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おはなしのくにスペシャル「幸せとは?」(30分)

プロローグ

「もうすぐ一年のしめくくり。ほんとうにいろんなことがありましたね。みなさんにとって、どんな一年になりましたか? そして、どんなことに幸(しあわ)せをかんじましたか?」〔語り手:安藤サクラ(あんどう・さくら)さん〕。――「今夜(こんや)は、みなさんにとくべつにおとどけしたいお話(はなし)があります。幸せとはなんでしょう? そのヒントが見つかるかもしれません」〔語り手:古川雄大(ふるかわ・ゆうた)さん〕。

scene 01『幸福の王子』

町を見わたす高台(たかだい)。風見鶏(かざみどり)の家(いえ)のちかくに、その王子のぞうは立っていました。全身(ぜんしん)を金ぱくでおおわれ、ひとみにはブルーのサファイアが二つ。そのすがたを見ると、人々は幸せな気もちになるので、「幸福(こうふく)の王子」とよんでいました。〔語り:古川雄大(ふるかわ・ゆうた)さん〕

scene 02王子のぞうの足もとにとまったツバメ

「今夜(こんや)はここでひと休みだ」。冬(ふゆ)のおとずれをかんじはじめたあるばん。一羽(いちわ)のツバメが王子のぞうの足もとにおりたちました。「このけしきが気に入った」。そのときでした。ポツン、またポツンと、しずくがおちてきました。ふと王子のぞうを見上げたツバメは、「もしかして、ないているのか?」とびっくり。すると王子のぞうが、「♪幸福の王子とよばれ なにひとつ不自由(ふじゆう)なく生きてきた なのにここに立ち いま目にするのは しらなかったかなしみ 見えなかったくるしみ わたしの心(こころ) なまりでできた心さえも はりさけてしまいそう」とうたったのです。

scene 03赤いルビーをあの親子にとどけてほしい

王子がツバメにいいました。「ごらん。よこたわる男の子が見えるかい? あの子はねつを出して、もう何日(なんにち)もくるしんでいる。母親(ははおや)はつかれた顔(かお)をしているだろう。家(いえ)はまずしくて、薬(くすり)をかうこともできない。だから、たのみがある。わたしのけんについた赤いルビーを、あの親子にとどけてほしい」。そういわれ、「ぼくが? ぼくはここでひとやすみしたいだけなんだ」とツバメ。でも王子のうたをツバメはふとおもいだします。「♪わたしの心(こころ) なまりでできた心さえも はりさけてしまいそう」。そしてしかたなく、「いちどだけなら」とツバメはいいました。

scene 04「さむいのに心も体もあたたかい」

ツバメは、赤いルビーをくちばしでつかむと、夜空(よぞら)にはばたきました。「王子からのおくりものだよ」。ツバメは、男の子のほてった顔(かお)に気づくと、つばさでやさしくあおぎました。…「ふしぎだな。外(そと)はさむくなってきたのに、心(こころ)も体(からだ)もあたたかい」。王子のところにもどってきたツバメがつぶやきました。すると、「きっとそれは、きみがいいことをしたからだ」と王子の声(こえ)がしました。「え?」と王子を見上げたツバメ。王子の気もちがわかったような気がしました。

scene 05ひとみのサファイアをやせた青年に

つぎの日。ツバメが南(みなみ)の国(くに)へと旅(たび)立とうとすると、「おねがいだ。あとひとばんだけここにいてほしい。こんどは、わたしのひとみのサファイアをとどけてほしい」と王子がいいました。「ひとみ?」とおどろくツバメ。「ほら、あそこにやせた青年がいるだろう。かれはものがたりをかいて人にゆめをあたえる、きぼうの光。でも、お金がなくてもう何日(なんにち)もたべていない。わたしはかれにもういちどものがたりをかいてほしいんだ」。ツバメはおもわずいいました。「だからって…、ひとみをとるなんてできない」。すると王子は、「わたしには、もう一つのひとみがあるさ」といいました。この日、ツバメは王子のそばをはなれませんでした。

scene 06ひとみのサファイアをマッチうりの少女に

「さぁ、たのんだよ」と王子。ツバメは、王子の青いひとみをしずかにとりはずすと、青年のもとへとどけました。よろこぶ顔(かお)を見るのはうれしい。でも、ツバメは冬(ふゆ)をこすことができないのです。「これいじょう、ひきとめてはいけないとわかっている。だから、さいごのねがいだ。ふんすい広場(ひろば)でマッチをうる少女(しょうじょ)に、このひとみをとどけておくれ」。「そんなことしたら!」。でも、ツバメはわかっていました。少女がうりもののマッチを水たまりにおとしてしまい、ないていることを。「これでわたしはもう、なみだをながすこともない」。王子の目からなみだが一つぶ、ながれおちました。

