伊藤沙莉が朗読する『ピノッキオの冒険』。ピノキオは原作では悪ガキだった!
世界中の子どもたちに愛されているピノキオ。ところが原作の「ピノッキオ」はとんでもない悪ガキだった。物語冒頭では作られた途端、父親であるジェッペットの頭のかつらを引っぱってみせる。伊藤沙莉が朗読する。
賢いコオロギに諭されても反抗し、ついには木槌を投げつけるピノッキオ
賢いコオロギに諭されても「なんとでも言えばいいよ、コオロギさん。ぼく、明日、夜が明けたら、ここから出ていこうと決めたんだ」。しまいには木槌をコオロギに投げつけ、頭に当たったコオロギは死んでしまう。
東京外国語大学名誉教授が説く子どものためのピカレスク・ロマン(悪漢小説)の誕生
「説教する相手に対して反抗するピノッキオに当時の子どもたちは強い共感を寄せたのでは。子どものためのピカレスク・ロマン(悪漢小説)が誕生したんです」と東京外国語大学名誉教授・和田忠彦さんは解説する。
強盗、詐欺、児童労働…ピノッキオに襲いかかる混乱期イタリアの貧困
ピノッキオに強盗、詐欺、児童労働など不条理な現実が襲いかかる。「『ピノッキオの冒険』が出版されたのは統一まもない混乱期のイタリア。“貧困”という当時のイタリアが抱えた現実が描かれている」と和田さん。
あやつり人形だけど誰にも操られないのがピノッキオ
「作者のコッローディにしてみれば子どもたちは行儀が良くなくていい。自分の意思で何かを選び、できたばかりの国の言いなりにはならない。つまりあやつり人形だけど誰にも操られないんだよと」
物語のクライマックス、大ザメの腹の中で父ジェッペットと再会するピノッキオ
物語のクライマックス、大ザメの腹の中で父ジェッペットと再会。「とてつもないうれしさに気が変になりそうだった。『ああ!とうさん!とうとう会えた!もう二度ととうさんのそばから離れたりしないから!絶対!』」
海に逃げようと提案するピノッキオに悲し気に言い返すジェッペット
ピノッキオはジェッペットを背負って海に逃げようと提案。だがジェッペットは悲しげに微笑んで言い返す。「1メートルあるかないかのあやつり人形のおまえが力を出したって、わたしを背負って泳いでいけると思う?」
ピノッキオはジェッペットを励まして大ザメの腹からの脱出に挑む
「やってみなければわからないよ。どっちにしても死んで天国にいくのなら、せめていっしょに抱き合って死ぬほうがずっとなぐさめになる。さあ、ぼくの背中にしっかりつかまってね。あとは、ぼくにまかせておいて」
無気力に陥った大人たちに勇気を与える存在としての子ども
「あきらめモードのジェッペットにピノッキオが勇気を与える。統一後の国のあり方に失望して無気力に陥っている大人たち。そういった大人たちに勇気を与える存在としての子どもっていう感じもしますね」と和田さん。
改心して“悪ガキ”から“いい子”に変わるピノッキオ
助かったピノッキオは改心し“悪ガキ”から“いい子”に変わり、こんな生活を送る。「陽がのぼる前に起床し働く」「篭やざるを作って売る」「無駄遣いしない」「夜遅くまで勉強」「服を買うため40ソルド貯金」
ピノッキオは栗色の髪に空色の瞳をした健康で賢そうな人間の少年に変貌
“いい子”になったピノッキオは人間になれることに。「ピノッキオは鏡の前にいって、自分の姿を映してみた。そこにいるのが自分とは思えなかった。栗色の髪に空色の瞳をした健康で賢そうな少年がそこにいた」
かつての自分を見て不思議に思うピノッキオ
ピノッキオは椅子によりかかった木の人形を見る。「頭を片方にかしげ、両腕をぶらんとたらし、足は真ん中でからまって曲がっていた。よくいままでまっすぐに立っていられたものだ、と不思議に思えてくる姿だった」
「本物の人間の男の子になれて、ほんとうにうれしいな!」
ピノッキオは人形を見つめたあと、こうつぶやいた。「あやつり人形だったころのぼくって、なんておかしなかっこうだったんだろう。でも、いまは、こうして本物の人間の男の子になれて、ほんとうにうれしいな!」
“いい子”になっていく過程でピノッキオは何かを失ったのではないか?
「必ずしも一直線の成長物語とは思えない。ハッピーエンドなのか?という疑問が消えない。“いい子”になっていく過程でピノッキオは何かを失ったのではないか。それってとっても切ないなと感じる」と和田さん。
大人が読む「ピノキオ」の原作・伊藤沙莉が朗読!イタリアの名作
100分de名著
児童文学の傑作「ピノッキオの冒険」。"あやつり人形がよい子に生まれ変わる物語”というイメージがあるが、原作は全く違う。ピノッキオは”筋金入りの悪ガキ”、物語の舞台は詐欺や強盗、児童労働が横行する不条理な世界。作者コッローディがメタファーや辛辣な風刺を通して描くのは、社会の「矛盾」とその先にある「希望」。大人だからこそ味わえる奥深いテーマをわかりやすく解説。俳優・伊藤沙莉が朗読(100分de名著)