三木清『人生論ノート』…80年前に刊行されたロングセラー哲学書
今から80年前に書かれた哲学書、三木清の『人生論ノート』。三木は幸福や死、孤独、希望など私たちが生きる上で大切な問題を考察した。怒りと憎しみ、虚栄心、嫉妬など私たちを苛む情念についても取り上げている。
哲学者・岸見一郎が解説~負の感情を否定しなかった三木清
哲学者・岸見一郎は「我々が生きる妨げになるようなマイナスの感情を、三木は完全に否定はしていません」と解説する。なぜ三木は負の感情を否定しなかったのか。その一つ「虚栄心」について見ていく。
虚栄心は人間の存在そのもの~我々は虚栄心とどう付き合えばよいのか
「虚栄は人間の存在そのものである」と三木は書いている。人間は不安や恐れから目を背けるために、自分以上の自分を作りだす。自分をより高めたいという思いも虚栄心。我々は虚栄とどのように付き合えばよいのか。
虚栄心と付き合うキーワードは「仮面」と「贅沢」
三木は虚栄心と付き合うには「1:虚栄を徹底する」。仮面を被り続ければ、それが本性になる「2:虚栄心を小出しにする」。ささやかな贅沢やお洒落をすることで、日常生活で少しずつ満足することを説いている。
虚栄心と付き合う最大のキーワードは「創造」
そして最大の鍵は「3:創造によって虚栄を駆逐する」ことだと三木は説いている。「創造とはフィクションを作ることである。人生とはフィクションを作ることだと言ってるわけです」と岸見さんは説明する。
他者の評価でなく自分の意志で人生を創造していくのは虚栄心でなく向上心
「人は他人の評価や目を絶えず気にするけど、その気持ちから作られる人生は虚栄。そうじゃない人生がある。他者の評価ではなく自分の意志で人生を創造していけば虚栄を駆逐できる。これは虚栄心というよりは向上心」
「嫉妬は常に陰険で、悪魔に最もふさわしい属性である」
一方「嫉妬」についての三木の評価は「嫉妬には天真爛漫ということがない。(略)愛は純粋であり得るに反して嫉妬は常に陰険である。嫉妬こそ(略)悪魔に最もふさわしい属性である。」
愛と嫉妬は他の情念よりも長続きして人間を苦しめる
愛と嫉妬は似ている。他の情念よりも長続きして人間を苦しめる。愛があるからこそ想像力が働き、嫉妬が生まれる。嫉妬には出歩いて家を守らない特徴がある。嫉妬が想像力を働かせて私たちの心を忙しくしてしまう。
嫉妬には平均化を求める傾向がある
嫉妬の対象は地位の高い人や幸福な人だが、より平均化を求める傾向があると三木は説く。「自分を高める建設的な努力をしないで相手の価値を貶めようとするということですね」と岸見さんは説明する。
嫉妬をなくすには個性を認めること
「嫉妬をなくすには個性を認めること。自信がないから嫉妬するが、この自分を認めることで他者も認められ、嫉妬という感情を乗り越えられる。自分を変えようとする努力をやめたときに変われているといっていい」
三木清『人生論ノート』虚栄心・嫉妬、負の感情をコントロール
100分de名著
「怒」「孤独」「嫉妬」「成功」など誰もがつきあたる人生の問題に、哲学的な視点から光を当てて書かれた「人生論ノート」。「幸福」とは何かを考え抜いた三木清はその中で、誰もがふとした瞬間に陥ってしまうマイナスの感情とうまくつき合う方法についても提示している。80年以上ロングセラーを続け、今の時代にも通じる三木の洞察を読み解きながら、人生をより豊かに生きるヒントをわかりやすく解説。(100分de名著)