『伊勢物語』から在原業平の人生を高樹のぶ子が読み解く
『伊勢物語』は125のエピソードと和歌で構成された現存する最古の歌物語。主人公は平安時代の歌人・在原業平ではないかと言われる。波乱万丈だった業平の歌から見える人生を作家・高樹のぶ子が読み解く。
皇族を外された業平は后候補の高子と禁断の恋に落ちる
祖父・平城天皇の失脚で業平も皇族から外される。恋多き男として知られる業平は17歳年下の后候補・藤原高子との禁断の恋に落ちる。ふたりは駆け落ちするが、高子の兄たちに連れ戻され、業平は都を追われてしまう。
東下りの途中に業平が詠んだ「かきつばた」の超絶技巧
業平は京から東へ下る。かきつばたが咲き乱れる中、詠んだ歌がある。「からころも着つつなれにしつましあればはるばる来ぬる旅をしぞ思ふ」高子を思って詠んだこの歌に隠された超絶技巧、気づいただろうか?
男性も魅了する業平、惟喬親王はその場で着物を脱ぎ…
男性である惟喬親王も業平に魅了された一人。第一皇子でありながら天皇への道を奪われ、29歳の若さで出家している。親王に会うため、雪深い地を訪ねて歌を詠む業平に、親王は着ていた着物をその場で脱いで贈った。
50歳を過ぎた業平は母親となった高子と再会する
高子が天皇と結婚、子を生んだ後、業平は再会を果たす。50歳を過ぎた業平は蔵人頭に任命され、死の間際まで高子を支えたとも考えられる。「ちはやぶる」で始まる歌は高子への賛美であり、百人一首にも残っている。
高子が業平をいたわる歌も『古今和歌集』に
高子が業平を思い詠んだ歌も『古今和歌集』に残っている。「雪のうちに春はきにけりうぐひすの氷れる涙いまやとくらむ」。業平の人生を慰め、いたわり、感謝の気持ちを込めた歌だと高樹は解釈する。
業平晩年の歌に込めた平安のみやび
禁断の恋に都落ち、激動の人生を生き抜いたみやびな男・業平が晩年に詠んだ歌がある。「思ふこと言はでぞただにやみぬべきわれとひとしき人しなければ」。全部わかることを目指さないのが平安のみやびかもしれない。
業平は悲嘆もせず絶望もせず、死さえも軽やかに受け止めた
伊勢物語最終段には業平が自らの死を悟ったような歌が収められている。「つひに行く道とはかねて聞きしかど昨日今日とは思はざりしを」。業平は悲嘆も絶望もせず、ありのまま軽やかに受け止めて56歳で亡くなった。
『伊勢物語』在原業平のみやびな生き方を髙樹のぶ子が読み解く
100分de名著
現存する最古の歌物語「伊勢物語」。成立年も作者も不詳とされているが、六歌仙の一人である在原業平が主人公ではないかとも言われている。波乱万丈の人生を送った在原業平が詠んだ歌から見えてくるものとは?"みやび"に生きた業平を通して、現代人へのメッセージを読み解く。(100分de名著)