三四郎は上京する途中で女性に「同じ宿に泊まりたい」と言われる
小川三四郎は、東京帝国大学へ進学するため九州から上京する。途中、名古屋で1泊しようとした三四郎は、汽車の中で眼に着いていた一人の女性から「ひとりでは心細いので同じ宿に泊まりたい」と声をかけられる。
動転する三四郎に女性は「あなたは余っ程度胸のない方ですね」
泊まった部屋には布団が1組しか無かった。動転した三四郎は布団で壁を作り言い訳を並べ立てながら別々に就寝、何も起きず夜が明けた。別れ際に女性は言う。「あなたは余っ程度胸のない方ですね」
阿部公彦が読み解く「三四郎は蚊帳の外」
「三四郎」を読み解くポイントは「何時の間にか」という言葉にあると英文学者の阿部公彦は語る。「三四郎は蚊帳の外にいて気がつくともう出来事が進行している。それが三四郎自身の世界とのつきあい方を示している」
三四郎は恋する女性に「ストレイシープ」と呟かれる
三四郎は美禰子という女性に恋をする。一緒に「菊人形」見物に出かけ、気分が悪くなった美禰子と2人きりになるが、気の利いたことが言えない。美禰子は迷子の英訳として「ストレイシープ」という言葉をつぶやく。
三四郎は読者が共感し、応援したくなる主人公
「美禰子っていう人は常に暗号めいた言葉でしゃべる。三四郎は反応できず、考えている暇に世界はどんどん動いていってしまう。読者は共感して背中を押したくなる。三四郎はいろいろな意味で読者が応援したくなる人」
美禰子に初めて行動を起こす三四郎だが…
三四郎は美禰子に会いに行き、初めて行動を起こす。「本当は金を返しに行ったのじゃありません。あなたに会いに行ったんです」。だが美禰子の反応はない。「三四郎は出だしのままで終わり、成長したとは言えない」
夏目漱石が伝えたかったのは「世界と出会う瞬間の鮮烈さ」
夏目漱石がこの小説で伝えたかったのは「世界と出会う瞬間の鮮烈さ」と阿部は解説。「この時代は日本そのものが近代国家の仲間入りをしようとしていた時期。これから何かが始まるぞというわくわく感も感じられる」
「三四郎」明治の文豪・夏目漱石が代表作で伝えたかったこと
100分de名著
夏目漱石の代表作「三四郎」。主人公の小川三四郎は、ちょっと独特な持ち味があり、ついつい応援したくなる。九州から上京するときにたまたま出会った女性からは、「あなたはよっぽど度胸のないかたですね」と言われ、東京で恋をした女性には、「ストレイシープ。解って?」という言葉を残される。三四郎の初々しい体験や未知なる世界との出会いから、日本の「近代」を読み解く。(100de名著)