリヌンティウスを訪ねることも忘れ、王を暗殺しようと、たった一人で城に乗りこみます。しかしたちまちとらえられ、王の前に引き出されてしまいます。

scene 03太宰治の異色の作品

この物語の作者は太宰治(だざい・おさむ)。昭和の初期から戦後にかけて活躍した作家です。人間の弱さやみにくさを描くことが多かった太宰が、『走れメロス』を発表したのは30歳のとき。正義や友情をテーマにしたこの物語は、異色の作品といわれています。

scene 04親友を人質にしたメロス

とらわれたメロスは、妹の結婚式を挙げるために、処刑の前に三日間の自由が欲しいと王に申し出ます。しかし王は、帰ってくるわけがないと、とりあいません。そこでメロスが人質として差し出したのが、親友のセリヌンティウスでした。セリヌンティウスは、メロスが帰らなければ身代わりに殺されるという立場を突然知らされます。王の前で、メロスから事情を聞いたセリヌンティウスは無言でうなずき、メロスをひしと抱きしめます。

scene 05最大の敵、自分自身の弱さ

無言でとらわれ、待つ身となった友セリヌンティウス。一方、メロスは自由の身となり、城をあとにします。メロスは40km離れた村にもどり、大急ぎで妹の結婚式を挙げました。そして再び、友が待つ城をめざします。期限はあとわずか。日が沈むまでにもどらなければなりません。しかし、荒れくるう川、おそいかかる山賊(さんぞく)、行く手をさまざまな障害がはばみます。そして暑さと疲れが限界に達したとき、最大の敵が現れます。それは、自分自身の弱さでした。力尽きたメロスは、走ることをあきらめかけます。

scene 06太宰が『走れメロス』にこめた思い

太宰治は、100を超える作品を残して、38歳で亡くなりました。今も、太宰の作品は数多くの読者の共感を呼んでいます。人間の心の弱い部分や暗い部分を描きつづけた太宰は、この『走れメロス』に、どんな思いをこめたのでしょうか。研究者によれば、正しいものへのあこがれだという見方の一方で、正義をふりかざす人間への屈折(くっせつ)した思いだというとらえ方もあります。正しいもの、まっすぐなものに対する複雑な気持ち。それが、この作品を生み出したのです。

scene 07メロスの再起

自分に負けそうになっていたメロス。しかし、再び力をふりしぼり、セリヌンティウスが待つ城をめざして走りつづけます。日没まであとわずか。王に殺される、ただそのためだけにメロスは走りつづけます。そして日没直前、間一髪、城にかけこみました。再会を果たした二人の友。メロスは、途中、一度だけ友の信頼を裏切りかけたことを告白し、涙をうかべながら、「わたしを殴れ」と言います。

scene 08友との再会と抱擁

すべてを察したセリヌンティウスは音高くメロスのほおを殴りました。すると今度はセリヌンティウスが、三日間に一度だけメロスを疑ったことを告白します。「君がわたしを殴ってくれなければ、わたしは君と抱擁(ほうよう)できない」と言うセリヌンティウスを、メロスは腕にうなりをつけて殴ります。そして二人は同時に「ありがとう、友よ」と言い、ひしと抱き合い、うれし泣きに泣いたのでした。