scene 07「体の金ぱくをはがしてくばっておくれ」

ツバメは、青くかがやく宝石(ほうせき)を少女(しょうじょ)のかごに入れました。そして、つめたい風(かぜ)をきってとびさりました。「王子、ぼくが王子のひとみになるよ!」。ツバメは、町をとびまわり、目にした人びとのようすを王子につたえました。「そのこまっている人たちに、わたしの体(からだ)の金ぱくをはがしてくばっておくれ」。ツバメは、一まい、また一まいと金ぱくをはがしては、こまっている人にとどけました。

scene 08はいいろになってしまった王子

やがて、金ぱくはすべてはがれ、王子は、はいいろになりました。「むかし、わたしがぶとう会(かい)でおどっていたころ、わたしは、かなしみやくるしみをしらず、なみだをながしたこともなかった。幸せだとおもっていた。けれど、いまのわたしにとって、ほんとうの幸せというのは…」。そのときです。バシッ! 王子の顔(かお)に石があたりました。「こんなうすよごれたどうぞう、とりこわしてしまえ!」。石をなげつけたのは、とおりすがりの男でした。

scene 09王子とツバメにえいえんの命を

とうとう雪(ゆき)がつもりました。ツバメは、ひっしに体(からだ)をあたためようとします。でも、ふるえはとまりません。「王子…おわかれのときがきた」。王子を見上げてツバメがそういいました。そして王子の「…ありがとう」ということばをきくと、ツバメはゆっくりと目をとじ、しずかに雪の中にたおれこみました。ピシッ! パキーン! 王子の心(こころ)は、まっぷたつにわれました。天使(てんし)たちは、われた王子の心と、つめたくなったツバメを、天国(てんごく)にはこびました。「この世(よ)でいちばんとうといもの、それらにえいえんの命(いのち)をさずけよう」。

scene 10幸せとは? ショートストーリー(1)

そしてここに、ツバメのように町を飛びまわる一人の青年。加藤大雅(かとう・たいが)さん、大学一年生。自転車に乗って、一般のお宅へ配達にやってきました。「デリバリー三鷹(みたか)です」。お金を渡しながら、「すごく助かる。わたし仕事してるじゃない。ありがとう」と感謝するお客さん。「なかなか駅のほうまで自分では買いに行けない方とか、足が不自由で外に出られないとか、そういう方でも、ふだん行けないお店のごはんが食べられる」と加藤さん。

scene 11楽しみにしていたキャンパスライフが

加藤さんは、東京都三鷹市が運営しているフードデリバリーサービス『デリバリー三鷹』の配達員。ここの配達員はみな、新型コロナウイルスの影響でアルバイト先が見つからず困っている地元の学生たちです。52人の学生たちが毎日町を駆け回っています。「年代も近い人が多いし、仲間が増えたというのもよかった」。楽しみにしていたキャンパスライフ。しかし、想像もしなかった日々を、今、過ごしています。「7月くらいまでは、ずっと家にいて、家族との会話しかない状況で、すごいストレスも感じていましたし、せっかく大学に入ったのに大学生感がない。楽しもうっていうのが楽しめなかった」。

scene 12「何かやることがあること」

地元の飲食店を助けることにもなるフードデリバリー。週に二日のアルバイトは、加藤さんにとって大切な時間です。「はい、こんにちは。どうもありがとうございます。ご苦労様でした」(お客さん)。「またよろしくお願いします」。そんな加藤さんに、『幸せとは?』と聞いてみました。「何かやることがあることですかね。このバイトに入って、いろんな人と触れ合えたり、いろんなことが学べたり、やれることがあるっていうのが、地域のためとか自分のためとか自分が何かできることがあるのを感じられた」。

scene 13幸せとは? ショートストーリー(2)

