宇宙とは何か・究極の問いに挑む大実験T2K~東海村からスーパーカミオカンデへ
宇宙とは一体何か。究極の問いに挑む大実験が行われている。茨城県東海村にある世界一流の加速器で素粒子ニュートリノを打ち出し、300km離れた岐阜県神岡町のスーパーカミオカンデで観測する。その名もT2K。
宇宙誕生から1秒間の大きな謎
実は宇宙誕生から1秒間の世界には大きな謎がある。物質が誕生した時、物質を鏡に映したような性質を持つ反物質も同じ数だけ存在したとされる。物質と反物質がぶつかると、光となって消えてしまう性質がある。
なぜ我々物質は消滅せずに残ったのか? 現代物理学では説明できない難問
しかし同じ数だけ誕生した物質と反物質が次々とぶつかっていくと、結果的に宇宙には何も残らないはず。なぜ物質だけが残って、我々が存在しているのか?このことを現代の物理学では説明できないという。
3種類あるニュートリノに、どう変化するのかを観測
T2K実験で目指すのは、ニュートリノ振動を使って物質と反物質の差を証明すること。実験ではミューニュートリノ、タウニュートリノ、電子ニュートリノという3種類の状態にどう変化するのかを観測する。
ニュートリノと反ニュートリノの振動を比較
さらにニュートリノの反物質である反ニュートリノの振動と比較する。この2つが同じ性質なら同じタイミングで変化していくはず。しかしもし違いが見つかれば、それこそ物質と反物質との差を証明することにつながる。
東海村のJ-PARCから300km離れたスーパーカミオカンデに
東海村の加速器施設J-PARCで陽子を光の速さの99.95%までに加速。それを炭素の塊にぶつけると、炭素の原子核が壊れ、大量のニュートリノが生まれる。それをスーパーカミオカンデに打ち出すのだ。
ミューニュートリノがカミオカではどう変化するか
東海村から打ち込むのは黄色で表したミューニュートリノ。カミオカに届く時に他の状態にどんな割合で変化しているかを調査。J-PARCでは装置の磁気的な性質を変えることで反ニュートリノも人工的に作り出せる。
T2Kで物質と反物質の違いを捉えた可能性が!
そうして測定したところ青色の電子ニュートリノへの変化で2.4%のわずかな違いが判明。つまりこの振動パターンの違いという、物質と反物質の差を捉えた可能性があり、その確からしさはおよそ95%。
人類史上初の成果として科学誌「ネイチャー」の十大発見にも選出
この結果は人類史上初の成果として科学誌「ネイチャー」の2020年の十大発見にも選ばれた。「粒子と反粒子の違いが見え始めてワクワクするような状態ですね」とT2K実験実験代表、東北大学教授・市川温子さん。
宇宙誕生から1秒間の謎に挑む大実験T2K・東海村から神岡町へ
サイエンスZERO
宇宙はどのように誕生したのか?そんな究極の問いに挑む実験が日本で行われている。茨城県にある世界トップクラスの加速器で素粒子ニュートリノを人工的に作り出し、300キロメートル離れた岐阜の「スーパーカミオカンデ」で観測するもの。挑むのは宇宙誕生から1秒間の世界。理論的にはこのとき生まれる物質は「反物質」と衝突して全て消えてしまうはずなのに、物質でできた我々は存在している。この大きな謎の解明を目指す大実験に迫る。(サイエンスZERO)