マルクス『資本論』を岡山天音が朗読し、斎藤幸平が解説
資本主義のメカニズムを分析し警鐘を鳴らした思想家カール・マルクスの代表作「資本論」。俳優・岡山天音さんが朗読し、東京大学准教授・経済思想家の斎藤幸平さんがわかりやすく解説する。
マルクスいわく「資本とは価値増殖の運動」
「資本」の概念は、一般にはお金や企業が持っているビルなどのイメージだ。だがマルクスは「資本とは価値増殖の運動である」と説き、「ゲー・ヴェー・ゲー」という式で資本を表した。
「ゲー・ヴェー・ゲー」で表せる資本。元手で商品を作って元手を増やす運動のこと
ゲーはドイツ語でお金を表すGeld。ヴェーは商品を表すWare。元手となるお金でパンを製造し売ることで元手よりも多いお金(G’)が手に入る。繰り返してお金が増えていく運動がマルクスの言う資本だ。
アマゾンの創業者ジェフ・ベゾスは世界一の資産家になってもビジネスをやめない
「価値が増える運動にはゴールがない。アマゾンの創業者ジェフ・ベゾスは世界で初めて保有資産2千億ドルに到達したがビジネスをやめない。資本主義は膨張が止まらず、世界中を飲み込んでマーケットを拡大していく」
「資本の力が人間の意識を離れて働かせ続けるのが資本主義の恐ろしさ」と斎藤幸平さん
「個人がどう思おうと関係ない。資本の力が人間の意識を離れて働かせ続けるのが資本主義の恐ろしさ」と斎藤さん。「価値は、それが価値であるがゆえに価値を生む、という神秘的な性質を受け取った…」
剰余価値とは資本家の利益。なぜ労働者は働きすぎてしまうのか?
なぜ労働者は働きすぎてしまうのか。1日1万円で雇われている労働者が8時間労働で産む価値が1万6千円だとすると差額の6千円は資本家の利益になる。労働者の賃金を超えたこの差額をマルクスは剰余価値と呼んだ。
長時間労働させて利益を追求する資本家をマルクスは吸血鬼と呼んだ
資本家がこの利益を増やす一番簡単な方法は、同じ給料で労働者を長時間働かせて剰余価値を増やすこと。いかに長く働かせ価値を搾取できるか、利益の追求に捉われていく資本家をマルクスは吸血鬼と呼び批判した。
マルクス「労働の生き血を求める吸血鬼」
「自然日の限界を超えて夜間にまで労働日を延長することは労働の生き血を求める吸血鬼の渇きをどうにか鎮めるだけである。一日の二十四時間全部の労働をわがものにすることが、資本主義的生産の内在的衝動である」
ロンドンの女工は過酷な条件下で長時間労働を強いられ命を落とした
ロンドンの婦人服工場に勤めるメアリー・アン・ウォークリーは過酷な条件下で長時間働かされ命を落とした。「必要な空気の三分の一も与えないような一室に三〇人ずつ入って、二六時間半休みなく働き…」
ブラック企業という言葉が浸透、現代の日本社会もマルクスの時代と変わらない
「この例は現代にも当てはまる。日本社会で長時間労働による過労死の問題が増えている状態はマルクスの時代と変わらない。ブラック企業という言葉が社会現象になっていることからも分かっていただけるんじゃないか」
労働者が逃げたり抵抗したりできない理由は“2つの自由”
労働者が逃げたり抵抗したりできない理由は2つの自由だとマルクスは考えた。1つ目は自分の労働力を誰に売るかの自由。もう一つは生産手段からの自由で、生きていくために必要な手立てを持っていないということだ。
自由ゆえの恐怖・自負・責任感が労働者を過酷な労働に縛り付ける
「自由な労働者は自らの必要に駆られて労働する」。仕事を失ったら生きていけないという恐怖。自発的に選んだという自負。職責を全うしなければという責任感。過酷な労働に縛り付けるのは二つの自由だったのだ。
現代日本には資本主義に都合のいい働かせ方がまん延している
「資本主義のもとでだけ人間はこんなに働くようになる。資本をどんどん増やすのにいちばん都合のいい働かせ方がこの社会ではまん延してしまっている」。わたしたちはどうすればよいのか。マルクスの答えは?
マルクスの答えは「労働時間の短縮」。富の観点を変えれば豊かな社会に移行できる
「自由を勝ち取るには労働時間を短縮すること。週休3日6時間労働で週末は家族や友人と過ごしても、十分生活できるならそっちの方が豊かじゃないか。富の観点から豊かな社会に移行できるとマルクスが教えてくれる」
過労死警告!マルクス『資本論』岡山天音が朗読、斎藤幸平が解説
100分de名著
資本主義に警鐘を鳴らした思想家カール・マルクスの代表作「資本論」。その内容は現在の日本にも見事に当てはまる。ブラック企業・格差・過労死…なぜ私たちは長時間働かなければならないのか?行き過ぎた資本主義の問題点と限界とは何か?目指すべき本当に豊かな社会とは?とっつきにくい内容を東大准教授の斎藤幸平さんがゼロからわかりやすく解説。俳優・岡山天音さんが朗読(100分de名著)