「足踏み式の消毒液スタンドを作っています」。滋賀県に住む馬場拓海(ばんば・たくみ)さん、中学三年生。ペダルを踏むと消毒液が出るスタンドを、一から手作りしました。「最初はちょっと幅が狭かったので、足が入りやすいように改良して作りました」。どうして作ろうと思ったのかというと…。「消毒液のボトルは、スーパーなどでもいちばんみんなが手で押して使うものなので、それに抵抗を感じているのかなと思ってこのスタンドを思いつきました」。

scene 14手を触れずに使える消毒液ボトルを

消毒液のボトルをさわりたくなさそうにしている人を見かけたのがきっかけ。幼いころからものづくりが得意だった拓海さん。すぐに製作にとりかかりました。「どうやったら強度が高くなるかというのをずっと考えながらしているので、そこがいちばん難しいところです」。何度使ってもこわれないように試行錯誤を重ね、三日かけて完成させました。第一号は草津市役所に寄贈。「触れずにできますから、そのほうがいい」。「足の心地も軽かったし、やりやすかった」。利用者にも好評です。

scene 15「ほかの人の笑顔で自分も笑顔に」

その後、学校でプロジェクトが立ち上がり、さらに20台以上をみんなで製作。学校や地域の病院、市民ホールなどで大活躍中だそうです。「彼は何でもできますよ。実際すごいです」と友人たち。「そんなことないです」と拓海さん。そんな拓海さんに、『幸せとは?』と聞いてみると…。「自分のしたことでほかの人が笑顔になって、またそれで自分が笑顔になって幸せ、という感じです」と言います。「ぼくは将来の夢がエンジニアで、災害支援ロボットや介護ロボットを作って、日本の社会に役立って、いろんな人を笑顔にしていきたいと思っています」。

scene 16幸せとは? ショートストーリー(3)

2010年のクリスマス。群馬県にある児童相談所に、突然、ランドセルが10個届きました。差出人は、漫画の主人公になっていました。「いやぁ、びっくりしましたよ。名前を名乗らないで寄付してくれる。これはすごいなと。子どもたちはとにかく大喜びしましたよ」と、当時の施設長の村田文男(むらた・ふみお)さんは語ります。

scene 17児童養護施設でボランティアを

ランドセルを贈ったのは、当時会社員だった河村正剛(かわむら・まさたけ)さん。河村さんは、仕事を始めてからずっと、児童養護施設でボランティアをしてきました。わけあって施設にいる子どもたちと一緒に過ごす時間を大切にしてきました。「ふだん子どもたちが一列に食堂に集まって、『河村さんありがとうございました』って言うよりも、卒園する子どもたちが最後にポツリと言ってくれる『ありがとう』のほうがなんか心にしみて、自分はボランティアをやってきてよかったなと」。

scene 18「一人でも多くの子どもたちの笑顔」

河村さんが施設に通うようになったのは、自身が幼いころから親と離れて育ったからでした。クリスマスプレゼントももらったことはありません。自分と同じような思いをしてほしくないと、贈り物をするようになったのです。「『まくらもとに置いてあったんだよ』って、すごい笑顔で言っている。それを見たときに、よかったなと」。そんな河村さんの『幸せとは?』。「一人でも多くの子どもたちが笑顔で毎日を送れたらいい。僕にも私にも見守ってくれている人がいるんだよっていうのが、子どもたちの成長には必要」。河村さんは今年も子どもたちのために贈り物を用意しています。あなたは、大切な人にどんな贈り物をしますか?

scene 19『賢者のおくりもの』

もうすぐクリスマス。これは、ニューヨークのかたすみのふるびたアパートにすむ、あるわかい夫婦(ふうふ)のおはなしです。「ほら見て、ジム! リースをつくったの」。「わぁ、きれいにできたね、デラ。ごめんよ、もうすぐクリスマスだというのに、ツリーをかうお金もなくて」。「ううん。これでじゅうぶんよ」。まずしい夫婦の名前(なまえ)は、ジムとデラ。二人にはそれぞれ、とてもたいせつにしているものがありました。〔語り:安藤サクラ(あんどう・さくら)さん〕

scene 20二人がそれぞれたいせつにしているもの

「そろそろ出かけるよ」とジム。「まって、ジム。はい、だいじな時計(とけい)」。たいせつなものの一つは、ジムのおじいさんの代(だい)からゆずられてきた懐中(かいちゅう)時計です。「あ、ひもがちぎれているわ」。「だいじょうぶ。むすべばいいさ」とジム。そして、「あいするデラ。きょうもきみのかみはなんてきれいなんだ」といいました。「わたしのゆいいつのじまんよ。いつもあなたがほめてくれるから」。たいせつなものの二つめはデラのかみでした。「じゃあ、いってくるね」。ジムは出かけていきました。「あぁ、クリスマスにはジムがよろこぶものをプレゼントしたいわ。でも…」とかんがえこむデラ。

