お札になる渋沢栄一が説く長続きする商売の秘けつの一つは「道徳」
新一万円札の顔になる日本資本主義の父・渋沢栄一が説く長続きする商売の秘けつとは…? 富の永続に欠かせないのが「道徳」。一度限りの詐欺のようなビジネスは永続せず、社会の継続的な発展も危ぶまれる。
「国が富むためには道徳も欲望も必要だと渋沢栄一は考えた」と作家・守屋淳
一方で経済は「儲けたい」という欲望があって前進する。「渋沢は『欲望を抱き続ける』という言い方をしています。道徳と欲望、対極の原理をバランスするために両者の強みと弱みを見抜こうとした」と守屋淳さん。
『論語』には時代遅れな考えもある。男尊女卑を否定しようとした渋沢栄一は…
論語は道理にかなった教えが説かれているが、中には時代遅れのものも。現代では男尊女卑ととられる価値観は過去のものにしなければならないと考えた渋沢は、算盤の立場から男女同権を唱える。
男女同権の必要性を国益という算盤から唱えた渋沢栄一
「女性にも男性と同じ国民としての才能や知恵、道徳を与えれば、国民のさらに半分を活用できることになるではないか。これこそ、大いに女性への教育を活発化させなければならない根源的な理屈なのだ」
算盤が生み出す「貧富の差」の問題を渋沢栄一は自らの事業で解決
一方、算盤の短所は「貧富の差」を生み出すこと。この問題に対する答えを渋沢は自らの事業で示してみせる。500もの会社の経営や設立に関わっていた渋沢は、同時に600もの公益的な社会事業に取り組んでいた。
渋沢栄一が力を注いだ養育院が議員たちの意見で廃止決定
中でも最も長く関わったのが、身寄りのない子どもや収入のない人を支援する養育院。1883年、議員たちが「養育院に入る怠け者の保護にお金を使っても意味がない!」と言い出し、最終的に廃止が決定してしまう。
養育院を自分で運営、経済合理性の行きすぎを「論語」の価値観で救う
これに憤慨した渋沢「では、自分で経営します!」そうたんかを切り、バザー開催や寄付を募るなど、自ら資金を調達して運営を続ける。「算盤」に含まれる経済合理性の行きすぎを「論語」の価値観で救おうとした。
渋沢栄一の思想の先にあったのは現代に通じる多様性ある社会
渋沢の思想が行き着くのは多様性ある社会。まじめに道徳を守る貧しい人を算盤の価値観だけで評価すると負け組。事業が社会に役立っていても私利私欲でビジネスをしている人を論語の価値観だけで評価すれば金の亡者。
対極にあるふたつの価値観を混ぜ合わせるから多くの人を抱え込める
しかし、一元的評価だけでは社会は豊かにならない。対極にあるふたつの価値観を混ぜ合わせ、不純にしているからこそより多くの人を取りこぼさず、抱え込める。ここに対極を両立することの深い意義があるのだ。
多様性・ダイバーシティ…新しいものを引き受ける考え方が『論語と算盤』にはある
「いま多様性とかダイバーシティとかいわれている。いろんな価値観があって、そのごった煮を包み込むことで新しいものができあがる。新しいものを引き受ける考え方として『論語と算盤』は必要なのでは」と守屋さん。
渋沢栄一『論語と算盤』が教える多様性・ダイバーシティな考え方
100分de名著
新一万円札の顔になる、日本資本主義の父・渋沢栄一。今私たちが生きているこの社会システムは、150年前に渋沢が築いたと言っても過言ではない。彼の思想や信念の根幹を記した「論語と算盤」によると、彼が目指したのは「公益」と「私利」という対極にある価値どうしの折り合いをつけることだった。彼独自の思考法をわかりやすく解きほぐしていくと、これからの多様性ある社会へのヒントも見えてくる!?(100分de名著)