熱帯から極地まで哺乳類の進出を可能にしたおっぱい=母乳
母乳、いわゆるおっぱいを与えて子供を育てる営みは哺乳類が持つ最大の特徴だ。熱帯から極地まであらゆる場所への進出を可能にしたのが、生息環境や子育てスタイルに応じて最適な成分に進化したおっぱいなのだ。
母乳の成分研究30年・世界から様々なおっぱいが集まる帯広畜産大学
帯広畜産大学の研究室ではおっぱいの成分を分析する研究を30年以上続けている。浦島匡教授の研究は牛のおっぱいの分析から始まり、現在では世界中から様々な哺乳類のおっぱいを集め、研究している。
母乳の成分の割合は動物の種によって驚くほど異なる
おっぱいは母親の血液中の栄養と水分を乳房の中にある乳腺に取り込んで作るもの。主な成分は水分、糖、タンパク質、脂質と、どの動物でも共通しているが、割合は動物の種によって驚くほど異なることが分かってきた。
タテゴトアザラシのおっぱいはクリームのようにどろどろして脂質が高い
クリームのようにどろどろしているのはタテゴトアザラシのおっぱい。牛と比較すると、栄養分が牛は1割ほどなのに対し、アザラシは7割に近く、その大半を脂質が占めている。なぜ濃く脂っぽいおっぱいを出すのか?
寒さに耐えるタテゴトアザラシには皮下脂肪が必要
その答えはタテゴトアザラシが暮らす環境にある。カナダなど寒い地域の海に生息し、赤ちゃんは海に浮かぶ氷の上で生まれる。寒い環境で体温を保ち、その後の水中生活に耐えるためには分厚い皮下脂肪が必要だ。
授乳期間わずか2週間、おっぱいだけで体重は10kgから40kgに
授乳期間はわずか2週間。生まれたとき10kgほどの赤ちゃんはおっぱいだけで40kgまで成長する。「皮下脂肪を急速に蓄えなければいけないニーズ、生存戦略に基づいて脂っこいミルクが出ると考えられている」
キリンのおっぱいがサラサラなのは水分補給源だから
一方、サラサラしているのはキリンのおっぱい。アフリカの草原で暮らすため、水分の補給源としても重要。授乳期間は300日ほどもあり、急激に体を大きくする必要がない。そのため栄養分はアザラシの9分の1。
ヒトのおっぱいはウシに比べて糖が多い
それでは、私たち人間のおっぱいはどんな特徴を持つのか。成分をウシと比べると、水分と栄養分の割合はほぼ同じだが、栄養分の内訳が異なる。ヒトのおっぱいはウシに比べて糖が多く、60%を占めている。
おっぱいは住む環境や子育ての方法に合わせたオーダーメードの飲み物
哺乳類の中でも特別大きな脳を持つヒト。脳が著しく発達する赤ちゃんは、大量のエネルギーを脳で消費するため糖を多く含むと考えられる。おっぱいは住む環境や子育ての方法に合わせたオーダーメードの飲み物なのだ。
おっぱい=母乳の成分の違いで分かる哺乳類たちの生存戦略
サイエンスZERO
熱帯から極地まであらゆる環境に生息する哺乳類。それを可能にしたのが母乳、いわゆる「おっぱい」で子育てするという戦略だ。研究者たちはいま、謎に包まれていた液体に大注目!動物によって最適な成分に変化した“オーダーメード”のおっぱいを分析し、種ごとの生存戦略を解き明かしている。哺乳類の神秘・おっぱいを科学の目でひもとく!(サイエンスZERO)