scene 21ジムによろこんでもらうために

「…85、86、87。あぁ、もう何か月(なんかげつ)もためてきたのに、たったの1ドル87セント。これでなにがかえるっていうの」。ためいきをつくデラ。「わたしの幸せはね、ジムがわらってくれることなの。はぁ…。どうしてもかれのよろこぶ顔(かお)が見たい」。ためいきをつきながら、なにげなくかみに手をやったデラ。きゅうにおもいついて、かがみの前(まえ)に立ち、かみをおろしました。「わたしがじまんできるたった一つのもの」。デラのかみは、まるでくり色(いろ)のたきのようにうつくしくきらめいていました。なみだをこぼすデラ。でも、「これでジムのえがおが見られるわ」とにっこりわらっていいました。

scene 22たいせつなかみをうってお金に

「ここだわ」。デラがお店(みせ)に入ってきました。「いらっしゃい」。その店はさんぱつ屋(や)さんでした。「あの、わたしのかみをかっていただけますか?」とデラ。「あぁ、かみの毛(け)を。見せてごらん」と店の主人(しゅじん)がいいます。おそるおそるいすにすわってかみをほどくデラ。すると、「んま~! なんてうつくしい!」とおもわずいった主人は、「コホン、20ドルだね」といいました。「ほんとにきってしまっていいのかい?」ときかれ、「…はい、おねがいします!」とデラ。「じゃあ、さっそく」。デラのかみにはさみが入ります。ギュッと目をつぶるデラ。そして…。

scene 23ジムへのおくりものを見つけた!

それからの2時間(じかん)、デラは店(みせ)から店へと、ジムのプレゼントをさがしまわりました。「♪このぼうし、ジェントルマンのジムにぴったりね。♪このコート、せのたかいジムにきっとにあうわ。♪かれがよろこんでくれれば、それいじょうの幸せはないの」。そして、ついに見つけたのです。それは、すっきりとして上品(じょうひん)なプラチナのくさりでした。ながさもジムの時計(とけい)にちょうどよく、これならもうきれることはありません。「これをつければジムの時計がもっとすてきになるわ」。

scene 24みじかくなってしまったかみ…

食事(しょくじ)のしたくができたテーブルに、デラはきれいにつつまれたおくりものをおきました。「あぁ、はやくジムのよろこぶ顔(かお)が見たいわ」。ふと、かがみにうつった自分(じぶん)に気づいたデラ。「でも、このかみ、ジムはなんていうかしら」とつぶやきました。みじかくなってしまったかみをくしでといていると、足音がきこえてきました。「ジムだわ! 神(かみ)さま、どうか、かみをうったことでジムがわたしのことをきらいになりませんように…」といのるデラ。

scene 25ジムからのおくりものは

ドアのあく音がして、ジムが入ってきました。「あっ、デラ…」。おどろいて立ちつくすジムにデラはいいました。「ジム、おねがい。そんなふうに見ないで。わたしね、かみをうってしまったの。どうしてもあなたにプレゼントをあげたくて」。ジムはだまっています。「ねぇ、ジム。いつものように、きれいだねっていってちょうだい。ね?」。するとジムはわらいながら、「デラ、もうかみはないんだね?」といっておくりものをとりだしました。そして、「どんなかみがただってきみはすてきだよ。あけてごらん。なぜぼくがとまどったのか、わかるから」といいました。箱(はこ)をあけるデラ…。「まぁ!」。

scene 26あこがれのうつくしいかみかざり

中には、べっこうでできた、うつくしいくしのかみかざりが入っていました。デラがいつも、まちのショーウィンドウの前(まえ)でうっとりとながめていた、あこがれのくしでした。「うれしい!」と大よろこびしたデラ。自分(じぶん)のかみをさわってみて「あ!」とさけびました。くしをさせるデラのながいかみは、もうありません。「わたしのかみね、のびるのがすごくはやいのよ。きっとすぐにつかえるようになるわ」。ジムをがっかりさせまいとあかるくいうデラ。「そうだ! あなたへのプレゼントも見て!」とおくりものをさしだしました。

scene 27デラからのおくりものは

あけてみたジム、「これは…」。「すてきでしょ? はやくあなたの時計(とけい)につけて見せて」とデラ。するとジムがいいました。「デラ、あの時計はもうないんだ」。「え?」。「きみのくしをかうためにうってしまったんだよ。ぼくもきみにプレゼントをあげたかったのさ」。「ジム…」。「デラ、ぼくたちのプレゼントはしばらくしまっておくことにしようよ。いまつかうにはもったいないからね」とプラチナのくさりを箱にしまうジム。「さぁ、夕食(ゆうしょく)にしよう」。「そうね」。――二人はおろかなことをしたのでしょうか? いいえ。あいてのことをおもっておくりものをした二人は、とってもかしこいのではありませんか? それでは、メリークリスマス!