台風予測の最前線・研究者たちが台風の目に突入して直接観測!
毎年のように日本を襲い、被害をもたらす台風。研究者たちは航空機で台風の目の中に突入して直接観測し、予測の精度を上げる挑戦を始めている。日本に近づきつつある超大型台風を2日に渡って観測する予定だ。
台風の目の周辺から観測を始め、徐々に中心部へと
最初は安全のため台風の目には入らず、目の周辺にドロップゾンデという観測装置を投下し、気圧・気温・湿度・風速を測定する。台風の中心部に徐々に近づいてきた。窓の外は厚い雲に覆われている。
雨が強くないエリアを見つけて台風の目に突入を決断!
台風の目を取り囲む壁雲と呼ばれる部分の中に雨が強くないエリアがある事に気づいた琉球大学理学部・山田広幸准教授。「ここだったら入っていけるのではとパイロットに話をしたら、いけそうだ、やってみようと」
台風の目の中は研究者たちが初めて目撃する世界
数分後、ついに台風の目に入った。厚い雲を抜けた先は研究者たちが初めて目撃する世界。遥か下には海が見える。球場のスタンドのように広がる壁雲の構造も確認できた。「本当に全身鳥肌が立つ、そういう瞬間でした」
驚きの観測結果・衛星画像による推定と実測で10hPaもの違いが
投入したドロップゾンデが台風の状況を1秒ごとに送信してくる。その結果は研究者を驚かせる内容だった。衛星画像から推定される中心気圧は935hPaだが、ドロップゾンデの実測値は926と大きく違っていた。
台風の目が小さくなっているのに勢力は強まっていない?
次の日の衛星画像を見ると目が小さくなっていた。一般に目が小さくなれば勢力は強まるため、915hPaまで中心気圧が下がり、台風が強まったと推定された。ところが実測値では929で勢力は強まっていなかった。
台風の強さを決める暖気核の実測値は1日目と2日目でほとんど変化なし
その理由もドロップゾンデの計測で分かった。台風の強さを決めるのが目の中の暖気核といわれる温度の高い領域。1日目と2日目のデータを重ねて比較すると暖気核の勢力はほとんど変わっていないことが分かったのだ。
雲で台風の目が小さくなったように見えただけ
ではなぜ目の大きさが変わったのか。撮影した写真にその鍵が写っていた。ひさしのような雲が台風の目を隠すように覆い被さったことで衛星から目が小さくなったように見えていたのだ。
台風の目は神々の領域「自然の凄さを感じた瞬間でした」
「入った瞬間自分たちは足を踏み入れてはいけないところに入ったんじゃないかという、神々の園と言いますか、まさに自然の凄さを感じた瞬間でした」と名古屋大学宇宙地球環境研究所・坪木和久教授。
台風の目に研究者たちが突入し直接観測!台風予測の最前線
サイエンスZERO
毎年のように台風に襲われ被害を受ける日本。進路の予測は向上したが、中心気圧や風速など「強度」の予測には課題がある。そこで研究者たちは航空機で台風の目の中に突入する直接観測に挑戦。予測の向上につながる気圧データの取得や、台風中心部の未知のメカニズムを発見するなど次々と成果を上げている。さらに将来の「スーパー台風」に備えて台風を人工的に制御しようという研究も。台風予測の最前線に迫る。(サイエンスZERO)